ニュース

2024年01月31日

糖尿病の人は腰痛にご用心 腰痛を改善する方法は? 積極的に体を動かすことが大切

 糖尿病とともに生きる人は、腰痛に悩まされることがとくに多い。

 糖尿病の人の健康の質を維持するために、血糖値を改善するとともに、腰痛につながる原因を治療することも求められている。

 急性腰痛は、安静にするよりも、可能な範囲で体を動かした方が、回復が早いことが分かっている。

 ピラティスの方法論にもとづく、腰痛対策のエクササイズも開発されている。

糖尿病の人は腰痛に悩まされることが多い

 腰痛に悩まされている人は世界に多く、5億7,000万人以上の人が影響を受けているという。腰痛にかかる医療コストは、米国だけでも10年間で20兆円(1,345億ドル)にもなる。

 糖尿病とともに生きる人は、腰痛に悩まされることがとくに多いのをご存知だろうか。

 イランのタブリーズ医科大学が、317人の糖尿病患者を対象に、腰痛の頻度を3ヵ月間隔で調べた研究では、63%(201人)が腰痛を経験していることが示された。

 「腰痛などの筋骨格系の痛みは、糖尿病の人によくみられる問題です。糖尿病の人の健康の質を維持するために、血糖値を改善するとともに、腰痛につながる原因を治療することも必要です」と、同大学理学療法学科のマグスード エイヴァジ氏は言う。

 「糖尿病が腰痛を引き起こすメカニズムを解明と、腰痛を防ぐためのアプローチを開発することが求められています」としている。

 オーストラリアのシドニー大学の研究でも、糖尿病のある人は、腰痛のリスクが35%高く、首の痛みのリスクは24%高いことが明らかになっている。

 「腰痛や、首や背中の痛みなどに悩まされている糖尿病の人は多いことが示されています」と、同大学骨関節研究所のマヌエラ フェレイラ氏は言う。

 「糖尿病を治療することで、腰痛の発生を減らすことができたり、その逆に腰痛を防ぐことで、糖尿病を治療も改善することが期待されます」としている。

軽い腰痛は可能な範囲で体を動かすことで改善

 「ほとんどの人は、生涯に一度は腰痛を経験しますが、多くの人は回復しています」と、南オーストラリア大学臨床神経科学のロリマー モーズリー教授は言う。

 腰痛でもっとも多いのは、ぎっくり腰とも呼ばれる急性腰痛で、腰の関節や筋肉の炎症が原因と考えられる。こうした腰痛は深刻ではない場合が多く、痛みを抑える治療が行われる。

 痛みが強い急性期は、無理せず安静にする必要があるが、痛みが弱まってきたら、積極的に体を動かすことが大切だという。

 「急性腰痛は安静にするよりも、痛みがなくなったら可能な範囲で体を動かした方が、回復が早く、慢性化も防げることが分かっています」と、モーズリー教授は指摘する。

腰痛を防ぐための運動を解説
米カリフォルニア大学サンディエゴ医療センターが公開しているビデオ

腰痛が数ヵ月も続くようだと治療が必要

 一方で、腰痛を数ヵ月以上も抱えてしまうようだと、回復の可能性は少なくなる。そうした持続性の腰痛は、痛み系の過敏症とも関連していると考えられるという。

 慢性痛では、痛みが長く続くために、痛みを伝えたり抑えたりする神経回路が変化して痛みがさらに長引いてしまうことがある。

 「腰痛が慢性化している人では、単純な方法では解決できない場合があります。そのため、集学的アプローチも行われています」と、モーズリー教授は説明する。

 慢性痛には、身体的・心理的・社会的な要因や、理学療法などのさまざまな要素が関わっている。この治療法では、それぞれの専門家が、痛みに対してチームで取り組み、痛みを和らげていく。

