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2024年05月07日

1型糖尿病の根治を目指す「バイオ⼈⼯膵島移植」 研究を支援し「サイエンスフォーラム」も開催 ⽇本IDDMネットワーク

 「⽇本IDDMネットワーク」(理事⻑:井上⿓夫、岩永幸三、本部:佐賀市)は、全国の1型糖尿病の患者や家族を⽀援する活動をしている認定NPO法⼈。

 このほど「バイオ⼈⼯膵島移植」を開発する研究4件に対し、研究助成を行うと発表した。

 「バイオ人工膵島移植」は、「1型糖尿病を根治する革新的な治療法」として期待されている。日本だけでなく海外でも、「異種移植」の研究は行われており、早期の実現が望まれている。

1型糖尿病を根治する革新的な治療法を開発

 1型糖尿病は、生きていくのに欠かせないインスリンを産生する膵臓のβ細胞が壊されてしまい、インスリンがほとんど分泌されなくなり発症する疾患。

 現在の医療では、生きていくために、生涯にわたり毎日4~5回の注射、またはポンプによるインスリン補充が必要となる。

 1型糖尿病は、糖尿病の大半を占め生活習慣病とも言われる2型糖尿病とは、発症の原因や治療、疾患に対する考え方などは異なる

 1型糖尿病の人は、インスリン治療をがんばっていても、血糖管理が不安定になったり、低血糖の頻度が高くなる場合がある。さらには1型糖尿病の根治をほとんどの患者と家族が願っている。

「バイオ人工膵島移植」は早期に実現可能と期待

 1型糖尿病を根治する方法として、インスリンを分泌するβ細胞を移植する膵臓移植や膵島移植が保険診療として行われている。

 十分な量の膵島を移植すれば、血糖管理が安定するようになり、重症の低血糖も起こらなくなる。インスリン療法が不要になることも期待できる。

 しかし、とくに日本ではドナー(臓器提供者)が圧倒的に不足しているという課題がある。

 このドナー不足を解決する方法として期待されているのが、日本IDDMネットワークが研究を支援している「バイオ人工膵島移植」だ。

 これは、無菌室で育てられた病原体のいない特殊なブタ(医療用ブタ)の膵島を、特殊なカプセルで包み、患者に移植する方法。移植した膵島がインスリンを分泌し、免疫抑制剤を使用する必要もない治療を目指している。

 臓器移植のドナー不足の解消に向け、ヒトのiPS細胞から細胞を作って投与する方法も研究されているが、iPS細胞から複雑な臓器を作りだすのは技術的に難しく、実用化にはかなりの時間がかかるとみられている。

 「バイオ人工膵島移植」はもっとも早期に実現が可能だと期待されている。海外では臨床研究も行われている。

「バイオ⼈⼯膵島移植」を開発する研究を支援

 ⽇本IDDMネットワークは、1型糖尿病の根治を目指している「バイオ⼈⼯膵島移植」の研究4件に対し、研究助成を行うと発表した。

 一般社団法人医療用ブタ開発機構、神戸大学、摂南大学、日本大学の「バイオ⼈⼯膵島移植」の研究4件に対し、研究助成⾦贈呈式を4⽉に開催した。

 日本IDDMネットワークは、1型糖尿病の「根絶(=治療+根治+予防)」を一刻も早く実現し、1型糖尿病による生涯の負担から解放することを目標に活動している。

 今回の助成の対象となった研究は以下4件――。

バイオ人工膵島移植のための国産医療用ブタ製造
研究代表者:松本慎一 一般社団法人医療用ブタ開発機構 代表理事
 ヒト膵島を用いた同種膵島移植は、脳死ドナーが少ないこと、また、一生涯免疫抑制剤を飲み続ける必要があるという、2つの課題があります。この2つの課題を解決する方法が、医療用ブタからの膵島を免疫隔離膜で保護するバイオ人工膵島の移植です。
 今回、一般社団法人医療用ブタ開発機構を立ち上げ、医療用ブタを調達することで、日本でのバイオ人工膵島移植が開始できるようにします。

移植用膵島の「量産化」技術の開発
研究代表者:浅利貞毅 神戸大学大学院医学研究科 特命教授
 医療用ブタの膵臓から膵島を分離し、膵島に拒絶反応を起こさないよう免疫隔離カプセルに封入したのち移植する、バイオ人工膵島移植の研究開発を進めています。
 膵島分離は手作業で行われていますが、十分量の膵島を効率良く移植できるよう、膵島分離専用AIロボットの開発と分離工程のオートメーション化に取り組んでいます。
 また、神戸医療産業都市で、神戸大学、神戸市および関連企業が連携し、1人でも多くの患者さんにこの新しい移植医療を受けていただけるよう医療産業化を目指しています。

