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2021年10月28日

糖尿病の人は認知症のリスクが高い 7つのシンプルな方法で認知症リスクを減少

 2型糖尿病とともに生きる人が、認知症のリスクを減らすために、「血糖値をコントロールする」「タバコを吸わない」「腎臓の健康を保つ」など、7つの健康目標を満たすことが最良の方法となることが、オランダのマーストリヒト大学医療センターなどの研究で明らかになった。

 糖尿病の人が認知症を発症するメカニズムを解明する研究も行われている。認知症を予防するために何が必要となるか、最近の研究で多くのことが分かってきた。
どうすれば糖尿病の人の認知症リスクを減らせるか
 認知症の有病者は、世界中で急速に増加している。効果的な対策をしないでいると、認知症の人の数は2050年まで現在のほぼ3倍の1億5,200万人超に増えると予測されている。

 認知症の効果的な治療法はまだ発見されていないので、予防することが重要になっている。生活スタイルに関連するさまざまな要因が、認知症を発症するリスクに影響をもたらすと考えられている。

 2型糖尿病の人は、血糖コントロールが良好でないなどの危険因子があると、認知症を発症するリスクが高く、認知機能の障害や、記憶力の低下などのリスクも高いことが知られている。危険因子を改善できれば、認知症などの発症リスクを抑えられると考えられている。

 今回の研究は、糖尿病とともに生きる人々が、危険因子をどの程度改善すると、認知症の発症リスクを低下できるかを調べたもの。詳細は、9月~10月にオンライン開催された第57回欧州糖尿病学会(EASD2021)で発表された。
7つの方法で糖尿病の人の認知症リスクが低下
 「UKバイオバンク」は、遺伝的素質や環境因子が健康にもたらす影響を調査している、英国の大規模な前向きコホート研究。マーストリヒト大学医療センターなどの研究グループは、UKバイオバンクに参加している8万7,856人を平均9年間追跡して調査した。うち、1万663人が糖尿病で、7万7,193人が糖尿病ではない対照群だった。

 認知機能のテストで、記憶、実行能力、処理速度などを調べ、脳スキャンで、白質病変や全脳容積などの脳の異常について調べた。期間中に、糖尿病群の1.4%、対照群の0.5%が認知症を発症した。2型糖尿病群では対照群に対し、認知症の発症リスクが88%高かった。

 解析した結果、「血糖値を目標範囲にコントロールする」「タバコを吸わない」「腎臓の健康を保つ」など、7つの健康目標を満たすことが、認知症のリスクを減らすための最良の方法となることが明らかになった。

 7つの健康目標は、具体的には以下の通り――。

タバコを吸わない喫煙習慣のある人は禁煙を。
血糖コントロールHbA1c7%未満を維持する。
血圧コントロール血圧130/90mmHg未満を維持する。
健康的な体重体格指数(BMI)が20~25の標準体重を保つ。
腎臓の健康糖尿病性腎症の指標となるアルブミン尿が出ない状態を維持する。アルブミン尿は腎機能の低下を示すタンパク尿。
運動や身体活動週に150分以上の適度な運動をする。
健康的な食事米国心臓学会(AHA)の食事ガイドラインにもとづく健康的な食生活。

 7つの目標のうち、5つ以上を満たしている人は、認知症を発症するリスクが1.32倍に抑えられていた。目標の達成数が1つ増えるごとに、認知症リスクは20%低下した。健康目標の達成数が多いほど、脳の異常を示す白質病変が少なく、全脳容積も大きかった。

 「糖尿病患者さんは、認知症のリスクが高く、認知能力の低下や、脳の異常が起こりやすいことが知られています。しかし、その危険因子は修正可能です。危険因子を減らし、生活スタイルを改善することが、認知症リスクを低下するのに有用であることが示されました」と、マーストリヒト大学医療センターのエイプリル ファン ジェニップ氏は述べている。
食事や運動などの健康習慣で認知症リスクを減らせる
 マーストリヒト大学のこれまでの研究で、健康的な生活スタイルは、脳の健康を守り、認知症を予防するために役立つことが示されている。同大学などは、認知症を予防するためのスコアを開発し、「脳の健康のための生活スタイル(LIBRA)」として提唱している。

