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2023年06月21日

糖尿病治療薬のメトホルミンに新型コロナの後遺症を防ぐ効果 リスクを最大で63%減少 認知症の予防にも

 糖尿病治療薬として広く使用されているメトホルミン(ビグアナイド薬)が、新型コロナの後遺症を防ぐのに有用であることを確かめたと、米ミネソタ大学医学部などが発表した。

 メトホルミンを服用している患者では、メトホルミンにより新型コロナの後遺症のリスクが、最大で63%減少したとしている。

 別の研究では、メトホルミンに認知機能の低下を遅らせる作用があり、認知症の予防に役立てられる可能性が示されている。

 メトホルミンは、多くの国で2型糖尿病の治療薬として利用されており、世界中で数百万人もの人々が血糖管理を改善するために使っている。やはり、医師から処方された薬を、指示通りきちんと服用し続けることが重要だ。

メトホルミンにより新型コロナの後遺症のリスクが減少

 糖尿病治療薬として広く使用されているメトホルミン(ビグアナイド薬)が、新型コロナの後遺症を防ぐのに有用であることを確かめたと、米ミネソタ大学医学部などが発表した。

 新型コロナの症状が出始めてから4日以内にメトホルミン投与を開始した患者では、メトホルミンにより新型コロナの後遺症の発症リスクが63%減少したとしている。

 メトホルミンは、日本でも2型糖尿病の治療に広く用いられている薬剤で、血糖コントロールを改善し、体重を増やしにくい飲み薬。肥満の人によく使われているが、肥満のない人でも効果がある。

 肝臓で糖を作る「糖新生」を抑えることで血糖を下げるのに加え、消化管からの糖の吸収を抑えたり、筋肉などでインスリンの効きを良くするといった特長がある。

 一方、新型コロナを発症した人で、治療をして感染性が消失した後で、後遺症があらわれる場合があることが知られている。

 新型コロナは、ほとんどの人は時間経過とともに症状が改善するが、一部の人で症状が長引くことがあり、海外では「ロングCOVID」と呼ばれている。

 症状は、疲労感や倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、睡眠障害、筋力低下などがある。

 新型コロナ以外の原因が明らかでなく、発症してすぐに症状があらわれたり、回復した後に新たにあらわれたり、症状が消失した後に再び症状が生じるなどさまざまだ。

メトホルミンを新型コロナの後遺症の予防に役立てる治療法の開発に期待

 ミネソタ大学医学部などの研究グループは、糖尿病薬のメトホルミンを含む3剤について、大規模な臨床試験を実施し、メトホルミンを服用した患者では、新型コロナの後遺症が少ないことを確かめた。

 対象となった薬は、細菌やウイルスが体に侵入したときの免疫に関与する炎症性サイトカインを減少させたり、ウイルスの繁殖と拡散を助ける細胞内のタンパク質を阻害する作用があるとみられている。

 同大学が中心となり実施している「COVID-OUT」研究は、新型コロナの後遺症を防ぐ治療法の開発を目的としている。新型コロナを発症した患者の最大10%が、後遺症を発症するとみられている。

 今回の試験には、過体重あるいは肥満のある30~85歳の成人患者1,350人が参加し、うち1,126人が9ヵ月以上の追跡調査を完了した。

 その結果、次のことが明らかになった――。

  • メトホルミン群は、プラセボ群に比べて、新型コロナの後遺症の発症リスクが40%以上低かった。
  • 新型コロナの症状が出始めてから4日以内にメトホルミン投与を開始した患者では、メトホルミンにより新型コロナの後遺症のリスクが63%減少した。
  • この効果は、さまざまな人口統計集団にわたり、またオミクロン変異体を含む複数のウイルス変異体にわたり、一貫していた。
  • 新型コロナの後遺症の予防効果が認められたのは、3剤のうちメトホルミンのみだった。

「新型コロナの後遺症は多くの人の生活に深刻な影響をもたらす可能性があり、今回の研究結果は重要です」と、同大学医学部プライマリケア部門のキャロリン ブラマンテ氏は言う。

 「今回の無作為化試験から得られた長期的な結果は、糖尿病治療薬であるメトホルミンが、新型コロナウイルスによる障害を防ぐことを示した質の高いエビデンスとなります」としている。

