ニュース

2015年08月17日

糖尿病性腎症の病態と治療〜バイオマーカー・尿中L-FABPの可能性

低血糖や食後高血糖を極力減らしつつ、良好なHbA1cをめざす

 次に治療について話を進める。糖尿病性腎症の治療は血糖管理、血圧管理、そしてレニン-アンジオテンシン系の抑制が3本柱であり、これに脂質管理や食事療法、尿酸の管理など包括的な治療が必要とされてくる。冒頭に述べたように糖尿病性腎症は高血糖特有の細小血管合併症であることから、血糖管理の強化によりその発症・進展が抑制される。実際にそのことを示した大規模臨床研究は、UKPDS、ACCORD、ADVANCEなど枚挙に暇がない。

 一方で厳格な血糖管理により重症低血糖の増加と、それによるものと考えられる心血管イベントや死亡のリスクが上昇することが近年明らかになった。そこで現在は、すべての患者に一律の血糖管理目標を掲げるのではなく、年齢や罹病期間、臓器障害、低血糖リスク等を考慮し個別に設定することが推奨される。

 では、低血糖リスクの高い患者とはどのような患者だろうか。ADVANCEからは、高齢、罹病期間が長い、認知機能低下などとともに、クレアチニンが高いこと、つまり腎機能が低下していることが低血糖リスクとして報告されている。腎機能低下によりインスリンの分解が遅延することや腎における糖新生が低下することがその理由と考えられ、腎機能が低下してきた場合、それまでどおりの治療を漫然と継続していると低血糖を起こしやすくなってくる。また、腎性貧血を来してESA製剤を用いた場合、HbA1cが見かけ上低値になることにも注意が必要だ。

 この他にCGMを用いた検討からは、HbA1cが同等であっても血糖変動幅が大きいほど心血管イベントが好発することが示されている。以上をまとめると、低血糖回避とともに食後高血糖是正も念頭に置きながら良好なHbA1cを目指すことが、現在の糖尿病治療と言える。

L-FABPは、組織障害の結果ではなく、障害が起きる過程を把握可能

 さて、尿中L-FABPに話を進める。FABP(Fatty Acid Binding protain)は脂肪酸結合蛋白の総称であり、その肝臓タイプがL-FABPで、これは肝臓と腎臓の尿細管に特異的に発現している。血中においては肝障害でも高値を示すが尿中では尿細管障害が存在するときのみ高値を示す。

 ところで従来、尿検査で用いられてきたアルブミンや?型コラーゲン、NAGなどの指標はすべて、糸球体または尿細管が障害された結果として尿中に漏れ出ててくる物質を定量するものだ。しかし尿中L-FABPは、腎の虚血や酸化ストレスによって増加し、過酸化脂質と強く結合してそれを細胞外へ排出することで細胞を保護するように働くと推測されている。つまり、尿細管障害が進行した結果ではなく、障害が正に進行しつつある過程で検出されると考えられる。

 前述のように糖尿病性腎症は、古典的には糸球体硬化症とされているのだが、実際には尿細管間質の障害も非常に強いことが知られている。事実、糖尿病性腎症の病期別に尿中L-FABPの値をみると、病期の進行と相関して高値になり、しかもアルブミン尿が陰性の段階から上昇していることがわかる(図4)。

図4 尿中L-FABPと糖尿病性腎症の病期の関係

尿中L-FABPは糖尿病性腎症の病期進行とともに増加し、健常者に比べて腎症前期から有意に高値を示す。

図4 尿中L-FABPと糖尿病性腎症の病期の関係

〔Kamijo-Ikemori A, et al. Diabetes Care 34(3): 691-696, 2011〕

次は...L-FABPは糖尿病性腎症の進展予測にも使用可能

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