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2023年11月20日

糖尿病の人は運動でアンチエイジングを 「生物学的年齢」が若いと脳卒中や認知症のリスクが低下

 老化の速度には個人差がある。実際の体の健康状態や老化の進行具合にもとづく年齢は「生物学的年齢」と呼ばれている。

 その生物学的年齢が、実年齢よりも若い人は、脳卒中や認知症のリスクが大幅に低いことが、32万人超を対象とした調査で明らかになった。

 生物学的年齢を若くするために、運動をする習慣をもつことが効果的であることも分かった。

 ウォーキングなどの運動は、体のブドウ糖や脂肪酸の利用を高めて血糖値が低下したり、インスリン抵抗を改善するなど、多くの健康増進の恩恵をもたらす。

老化の速度には個人差が 実年齢よりも若い人は何が違う?

 卒業後20年目の同窓会で同年配の旧友にひさしぶりに会って、「この人は年齢以上に若くみえる」と感じたことはないだろうか。同年齢の人であっても、老化の速度には個人差がある。

 生まれてからの時間の長さを示すのが実年齢なのに対し、実際の体の健康状態や老化の進行具合にもとづく年齢は「生物学的年齢」と呼ばれている。

 その生物学的年齢は、2型糖尿病・肥満・心臓病・脳卒中・がん・認知症など、加齢にともない増える疾患のリスクを反映する指標になるとみられている。

 生物学的年齢が、実年齢よりも若い人は、脳卒中や認知症のリスクが大幅に低く、とくに血管性認知症のリスクが低いことが、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究で明らかになった。

心身を健康にして老化を遅くする いつまでも元気で若々しくいるために

 研究では、心身を健康にすることで老化を遅くし、いつまでも若く元気でいることを目指すアンチエイジングが重要であることが示された。

 「人によって老化の速度は異なります。たとえば、生物学的年齢が実年齢より5歳老けている人の場合、脳卒中や血管性認知症を発症するリスクが40%高くなります」と、同研究所医療疫学・生物統計学部のジョナサン マック氏は言う。

 研究グループは、生物学的年齢とがん・心臓病・神経変性疾患などの慢性疾患のリスクとの関連を調べるため、英国で実施されているコホート研究である英国バイオバンクに参加した40歳~70歳の成人32万5, 870人を対象に調査した。

 生物学的年齢について、血中脂質・血糖・血圧・肺機能・体格指数(BMI)などの18のバイオマーカーにより解析し、これらと9年間の疾患の発症リスクとの関係を調査した。

 その結果、生物学的年齢が実年齢よりも老けている人は、虚血性脳卒中のリスクが1.39倍に、認知症のリスクが1.19倍に、血管性認知症のリスクが1.41倍に上昇した。

 「生物学的年齢には、遺伝因子や生活スタイル、社会経済的な背景など、さまざまなことが影響していますが、糖尿病などの慢性疾患のある人は、その治療を続け、食事や運動などの生活スタイルを改善することで、生物学的年齢を若くすることができると考えられます」と、マック氏は指摘している。

座ったまま過ごす時間を減らして運動不足を解消

 生物学的年齢を若く保つために、座ったまま過ごす時間を減らし、運動不足を解消するのが効果的である可能性があることが、米カリフォルニア大学の研究で示されている。

 逆に、座ったまま過ごす時間が1日に10時間以上あり、ウォーキングなどの活発な運動を行う時間が40分未満で、運動不足の高齢者は、生物学的年齢が実年齢より平均して8歳老けていた。

 「座ったままの時間の長い生活スタイルにより、細胞の老化が早くなることが分かりました。不健康や食事や運動不足、喫煙などの生活スタイルや、肥満や糖尿病などが、テロメアの短縮を加速させている可能性があります」と、同大学家庭医学・公衆衛生学部のアラジン シャディアブ氏は言う。

運動を1日30分以上行うと細胞の老化を抑えられる

 生物の遺伝情報が収納されている染色体のDNAの両端は「テロメア」と呼ばれていて、細胞の老化と密接に関係している。細胞が分裂を繰り返すたびに、テロメアが短くなっていき、ある一定を超えると分裂できない状態におちいる。

 研究グループが、64歳~95歳の1,481人の女性を対象に調査した結果、運動ガイドラインで推奨されている、活発なウォーキングなどの運動を1日30分以上行っている女性は、座る時間が長くとも、テロメアが短くなりにくいことが示された。

 「運動の習慣化は、なるべく若い頃からはじめるべきであり、たとえ80歳になっても、運動を日常生活の一部にして続けるべきです」と、シャディアブ氏は指摘している。

早歩きをする習慣が体を若くする

 ウォーキングをする習慣があり、早歩きを続けている人は、生物学的年齢が16歳若返る可能性があることが、英レスター大学が40万人以上の成人の遺伝子データを調べた別の研究でも示されている。

 研究は、同大学生物医学研究センターが、英国国立衛生研究所(NIHR)の支援を受け行ったもの。研究グループは、英国バイオバンクに参加した、米金年齢が56.5歳の40万5,981人の遺伝子データを解析し、腕時計タイプの活動量計を装着してもらい、身体活動についても計測した。

 その結果、ウォーキングのペースが速い人は、テロメアが短くなりにくいことが分かった。テロメアは、実年齢から独立して、生物学的年齢を若くする因子になると考えられる。

 研究グループはこれまでも、1日にわずか10分の早歩きをすることで、平均余命が最大で20年延びることも明らかにしている。

細胞老化の蓄積は糖尿病や肥満のリスクを高める

 「早歩きをする習慣とテロメアの長さとのあいだに因果関係があることが示されました」と、同大学で身体活動疫学プログラムを研究しているパディ デンプシー氏は言う。

 「テロメアの長さと病気との関係について、さらに解明を進める必要がありますが、細胞老化の蓄積が、2型糖尿病や肥満などのリスクを高め、老化と関連の深いフレイルなどの原因になっていることが知られています」としている。

 ウォーキングなどの運動は、体のブドウ糖や脂肪酸の利用を高めて血糖値が低下したり、インスリン抵抗を改善するほか、心肺機能を高め、減量効果を期待でき、さらには筋肉や骨を丈夫にするなど、多くの健康増進の恩恵をもたらす。

 「運動をする習慣は、身体・メンタル・社会に多くの健康上のベネフィットをもたらします。ウォーキングの1日の歩数を増やすのに加えて、仕事場や駅までなるべく早歩きをするなど、歩行の速度を上げることもお勧めします」と、デンプシー氏は指摘している。

High biological age may increase the risk of dementia and stroke (カロリンスカ研究所 2023年11月8日)
Clinical biomarker-based biological ageing and future risk of neurological disorders in the UK Biobank (Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry 2023年11月5日)
Too Much Sitting, Too Little Exercise May Accelerate Biological Aging (カリフォルニア大学サンディエゴ校 2017年1月18日)
Associations of Accelerometer-Measured and Self-Reported Sedentary Time With Leukocyte Telomere Length in Older Women (American Journal of Epidemiology 2017年2月1日)
Stop the clocks: Brisk walking may slow biological ageing process, study shows (レスター大学 2022年4月20日)
Investigation of a UK biobank cohort reveals causal associations of self-reported walking pace with telomere length (Communications Biology 2022年4月20日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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