 このLIBRAスコアは、▼喫煙、▼アルコール摂取、▼運動不足、▼糖尿病、▼高血圧、▼高コレステロール、▼肥満や過体重、▼うつ病、▼不活発な生活など12の要素からなる。これらは、認知症の危険因子となるので、改善が望まれる。

 「認知症のリスク因子を示すこのスコアで、55歳で高得点が示された人は、たとえば喫煙をやめたり、食事を健康的なスタイルに変える、運動を習慣として行うなど、生活スタイルを改善することで、認知症のリスクを減らすことができます」と、同大学の精神医学・神経心理学部のステファニー ヴォス氏は言う。

 平均年齢59歳の4,164人を対象とした試験研究では、LIBRAスコアが低いほど、つまり危険因子が少ないほど、脳の健康が改善され、認知症の症例が実際に少なくなることを確かめられた。逆にスコアが高いほど、認知症の症例は多くなった。

 「シンプルなスコアが脳の健康の指標になる可能性があることは興味深い。食事を改善したり、運動や身体活動を増やしたり、アルコールの飲み過ぎを控えるなど、生活を健康的に変えていくとスコアを改善できます」としている。

なぜ血糖コントロールが良くないと認知症に? メカニズムを解明

 アルツハイマー病は、脳の細胞が損傷を受けることで発症し、認知症でもっとも多い。糖尿病により高血糖の状態が続くと、脳機能が変化し、アルツハイマー病のリスクを高めることが、米ネバダ大学の新たな研究で明らかになった。

 血糖コントロールは改善可能であり、認知症を予防するために重要であることが示された。生活スタイルの改善が、認知症リスクを低下するために有用であることがあらためて示唆された。

 「アルツハイマー病の発症数は世界的に急速に増えており、糖尿病と糖尿病予備群もまた増えています。これら2つの疾患の関係を解明することが必要です」と、同大学ラスベガス校脳保健学部のジェファーソン キニー教授は言う。

 研究グループは、糖尿病のラットを使い実験を行い、血糖値が高い状態が慢性的に続くと、脳の神経活動が損なわれ、作業記憶ネットワークが変えられることを突き止めた。それにより記憶が損なわれると考えられる。

 記憶や意思決定などの知的な活動に関わる脳のさまざまな部分が連携するために、同期が重要だという。脳の神経の働きを接続させるために、適切なタイミングで同期が行われる必要があるが、アルツハイマー病の患者の脳では過剰な接続が起きている可能性がある。

 「高血糖により引き起こされる神経活動の変化が、アルツハイマー病の発症に大きく関わることがはじめて解明されました。こうした危険因子は、脳の構造や認知機能にも関連しています。どうすればアルツハイマー病を予防できるか、さらに研究を進める必要があります」としている。

Global dementia cases forecasted to triple by 2050(アルツハイマー病協会 2021年7月27日)
Add it up: Could this test equal a way to determine dementia risk?(米国神経学会 2021年8月25日)
Associations of the Lifestyle for Brain Health Index With Structural Brain Changes and Cognition: Results From the Maastricht Study(Neurology 2021年9月28日)
Association of Type 2 Diabetes, According to the Number of Risk Factors Within Target Range, With Structural Brain Abnormalities, Cognitive Performance, and Risk of Dementia(Diabetes Care 2021年11月)
Cognition and Dementia(マーストリヒト大学)
Link between diabetes and Alzheimer's disease bolstered(ネバダ大学 2021年9月28日)
Altered theta rhythm and hippocampal-cortical interactions underlie working memory deficits in a hyperglycemia risk factor model of Alzheimer's disease(Communications Biology 2021年9月3日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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