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2018年06月01日
長時間の残業と睡眠不足が糖尿病リスクを上昇 3万人を調査
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- メンタルヘルス ライフスタイル 糖尿病の検査(HbA1c 他) 糖尿病予備群
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残業が多く勤務時間が長く、睡眠を十分に摂れていない人は、2型糖尿病を発症するリスクが高いことが、「J-ECOHスタディ」の解析で明らかになった。
残業時間が月当たり45時間を超え、かつ睡眠を十分にとれていないと、2型糖尿病を発症するリスクが1.42倍に上昇するという。
ただし、睡眠を十分にとっていれば、長時間労働による健康への悪影響を打ち消せる可能性がある。
残業時間が月当たり45時間を超え、かつ睡眠を十分にとれていないと、2型糖尿病を発症するリスクが1.42倍に上昇するという。
ただし、睡眠を十分にとっていれば、長時間労働による健康への悪影響を打ち消せる可能性がある。
働く世代の健康状態を調査
「職域多施設研究」(J-ECOHスタディ)は、国立国際医療研究センターなどが、関東・東海に本社をおく12企業(約10万人)を対象に、産業医と疫学専門家が共同で実施している多施設共同研究。働く世代における2型糖尿病などの生活習慣病や作業関連疾患を予防し、職域健康診断の有効性や効率を高めることを主な目的としている。
J-ECOHスタディは、定期健康診断、循環器疾病、死亡、長期病休など事業場の健康管理資料を活用した大規模な研究だ。併せて、脳卒中および心筋梗塞に関する症例対照研究や、食生活や運動に関するサブスタディを進めている。2018年度からは、健康的な働き方を資するための新たな調査に取り組んでいる。
今回の研究は、国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学予防研究部の桑原恵介客員研究員らのグループによるもの。詳細は医学誌「Journal of Epidemiology」オンライン版に発表された。
関連情報
長時間労働によるストレスや生活習慣の影響
「人口減」と「超高齢化」の下で持続可能な社会の仕組みを構築していくことが、現在の日本の最大の課題だ。その処方箋のひとつとして国が進めているのが「働き方改革」だ。政府は2017年に、「残業上限規制」などを柱とする働き方改革実行計画をまとめた。
長時間の残業は、糖尿病や高血圧のリスクを高め、脳卒中や心筋梗塞の危険性を高めるという調査結果は過去にも報告されている。長時間労働によるストレスや生活習慣が影響しているとみられている。
研究グループは、4つの企業に勤める会社員のうち、2008年または2010年に健診を受けた30〜64歳の男女2万8,489を2014年まで追跡して調査した。4.5年の平均追跡期間中に、1,975人が2型糖尿病を発症した。
対象者を月当たりの残業時間で4つの群に分けて2型糖尿病リスクとの関連を調べ、さらに、生活習慣に関する詳しいデータが得られた1社(2万7,590人)において、月当たりの残業時間(45時間未満または45時間以上)と1日の睡眠時間(5時間未満または5時間以上)で4つの群に分けて、残業時間および睡眠時間と2型糖尿病との関連を調べた。
長時間労働に睡眠不足が加わると糖尿病のリスクが上昇
その結果、残業時間がもっとも短い群(40時間または45時間未満)と比べ、もっとも長い群(100時間以上または100時間超)で、2型糖尿病の発症に差はみられなかった。
次に、残業時間と睡眠時間を組み合わせてこれらの関連をみたところ、「残業が月当たり45時間以上かつ睡眠時間が5時間未満」だった人では、「残業時間が45時間未満で睡眠時間が5時間以上」だった人と比べて、2型糖尿病リスクは1.42倍に上昇することが分かった。
一方で、45時間以上の残業をしていても、睡眠時間が5時間以上だった人では2型糖尿病リスクの上昇はみられなかった。
今回の調査について、研究グループは「長時間労働に睡眠不足が加わると、2型糖尿病のリスクが上昇することが分かった。日々の生活の中で睡眠時間はともすれば犠牲になりがちで、また睡眠の問題は見逃されがちだ。睡眠習慣の問題や睡眠障害を放置しないことが大切」と述べている。
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男性は3人に1人、女性は5人に1人が糖尿病を発症する可能性がある
「J-ECOHスタディ」では、5万人を超える60歳未満の会社員を対象に、糖尿病リスクについての調査も行っている。調査は、国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学予防研究部の胡歓歓上級研究員らによるもので、医学誌「Journal of Epidemiology」オンライン版に発表された。
それによると、男性は3人に1人(34.7%)、女性は5人に1人(18.6%)が65歳までに2型糖尿病を発症する可能性があるという。BMI(体格指数)の高い肥満の人ほど、この傾向は顕著だ。
研究グループは「肥満には生活習慣や生活環境が大きく関与している。特に30歳以上の肥満の人を対象とした2型糖尿病の予防策に力を入れるべきだ」と強調している。
Sleep Duration Modifies the Association of Overtime Work With Risk of Developing Type 2 Diabetes: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study(Journal of Epidemiology 2018年2月3日)Development and validation of risk models to predict the 7-year risk of type 2 diabetes: The Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study(Journal of Diabetes Investigation 2018年1月30日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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