 「メトホルミンは安価で、広く入手可能な薬であり、使用実績が長く安全性が確認されています。メトホルミンを予防策として使用する治療は、公衆衛生に重大な影響を与える可能性があります」。

 「今後の研究では、以前に新型コロナに感染したことのある人や、肥満のないやせた人でも、メトホルミンに効果があるかを検証する可能性があります」と、ブラマンテ氏は述べている。

メトホルミンが認知機能の低下や認知症の予防に役立つ可能性も

 オーストラリアのニューサウスウェールズ大学ガーヴァン医学研究所による別の研究では、メトホルミンに認知機能の低下を遅らせる作用がある可能性が示された。研究成果は、「Diabetes Care」に掲載された。

 メトホルミンは、多くの国で2型糖尿病の薬物療法の第1選択薬になっており、世界中で数百万人もの人々が血糖管理を改善するために利用しているとしている。

 研究では、大規模調査「シドニー記憶・老化研究」に参加した70~90歳の男女1,037人を、6年間にわたり追跡して調査し、2年ごとに認知機能のテストを行った。うち、67人が2型糖尿病で、メトホルミンによる治療を受けていた。

 その結果、メトホルミンを服用している2型糖尿病患者は、認知機能や脳の機能の低下が遅く、認知症の割合が低いことが明らかになった。メトホルミンを服用していない人は、服用している人に比べ、認知症の発症率が5.29倍に上昇した。

 またメトホルミンを服用している患者では、認知機能テストでの思考や記憶能力のスコアの低下速度が遅いことも確認された。

 高血糖の状態が続くと、脳や神経の変性が促され、認知症のリスクが上昇すると考えられている。メトホルミンは、インスリン抵抗性を改善するとともに、脳の血管や神経組織の障害から保護している可能性が指摘されている。

 「過去10年の研究で、メトホルミンが、がん、心臓病、体重管理、多嚢胞性卵巣症候群、体重管理などのリスクを下げることが報告されています。2型糖尿病とともに生きる人は、年齢を重ねるにつれて、認知症の発症リスクが上昇するという報告もあり、今回の結果は多くの人を勇気づけるものです」と、同研究所で内分泌学を研究しているキャサリン サマラス教授は言う。

 「現在、認知症リスクのある人を対象に、メトホルミンによる大規模なランダム化比較試験を計画しています。高齢者の認知機能の低下を防ぐため、健康的な食事、運動の習慣化、社会活動への参加などに加えて、効果的な治療法の開発が求められています」としている。

ビグアナイド薬の服用では注意点も

 なお、ビグアナイド薬は腎臓から排泄される薬なので、肝機能や腎機能が低下している人が使うときには注意が必要になる。また、感染症などで体調を崩したとき(シックデイ)にも、調整が必要になるので、主治医に相談することが勧められている。

 また、ビグアナイド薬は1950年代から利用されていて、実績が長く、安全性が確かめられている薬だが、きわめてまれではあるものの、「乳酸アシドーシス」という副作用を起こすことがある。これは、血中の乳酸値が高くなり、血液が酸性になった危険な状態で、すぐに治療が必要となる。

 吐き気・嘔吐・腹痛・下痢などの胃腸症状・体がだるい・筋肉痛・呼吸が苦しいなどの症状が出ている場合は、医師に連絡する必要がある。あらかじめ医師や薬剤師に相談しておくことが望まれる。

 過度のアルコール摂取をしている人や、発熱・下痢・嘔吐・食事をとれないなどの理由で脱水が懸念される場合などにも気を付けたい。

新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A (厚生労働省)

Study shows metformin lowers the risk of getting long COVID (ミネソタ大学医学部 2023年6月9日)
Outpatient treatment of COVID-19 and incidence of post-COVID-19 condition over 10 months (COVID-OUT): a multicentre, randomised, quadruple-blind, parallel-group, phase 3 trial (Lancet Infectious Diseases 2023年6月8日)
COVID-OUT: Early Outpatient Treatment for SARS-CoV-2 Infection (COVID-19) (ClinicalTrials.gov)
Metformin treatment linked to slowed cognitive decline (ガーヴァン医学研究所 2020年9月24日)
Metformin Use Is Associated With Slowed Cognitive Decline and Reduced Incident Dementia in Older Adults With Type 2 Diabetes: The Sydney Memory and Ageing Study (Diabetes Care 2020年9月23日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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