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2022年10月03日

糖尿病の人は「胃がん」リスクが高い 胃カメラ検査は効果が高い 定期的な検査が大切

 胃カメラによる胃内視鏡検査は、胃X線検査よりも、胃がんによる死亡を抑制する効果が高いことが、日本人8万人超を対象とした調査で示された。

 胃内視鏡検査は、胃がん死亡リスクの低下、および進行胃がん罹患リスクの低下に、それぞれ関連があることも示された。

 胃カメラ検査であれば、自覚症状のない早期の胃がんを発見できると考えられている。しかし、以前の検査の苦しさやつらさから、検査を受けるのをためらう人も少なくない。

 今回の研究は、そうした人に検査を受けることを促すものだ。胃カメラ検査を受けやすいように、痛みなどに配慮した方法や技術も開発されている。

糖尿病の人は胃がんのリスクが高い

 胃がんは、大腸がんに次いで日本人が多くかかるがんだ。とくに糖尿病の人はがんのリスクが高いことが知られている。JPHC研究のこれまでの報告によると、糖尿病のある人はそうでない人に比べ、胃がんの発症リスクが男性で1.23倍、女性で1.61倍に上昇する。

 原因として考えられるのは、糖尿病の人は膵臓から分泌されるインスリンの作用が不足している場合が多いこと。それを補うためにインスリンが多く分泌される高インスリン血症や、IGF-I(インスリン様成長因子1)の増加が生じ、これが腫瘍細胞の増殖を刺激して、がん化しやすくなっている可能性が指摘されている。

 胃がんは、早くみつかれば治せる可能性の高いがんだ。そのためには、胃がんを早くみつけるための検査を受けることが重要になる。

 日本では、「対策型検診」の胃がん検診として、胃X線検査と胃内視鏡検査が実施されている。対策型検診は、集団全体の死亡率を減少することを目的に、公共的な予防対策として行われる検診。

 厚生労働省は、市町村が行う胃がん検診について、胃部X線検査(バリウムを飲んで行うレントゲン検査)、または胃内視鏡検査(胃カメラによる検査)のいずれかを、50歳以上の人を対象に、2年に1回行うことを推奨している。

胃カメラ検査は本当に効果があるかを検証

 しかし、日本人を対象に、胃内視鏡検査が胃がんによる死亡を減少させるかどうかを検証した調査は少なく、胃内視鏡検査と胃がん死亡・罹患との関連を明らかにする必要があった。

 そこで、大阪大学や国立がん研究センターなどの研究グループは、5年間隔で実施された2回のアンケート調査により、アンケートから1年間さかのぼった過去に受診した胃X線検査と胃内視鏡検査の状況について調べた。

 「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で、国立がん研究センターを中心に実施されている多目的コホート研究。20年以上にわたり、追跡調査が行われている。

 研究グループは、1995年1998年に岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎、大阪の10保健所に在住していた、がんの既往のない45~74歳の男女8万272人を2015年まで追跡して調査した。胃内視鏡検査による胃がん検診と、胃がん死亡・罹患との関連を調べた。

関連情報

胃内視鏡検査は胃がん死亡リスクの低下、進行胃がん罹患リスクの低下と関連

 アンケート結果にもとづき、▼胃X線検査を受けた人、▼胃内視鏡検査を受けた人、▼いずれの検査も受けていない人の3グループに分け、その後の胃がんによる死亡・罹患を比較した。中央値13年の追跡期間に、1,977人が胃がんと診断され、うち783人が胃がんにより死亡した。

 解析した結果、胃がんによる死亡リスクは、胃がん検査を受診していない人に比べ、胃X線検査を受けた人で37%、胃内視鏡検査を受けた人で61%、それぞれ減少した。どちらの検査も効果はあったが、胃内視鏡検査はとくに効果が高いことが明らかになった。

 また、進行胃がんの罹患リスクは、未受診の人に比べ、胃X線検査を受けた人で12%、胃内視鏡検査を受けた人で22%、それぞれ減少し、やはり胃内視鏡検査の効果が高いことが示された。

胃X線検査、胃内視鏡検査と胃がん死亡リスクとの関連
胃内視鏡検査を受けた人では胃がんによる死亡リスクが61%減少

出典:国立がん研究センター、2022年

胃内視鏡検査は胃がんによる死亡を抑制する効果が高いことを確認

 今回の研究から、胃内視鏡検査は、胃がん死亡リスクの低下、および進行胃がん罹患リスクの低下に、それぞれ関連があることが示された。また、胃内視鏡検査は、胃X線検査よりも、胃がんによる死亡を抑制する効果が高いことが示唆された。

 この結果は、アジア地域で実施された複数の研究結果をまとめたメタアナリシスと同様の結果になった。

 「研究では、胃内視鏡検査を受けた人では、進行胃がんの罹患リスクが統計学的有意に低くなっていました。これは、胃内視鏡検査により、前がん病変をがんに進行する前に切除できたためと考えられます」と、研究グループでは述べている。

 一方で、胃内視鏡検査により、早期胃がん(上皮内胃がん)の罹患は増加した。この結果は、胃内視鏡検査により、早期胃がんをより早い時点で発見するために、受診直後の罹患リスクが一時的に増加するためと考えられるという。なお、このリスクの上昇が過剰診断かどうかを区別するためには、より長期の観察が必要としている。

 なお、今回の研究では、胃X線検査や胃内視鏡検査を受けた人には、より健康意識が高い人が含まれていた可能性があること、アンケート回答による自己申告のため、胃X線検査や胃内視鏡検査を受けたかどうか正確ではない可能性があること、今回の研究では測定できていない要因や未知の要因が存在していた可能性があることを限界点として挙げている。

 「胃内視鏡検査による胃がん検診の有効性については、今後も継続的に評価することが必要です」としている。

多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Diabetes Mellitus and the Risk of Cancer: Results From a Large-Scale Population-Based Cohort Study in Japan(JAMA Internal Medicine 2006年9月)
Effectiveness of endoscopic screening for gastric cancer: The Japan Public Health Center-based Prospective Study (Cancer Science 2022年8月24日)

有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン (国立がん研究センター)
がん検診 (厚生労働省)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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