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2019年07月25日
集中治療領域における急性腎障害マーカーL-FABPの有用性と課題
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- 糖尿病の検査(HbA1c 他) 糖尿病合併症
L-FABPは尿細管機能障害をより早期かつ高い特異性で予測し得る
腎機能に関連するさまざまなバイオマーカーが知られているが、近年、BUNやクレアチニンよりも鋭敏にAKIの病態を反映するものとして、尿中L-FABPに注目が集まっている。L-FABPは、ヒト近位尿細管の細胞質に局在する14kDの蛋白質で、組織障害が進行する以前に、尿細管への虚血・酸化ストレスによって尿中に排泄される。これまでの腎疾患の診断は、糸球体や尿細管の組織障害の結果として尿中に漏出した物質を主に定量していることを踏まえると、尿中L-FABPはより早い段階で尿細管機能障害を予測し得ると考えられる。また、尿細管機能障害に対する特異性が高いというメリットも期待できる。例えば尿中NGALと比べると、尿中L-FABPが虚血指標である乳酸に相関するのに対し、尿中NGALは炎症指標であるCRPに相関する2)。このような背景から、腎盂腎炎などで白血球尿となっている場合、NGALは白血球尿の影響を強く受け、尿細管機能障害がなくても偽陽性となる可能性があるのに対し、尿中L-FABPは白血球尿の影響を受けにくく、尿細管障害特性が高い3)。
現在、尿中L-FABPはガイドラインにも明記されており、KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)AKI guideline 2012においてAKIの早期診断に必要な新しいバイオマーカーの1つに挙げられているほか、日本の「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」ではNGALとならんでAKIの早期診断に有用な尿中バイオマーカーとして推奨されている。
また、迅速キット(L-FABPテストPOC)が発売されており、ベッドサイドで迅速におよその尿細管機能障害の程度を予測することができる。
実臨床における尿中L-FABPの測定意義
実臨床における尿中L-FABPの測定意義について、当院の研究を交えて紹介する。
その1:AKIの早期発見
心臓外科手術症例において、AKIは術後48時間時点での血清クレアチニン上昇や無尿になって初めて発見されることが少なくないが、尿中L-FABPは血清クレアチニンに先行し、術直後1~3時間時点で上昇が認められる4)。また、術後AKI発症群では術前の段階で尿中L-FABPが有意に高値であることが示されている。
造影剤腎症の発症予測にL-FABPが有用なマーカーであることも経験した。心臓カテーテルを受けた患者を対象に、冠動脈造影前後の尿中L-FABP値を比較したところ、造影剤投与前から尿中L-FABPが高い患者では造影剤腎症を発症しやすく、造影剤腎症を発症した患者では24時間後の尿中L-FABP値が有意に上昇した(図1)5)。
また、尿中L-FABPと血清中NT-proBNPを組合わせることで、さらに高い精度でAKI発症を予測できる可能性も示唆されている6)。さまざまな疾患背景を有する心血管疾患集中治療室の入室患者において、尿中L-FABP値と血清中NT-proBNPとの間に相関関係が認められている。尿中L-FABP値と血清中NT-proBNPは、いずれも三分位値が高値となるに伴いその危険度が高まり、さらに両者の三分位値の組み合わせはAKI発症率の増加と強く関連していた(図2)。
組み合わせによるAKI発症率
その2:重症化リスク・予後の予測
ICU入室重症成人患者335例を対象とし、入室時にL-FABPをはじめとするバイオマーカーを測定し、14日間の死亡率を検討したところ、尿中L-FABPは従来指標である尿中NAG、尿中アルブミン、血清クレアチニンに比べ有意に診断精度が高く、治療転帰を含めた重症化リスクを高精度に判別できることが示された(図3)7)。
また、敗血症ショックを起こしたAKI成人患者145例(生存群77例、非生存群68例)を対象に、敗血症と腎機能の双方に関係の強い5項目(尿中L-FABP、エンドトキシン、血清クレアチニン、CRP、白血球)を抽出し、生存群と非生存群に分けて比較した。その結果、日常臨床で観察するエンドトキシン、CRP、白血球などの値に関しては、生存群と非生存群で意外に大きな違いがみられず、尿中L-FABP値において最も有意な差が示された8)。なお、ROC解析では、尿中L-FABPがAPACHEⅡ、SOFAよりも死亡予測能が高かった。敗血症性ショック時、病理組織学的には急性尿細管壊死という形であらわれるため、この病態を早期に発見することがAKI治療のポイントと言える。
熱中症患者においてもL-FABPは予後予測の有用なマーカーとなり得る。2011年6月から2016年6月までに当院に緊急搬送され熱中症と診断された1,188例(入院188例、非入院1,000例)を解析した。入院患者のL-FABPは322.8±248.6μg/gCr、非入院患者では42.2±24.4μg/gCrであり、入院患者で有意に高値であったほか、死亡例ではL-FABPの鋭敏な上昇が確認された。
その3:治療効果の評価
尿中L-FABPが治療効果の評価に活用できる可能性は、当院の中村らによる糖尿病性腎症におけるスタチンの効果を検討した研究9)に端を発する。すなわち、スタチン投与後に蛋白尿の改善が認められたのと同じように尿中L-FABPが低下することを明らかにしたのである。これにより、L-FABPが治療経過の評価において良いマーカーになり得ることを発表した。同研究を契機に、クレアチニン、BUN、尿蛋白に比べ、L-FABPは治療効果をより速やかに反映するマーカーであることが分かってきた。
実際、全身浮腫を呈した糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群を発症した48歳男性では、LDL吸着療法*により尿中L-FABPが蛋白尿と同様の推移を示し(図4)、治療効果を反映していた。糖尿病性腎症では糸球体だけでなく尿細管、間質にも影響が及ぶため、尿中L-FABPは特に尿細管障害の継時的な変化をみる有用なマーカーになると考えられた。
*記述の疾患には保険適用はございません。
なお、先述の熱中症患者の検討において、入院後は血清クレアチニンに先行して尿中L-FABPの改善が認められ、尿中L-FABPがAKIの治療効果の評価に有用であることが示唆された。
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