 「痛みが強い場合は、まずは薬で痛みを和らげ、原因を明らかにし、その後は再発防止に取り組むことが勧められます。脳にもともと備わっている、痛みを和らげる仕組みを活用する治療法もあります」。

 「痛みを完全に取り除くことは難しいにしても、痛み系の感受性をゆっくりと軽減し、痛みをコントロールして、日常生活の質を良くすることは可能です。脳と体の両方のトレーニングにもとづいた新しい治療法も開発されています」としている。

腰痛を防ぐためのエクササイズを開発

ピラティスの方法論にもとづく腰痛を防ぐための運動

 1日のなかで座ったまま過ごす時間が長い生活スタイルは、腰痛のリスクを高める。リトアニアのカウナス工科大学は、腰痛を防ぐためのエクササイズを開発している。

 これは、座位時間の長い人の腰痛を管理するために、体を支える柱である脊椎を安定化するための運動プログラムだ。

 「30~50歳代の働き盛りにも腰痛は多く、労働力の損失にもつながります。座ったまま過ごす時間の長い人に、腰痛は多いことが分かっています」と、同大学健康科学部のイリーナ クリジエネ教授は言う。

 腰痛を防ぐために、腰部を安定させる深部の筋肉を強化することが重要となる。開発した腰痛対策のエクササイズは、ピラティスの方法論にもとづくもので、腰部で脊椎を支える筋肉を強化し安定化することに焦点をあてているという。

背中から腰の筋肉を強化するエクササイズ
出典:カウナス工科大学、2020年

運動はストレス改善にも役立つ 体を動かすことが大切

 運動をすることで、高揚感や満足感、幸福感を高める脳内ホルモンが増え、嫌な感情や不安がやわらぐ効果も期待できる。運動を習慣として行うことは、ストレスを改善するのにも役立つとしている。

 「長期にわたるストレスや神経損傷を原因とする慢性腰痛は、体だけでなく感情にも影響を与えます。ストレス・うつ・不安などを長期間感じていると、腰痛が長引いたり、わずかな痛みでも強く感じたりするようになります」としている。

 70人のボランティアを対象に、この運動プログラムの試験を行った結果、腰痛の軽減に効果的であり、通常の筋力強化プログラムよりも効果が3倍長く続くことを明らかにした。

 とくに新型コロナの流行中は、世界で多くの人が在宅勤務を経験して、家に適切に設計されたオフィススペースをもっている人は少なく、腰痛の発生が増加した可能性があるとしている。

 「病院に行くほどではない腰痛の場合は、適度な運動を行うことで、脳の血流が増え、脳のなかで痛みを抑える物質が増えてきます。安静にしているのではなく、できる範囲で体を動かすことが必要です」と、クリジエネ教授はアドバイスしている。

 なお、「腰の痛みが強いという場合は、医師に相談してから運動を行ってください。腰痛がひどい場合は、痛みと炎症を和らげるために薬と注射で治療を行いますが、状態によっては、理学療法や外科的治療などが必要になる場合もあります」としている。

Low Back Pain in Diabetes Mellitus and Importance of Preventive Approach (Health Promotion Perspectives 2012年7月)
Association of Diabetes With Lower Back Pain: A Narrative Review (Cureus 2021年6月20日)
Study links diabetes and back pain (シドニー大学 2019年2月22日)
Is there an association between diabetes and neck and back pain? A systematic review with meta-analyses (PLOS ONE 2019年2月21日)
Good and bad news for people with low back pain (南オーストラリア大学 2024年1月23日)
The clinical course of acute, subacute and persistent low back pain: a systematic review and meta-analysis (Canadian Medical Association Journal 2024年1月22日)
Keeping lower back pain at bay: exercises designed by Lithuanian researchers are 3 times more efficient than usual (2020年3月23日 カウナス工科大学)
Effect of different exercise programs on non-specific chronic low back pain and disability in people who perform sedentary work (Clinical Biomechanics 2020年1月5日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