移植後の患者の健康維持・安全確保のための検査技術の開発
研究代表者:井上 亮 摂南大学農学部応用生物科学科動物機能科学研究室 教授
 医療用ブタで感染が懸念されるほとんどの病原体に対する検査系を確立しました。この検査法は、「PCR」という技術で、移植後の感染症モニタリングにも活用できます。
 感染した病原体に対してヒトの免疫が作る「抗体」なら、早くに血液でも検出しやすいことが分かっています。そのため、移植後の感染症モニタリングには「抗体」を調べる検査系も必要です。本研究では、ブタ病原体に対するヒトの「抗体」を検査する方法の確立を目指します。

移植効率と安全性を確保するための要素技術の開発
研究代表者:小須田 南 日本大学医学部内科学系糖尿病代謝内科学分野 助教
 1型糖尿病の患者さん全員が根治を目指したブタ膵島移植を安全に受けられるように、患者さんが他の病気の治療目的に内服する薬に対する反応など、ブタ膵島の特徴を詳細に解明します。
 また、新生児ブタ膵島は1週間程度培養することで、インスリン分泌能が高くなります。培養法を改良するとともに、ほぼ均一な大きさに再構成したもの(偽膵島)を作り、効率の良い移植につなげます。
 さらに、ブタ膵島の研究を進めるために、ブタインスリン分泌細胞株を作り、遺伝子操作を用いた研究を効率的に行えるようにします。本研究により、1型糖尿病の根治療法であるブタ膵島移植の安全性と質を向上させます。

動物の臓器をヒトへ移植する「異種移植」
海外では成功例も

 動物の臓器をヒトへ移植する「異種移植」は、遺伝子組み換え技術の発展とともに、目覚ましい進歩をとげており、海外では臨床研究も行われている。

 米国のマサチューセッツ総合病院は2024年3月に、遺伝子編集したブタの腎臓をヒトにはじめて移植する手術を行い、成功したと発表した。

 移植を受けた62歳の男性は、長年にわたり2型糖尿病と高血圧を抱えており、腎不全で透析治療を受けていた。

 移植された腎臓は、ヒトにとって有害な遺伝子を除去し有益な遺伝子を加えるという、69の遺伝子編集が行われた。

 また、ニューヨーク大学ランゴン ヘルス病院は同年4月に、機械式の心臓ポンプと遺伝子編集したブタの腎臓を組み合せて移植する2例目の手術を行い、やはり成功したと発表した。

 移植を受けた54歳の女性は、心不全と腎不全をもっていた。米国でも、臓器移植の待機患者は10万人以上に上り、ドナー不足は深刻になっている。

1型糖尿病の根絶を目指して 多くの参加を呼びかけ

 ⽇本IDDMネットワークによる研究支援の資⾦の財源となっているのは、主に佐賀県庁への⽇本IDDMネットワーク指定ふるさと納税など。

 今回は、2023年10月~2024年1月にクラウドファンディングを実施し、783人から3,300万円を超える寄付が提供されたという。

 ふるさと納税の運営母体は佐賀県庁であり、クラウドファンディングでは具体的な寄付金の使い道を指定して寄付をお願いしており、税金の控除も受けられ、お礼の品をもらうこともできる。

 同NPO法人は、2005年に「1型糖尿病研究基金」を設立、2014年より佐賀県庁への「日本IDDMネットワーク指定ふるさと納税」に取り組んでおり、「日本の寄付文化を変えた」と大きく注目されている。同NPO法人への寄付は、税制優遇の対象となる。

 「1型糖尿病の根絶のためには、数多くの研究を行うことや、研究を継続することが大切です。根絶に向けた研究を、これまで以上に支えるために、多くの支援が必要です。子供たちの未来の希望のために、あなたの力を貸してください」と、同NPO法人では多くの参加を呼びかけている。

「サイエンスフォーラム」を6月に東京で開催

 日本IDDMネットワークは6月9日に東京で、「サイエンスフォーラム」を開催する。全国の糖尿病(1型/2型/MODYなど)患者・家族、研究者、医療関係者、行政、企業などに広く参加を呼びかけている。

日時2024年6月9日(日)13:00~17:00
会場Asia startup Office MONO (東京都江東区)
主な内容 講演「今受けられる1型糖尿病治療-糖尿病治療の最前線-」
対談「バイオ人工膵島移植の実現に向けて」
参加者交流会(研究者、医師等と患者・家族との交流)
・今受けられる1型糖尿病治療についてもっと知りたい
・バイオ人工膵島移植についてもっと知りたい
・高齢患者交流会 ・患者交流会 など

現在進行中で今後期待される1型糖尿病の研究を「治療」「根治」「予防」に分けて時間軸とともに紹介

日本IDDMネットワークへのご寄付は税制優遇措置が受けられます
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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