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2013年10月08日

膵島細胞の120時間保存に成功 膵島移植に道 産総研

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医療の進歩
不凍タンパク質が膵島細胞の保存期間を延長 移植治療の普及に期待
 不凍タンパク質は、氷の表面に結合してその成長を止める機能をもったタンパク質だ。低温環境に適応した生物から発見されており、魚類由来のものは細胞膜にも結合して細胞の安定性を向上させるものもある。

 産総研は、個々の不凍タンパク質の構造や性能を詳細に調べるとともに、食品分野や冷熱利用技術に不凍タンパク質を応用するための技術開発を行ってきた。カレイ類から得られる不凍タンパク質がいくつかの細胞に対して保護効果を発揮することが分かり、今回の研究でマウス膵島細胞に対する保護効果を評価した。

 市販の細胞保存液は、無機塩、グリセロール、糖、アミノ酸などを含み、細胞の周囲の浸透圧やpHを整えてなるべく生体内に近い環境を作る働きをする。今回、タンパク質を含まない市販の細胞保存液に、各種の不凍タンパク質を溶かし、この細胞保存液を用いた場合のマウス膵島細胞の生存率を調べた。

 不凍タンパク質として、国産のカレイ類の魚肉から精製した不凍タンパク質(AFPI)、寒冷な環境に生息する魚類であるワカサギ(AFPII)やタラ(AFGP)がもつ不凍タンパク質を用いた。対照実験として、細胞保護効果があることで知られる「ウシ血清アルブミン」(ウシの血清から精製される分子量約6万6000のタンパク質で、細胞保護作用をもつ)や「トレハロース」(2つのブドウ糖が結びついた糖類の1種で、細胞保護作用をもつ)を細胞保存液に溶解したものを用いた。

 実験では、37度で培養したマウス膵島細胞を、10mg/mL濃度の不凍タンパク質を含む細胞保存液に浸し、4度の冷蔵庫内で保存した。実験開始時の生細胞数を100%として、保存開始から24、72、120時間後の生細胞の割合を調べた。

 その結果、特にカレイ類のAFPIを用いた時に、120時間後でも約60%の高い生存率が得られた。これに対し、ウシ血清アルブミンやトレハロースを用いた時には、膵島細胞は72時間以内にほぼ死滅していた。また、このAFPIを含む細胞保存液を用いて、120時間非凍結温度下で保存した膵島細胞を体温付近(37度)に戻したところ、保存前と同レベルのインスリン分泌能力を保っていることも確認された。

 さらに、共焦点レーザー顕微鏡を用いてAFPIが膵島細胞に吸着する様子の観察も行い、AFPIは膵島細胞の細胞膜にまんべんなく吸着していることを確認した。また、蛍光色素でウシ血清アルブミンを標識したものを用いての実験も行い、AFPIの細胞膜への結合能力はウシ血清アルブミンよりもはるかに優れていることが判明した。AFPIは細胞膜に吸着して、細胞の膨張とそれに続く破裂を抑制し、結果的に細胞機能を維持できる期間を延長するという。

 不凍タンパク質が副作用を示さずに細胞膜を保護するだけの機能を示すのであれば、今後細胞保存液には必ず不凍タンパク質が添加される可能性があるという。不凍タンパク質の保護効果がヒトの膵島に対しても有効であることが確かめられれば、膵島細胞移植がより広く普及する可能性がある。

 研究チームは今後、カレイ類の不凍タンパク質による細胞保存期間の延長効果をヒト膵島細胞に応用することを目指す予定だ。より多くの保護成分を含む細胞保存液に不凍タンパク質を溶かし、細胞膜保護効果を調べるとしている。その一方で、不凍タンパク質の分子構造のどの部分が細胞膜保護に関与しているのかの作用メカニズムの解析も試みるという。これらの研究を通じて、不凍タンパク質を活用した新たな細胞保護技術を開発していきたいとしている。

Antifreeze Protein Prolongs the Life-Time of Insulinoma Cells during Hypothermic Preservation(プロス ワン 2013年9月17日)
産業技術総合研究所(産総研)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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