ニュース
2011年03月08日
糖尿病発症初期に起こる痛みのメカニズムを解明
糖尿病発症初期に起こる痛みのメカニズムを解明した研究が発表された。痛みを引き起こすセンサーの働きを抑える鎮痛剤を開発すれば、糖尿病性神経症を効果的に治療できるようになる。
糖尿病を発症すると初期症状として糖尿病性神経症にともない痛みが起こることがあるが、痛みが引き起こされるメカニズムはよく分かっていない。
低酸素・高血糖により活性化される
細胞内の分子メカニズム
自然科学研究機構・生理学研究所の富永真琴教授らの研究チームは、細胞内の「分子センサー」が働くことで痛みが引き起こされることを実験でつきとめた。このセンサーの働きを阻害する治療薬を開発すれば、痛みを抑えることができるようになるという。糖尿病性神経症の新たな治療法の開発につながる研究成果だ。
細胞内の分子メカニズム
糖尿病性神経症の新しい治療に大きな道筋
研究チームは、糖尿病の発症にともない、末梢の神経細胞で微小血管の病変などにより酸素不足が起こることに注目。ラットの痛みを感じる神経細胞をとりだして、糖尿病発症の際の低酸素・高血糖と同じ条件になるように人工的に刺激を与えた。
体が感じる「刺すように冷たい」「痛い」といった痛みは、外からの刺激を感受し障害部位を認知するための感覚情報で、本来は体にとって必要不可欠なもの。体が感じる痛みは、カプサイシノイドと呼ばれる化合物が受容体と結合し、痛みの刺激を脳に伝えることで促される。
痛み感覚が増大する仕組み
カプサイシノイドが結合する受容体のひとつに「TRPV1」という分子センサーがある。TRPV1は急性の疼痛や、さまざまな炎症性疼痛に関わっていることが、これまでの研究で分かっていた。研究チームが低酸素・高血糖の状態にしたラットの体を調べたところ、TRPV1がより強く反応することをあきらかになった。
さらに、低酸素と高血糖のどちらがTRPV1をより刺激するのか調べ、低酸素が重要な役割をはたしていることをつきとめた。糖尿病を発症し高血糖の状態になると、末梢組織が低酸素になる。その結果、細胞内の分子メカニズムが活性化しTRPV1が刺激され、痛みの感覚が増大するというメカニズムが考えられている。
富永教授らは「これまで全く不明であった糖尿病発症にともなう痛み感覚増大のメカニズムをあきらかにすることができ、臨床現場で治療を行いやすい土台ができた。今回発見された細胞内メカニズムの途中を阻害することができれば、鎮痛剤の開発につながり、新たな治療法開発への大きな道筋となる」と述べている。
この研究は、自然科学研究機構・生理学研究所の富永真琴教授と柴崎貢志助教(現・群馬大学)の研究チームと、ルーマニアから招へいした研究者ヴィオレタ リストウ氏と共同で行われた。研究成果は医学誌「PAIN」4月号に発表された。
糖尿病発症初期の痛み増大の分子メカニズムを解明(生理学研究所、2011年3月11日)Hypoxia-induced sensitization of transient receptor potential vanilloid 1 involves activation of hypoxia-inducible factor-1 alpha and PKC
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
医療の進歩の関連記事
- 糖尿病の治療を続けて生涯にわたり健康生活 40年後も合併症リスクが大幅減少 最長の糖尿病研究「UKPDS」で明らかに
- インスリンを飲み薬に 「経口インスリン」の開発が前進 糖尿病の人の負担を減らすために
- 楽しく歩きつづけるための「足のトリセツ検定」をスタート 糖尿病の人にとっても「足の健康」は大切
- 「糖尿病網膜症」は見逃しやすい 失明の原因に 手遅れになる前に発見し治療 国際糖尿病連合などが声明を発表
- 1型糖尿病の根治を目指す「バイオ⼈⼯膵島移植」 研究を支援し「サイエンスフォーラム」も開催 ⽇本IDDMネットワーク
- 最新版にアップデート!『血糖記録アプリ早見表2024-2025』を公開
- 糖尿病と高血圧のある腎不全の男性を透析から解放 世界初の「異種移植」が成功
- 糖尿病の人の足を守るために 気づかず進行する「足の動脈硬化(LEAD)」にご注意 日本初の研究を開始
- インスリンを産生するβ細胞を増やすのに成功 糖尿病を根本的に治す治療法の開発に弾み 東北大学
- 週に1回注射のインスリンが糖尿病治療を変える 注射回数を減らせば糖尿病の人の負担を減らせる