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2013年07月08日
腎臓病の治療法開発に光 腎臓の悪玉細胞が善玉に変化
東北大学の研究グループは、慢性腎臓病(CKD)の原因となる細胞を特定し、抗炎症薬を投与すると悪玉から元の善玉に戻す効果があり、症状の進行を止められることを実験で突き止めた。透析療法の原因となる慢性腎臓病の悪化を防ぐ新たな治療法につながる成果としている。
慢性腎臓病(CKD)は、日本人成人の約8人に1人にあたる1,330万人が発症している国民病だ。糖尿病や高血圧などが主な原因になっている。 慢性の腎臓病が徐々に悪化して腎機能が低下していき、腎臓の機能が極度に低下し末期腎不全に至ると、そのままでは生命を維持できなくなり人工透析か腎臓移植が必要となる。慢性腎不全から透析に至る原因となる病気は、現在では糖尿病性腎症がもっとも多く37%だ。 慢性腎不全を治す有効な治療法はないが、将来に腎臓病の悪化を防ぐ治療法となる可能性のある新たな発見が発表された。
腎臓病悪化の原因細胞を同定
慢性腎臓病を発症すると、コラーゲンなどが過剰に蓄積し腎臓が「線維化」し悪化していく。それにともない赤血球造血ホルモンである「エリスロポエチン(EPO)」の産生が低下する。エリスロポエチンは腎臓で作られるホルモンで、赤血球を産生するのに必要で、不足すると「腎性貧血」が引き起こされる。
その結果、腎機能が失われていき、早期に心筋梗塞や脳梗塞などを発症しやすくなる。腎臓の線維化と腎性貧血発症のメカニズムは十分に解明されておらず、治療法の開発も進んでいないのが現状だ。
東北大学の研究チームはこれまでに、腎内のエリスロポエチン産生細胞が腎臓線維化の原因となる「筋線維芽細胞」に変化することを、世界に先駆けて発見した。
研究チームは、腎エリスロポエチン産生細胞が線維化に担う役割や、同細胞の性質が回復可能なのかなどを解明し、腎臓病の新たな治療法の開発につなげたいと考えた。
腎臓病を誘導したマウスの腎臓より、腎エリスロポエチン産生細胞を精製単離する手法を確立し、その性状を調べた。その結果、産生細胞は、筋線維芽細胞への形質転換にともないエリスロポエチン産生能を失い、線維化に関わる細胞外基質を産生するとともに、炎症性物質(サイトカイン)を大量に発生させることを突き止めた。
このことから、正常では体に必須の「善玉」である腎エリスロポエチン産生細胞が、腎臓病発症時には、「悪玉」となることが分かった。また、腎エリスロポエチン産生細胞の性質の変化が、腎線維化および腎性貧血の原因の主な原因であることがあきらかになった。
悪玉の細胞を善玉に戻す治療法
研究グループは、「悪玉」化した腎エリスロポエチン産生細胞を、再び「善玉」に戻すことが可能かを検討した。腎臓病を誘導し腎エリスロポエチン産生細胞を悪玉化させた後、腎臓病を誘導していたシグナルを除去する実験を行った。
すると、悪玉化することで失っていたエリスロポエチン産生能が回復し、線維化の進行や炎症の進行も停止した。このことから、腎エリスロポエチン産生細胞が高い回復力(可塑性)をもつ細胞であることが判明した。
この「善玉」に回復するメカニズムを探索するために、腎内の遺伝子発現の網羅的解析を行ったところ、特に腎内に生じる炎症シグナルが重要であることが判明した。
炎症シグナルへの介入が治療的効果をもつかを検討するために、抗炎症薬を投与したところ、「悪玉」の筋線維芽細胞から「善玉」のエリスロポエチン産生細胞への回復が促されることが分かった。
慢性腎臓病患者の腎臓の炎症を抑えて、「善玉」細胞の性質を維持していくことが、慢性腎臓病の治療において重要となる可能性が示された。
研究は、東北大学大学院医学系研究科医化学分野の山本雅之教授と同分野の相馬友和博士らの研究グループによるもので、米科学誌「Journal of the American Society of Nephrology」オンライン版に発表された。
「腎臓のエリスロポエチン産生細胞が高い回復力をもった細胞であることがあきらかになりました。腎臓の炎症をコントロールして、この細胞を善玉の状態にしておくことで、人工透析を予防できる治療法を開発できる可能性が出てきました」と、山本教授は話している。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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