ニュース
2011年02月21日
1型糖尿病の発症を制御するタンパク質を発見 新たな治療法に期待
自己免疫疾患の多くは効果的な根治療法がなく、治療は対症療法が中心となっている。1型糖尿病と診断された場合には、体外からインスリンを補うインスリン療法が開始される。
効果的な治療法を開発するために、疾患がどのように発症するのかを解明することが必要となるが、自己免疫疾患は多くの遺伝子が関与するため、原因遺伝子を特定することは難しい。また、自己免疫疾患のコントロールに関与する遺伝子はいくつか報告されているが、それらがどのように働き、自己免疫疾患の発症を制御しているのかはよく分かっていない。
徳島大学疾患ゲノム研究センターの岡崎拓教授らの研究グループはこれまでに、免疫反応を抑制する「PD-1」という蛋白質を働かなくした実験マウスが自己免疫疾患を発症することを発見していた。今回の研究で、「PD-1」に加えて「LAG-3」という遺伝子も働かなくすると自己免疫疾患が悪化することを発見した。LAG-3は血中のリンパ球の表面にあり、免疫反応を起こす物質から受ける刺激を弱める働きをもつ。
PD-1の遺伝子を欠損したマウスを作製し実験したところ、心臓の筋肉に炎症が起きる自己免疫性の心筋炎で死んだマウスと死ななかったマウスがあった。死んだマウスはLAG-3を作る遺伝子が変異し、LAG-3蛋白質が不完全で機能しないことが分かった。LAG-3だけを欠損させても自己免疫疾患は発症しないが、他の要因と組み合わせることにより、さまざまな自己免疫疾患の発症を引き起こすことを突き止めた。
研究チームでは「通常はLAG-3がPD-1などと協調して過剰な免疫反応を抑制することにより自己免疫疾患の発症を制御していると考えられる。この蛋白質の機能をコントロールする薬剤を開発すれば、自己免疫疾患や感染症、アレルギーの治療につながる可能性がある」としている。
この研究成果は米科学誌「Journal of Experimental Medicine」に2月7日付けで発表された。
さまざまな自己免疫疾患の発症を制御するたんぱく質を発見(自己免疫疾患の新たな治療法に期待)(科学技術振興機構)
PD-1 and LAG-3 inhibitory co-receptors act synergistically to prevent autoimmunity in mice
The Journal of Experimental Medicine, 2011, February 7, vol.208 no.2 395-407
1型糖尿病の関連記事
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- ヨーヨーダイエットが1型糖尿病の人の腎臓病リスクを上昇 体重の増減を繰り返すのは良くない
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 若い人の糖尿病が世界的に増加 日本人は糖尿病になりやすい体質をもっている 若いときから糖尿病の予防戦略が必要
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も
- 1型糖尿病のランナーが東京マラソンを完走 CGMとインスリンポンプを組み合わせたシステムでより活動的に
- 運動に取り組み糖尿病を改善 血糖値が下がりすぎる低血糖にもご注意 1型糖尿病の人に最適な運動法は?
- 「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減