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2020年09月14日

インスリン分泌を促進する新たなメカニズムを発見 MODY(若年性糖尿病)の治療法の開発へ

 国立長寿医療研究センターなどは、インスリン分泌を強力に促進するアミノ酸である「アルギニン」の新しい作用メカニズムを解明したと発表した。
 アルギニンによる新たなインスリン分泌メカニズムを解明することで、新たな糖尿病の治療薬や、現在は根本的な治療法のない「MODY(若年発症成人型糖尿病)」の治療法を開発できる可能性がある。
インスリン分泌を強力に促進するアルギニン
 糖尿病の人が血糖値などのコントロールが良好でないと、平均寿命は男女ともに10年短くなるとされているが、これは同時に、糖代謝を改善すれば寿命を10年のばせることを意味している。

 インスリンは、糖代謝を制御するもっとも重要なホルモンだ。日本人は欧米人に比べ、インスリン分泌能が低いことが知られており、日本人のインスリン分泌を促進するメカニズムを解明することが課題になっている。

 一方、「アルギニン」は、準必須アミノ酸のひとつで、インスリン分泌を強力に促進する作用があるが、その作用メカニズムはよく分かっていない。

 そこで、国立長寿医療研究センターや東京医科大学などの研究グループは、小胞体でのアルギニンの作用機序の解明に取組み、小胞体とは異なるアルギニンの第2のターゲットである「グルコキナーゼ」を同定した。

 研究は、同センター老化制御研究部の今井剛部長(東京医科大学・客員教授)、東京医科大学ケミカルバイオロジー講座の半田宏特任教授、岐阜大学、東京大学、アイオワ大学らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Communications Biology」に掲載された。

関連情報
アルギニンの作用メカニズムを解明
 アルギニンが強力にインスリン分泌を促す作用メカニズムについては、これまで明らかになっていなかったが、研究グループは今年5月に、小胞体でのアルギニンの作用メカニズムを解明するのに成功した。

 今回の研究では、分泌小胞でのアルギニンの作用において、グルコキナーゼという酵素を介していることを明らかにした。グルコキナーゼは、全身のグルコース(糖)の恒常性を保つうえで重要な役割を果たしている。

 まず、アルギニンはグルコキナーゼに結合すると、キナーゼ活性の亢進およびグルコキナーゼの寿命延長の働きをし、インスリン分泌を促進することを確かめた。

 さらに、グルコキナーゼのアルギニンと結合する部位を同定したところ、3つのグルタミン酸残基(E256、E442、E443)を含むことが判明。

アルギニンによるグルコキナーゼを介したインスリン分泌促進機構
出典:国立長寿医療研究センター、2020年

インスリンポンプ・ SAP・CGM情報ファイル
「MODY(若年発症成人型糖尿病)」の発症機序を解明
 「MODY(若年発症成人型糖尿病)」は、若年で発症する、肥満をともなわない、遺伝的障害による糖尿病。日常診療では気付かれず、1型や2型糖尿病として治療されることも多いが、家族歴に着目し、遺伝子検索を行った結果、実はMODYであることが発見されたケースもある。

 MODYは、糖代謝に関わる遺伝子の機能障害が原因となって発症する糖尿病と考えられている。インスリンの転写因子など、膵臓のβ細胞の機能維持で重要な働きをする12種類の遺伝子が同定されており、MODY2はその1つだ。

 今回の研究では、グルコキナーゼのアルギニンと結合する部位が変異すると、MODYを発症することが示された。

 MODYの患者にアルギニンを投与し、インスリン分泌を測定したところ、健康な人に比べて低下していることが分かった。これは、アルギニンがグルコキナーゼに結合できず、インスリン分泌不全になり、糖尿病を発症したことを示している。
MODY2の治療法やインスリン分泌を促進する治療薬の開発に期待
 研究グループは次に、アルギニンがグルコキナーゼの量的変化をコントロールしていることを明らかにした。

 「ユビキチン」は76個のアミノ酸からなるタンパク質で、タンパク質の分解やDNA修復、シグナル伝達などさまざまな生命現象に関わっている。ユビキチンリガーゼは、ユビキチン化を触媒しタンパク質分解にかかわる酵素で、その1つがセレブロンだ。

 アルギニンが少ない、いわゆる絶食状態になると、アルギニンはセレブロンと結合し、グルコキナーゼが分解される。一方、食後などにアルギニンが高くなると、グルコキナーゼはセレブロンと乖離し、糖(グルコース)をリン酸化し、グルコース6リン酸へ変換し、その結果、インスリン分泌が促進されることが明らかになった。

 今回の研究により、アルギニンによるグルコキナーゼを介した新たなインスリン分泌メカニズムが明らかになった。研究成果は、MODY2の根本治療法の開発や、インスリン分泌を促進する新たな糖尿病治療薬の開発に役立てられると期待されている。

グルコキナーゼに結合するアルギニンの立体構造
出典:国立長寿医療研究センター、2020年

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老化制御研究部
東京医科大学 ケミカルバイオロジー講座
UGGT1 retains proinsulin in the endoplasmic reticulum in an arginine dependent manner(Biochemical and Biophysical Research Communications 2020年6月30日)

インスリンポンプ・ SAP・CGM情報ファイル
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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