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2018年06月04日
「糖尿病の飲み薬」を知って効果的に治療 HbA1cは改善している
糖尿病の治療で使われる経口薬(飲み薬)は7種類。治療効果を引き出すためにも、安全に治療するためにも、それぞれの薬の効果や副作用について、知っておくと安心できる。
2型糖尿病患者のHbA1cは改善している
糖尿病の経口薬(飲み薬)は7種類に増え、糖尿病の治療は進歩している。全国の糖尿病専門医が参加している「糖尿病データマネジメント研究会」の調査によると、HbA1c値の平均は1型糖尿病患者で7.75%、2型糖尿病患者で7.15%となり、10年間で改善している。
これは「DPP-4阻害薬」や「GLP-1受容体作動薬」、「SGLT2阻害薬」などの新しい薬剤が使われるようになり、いつくかの薬剤を併用することで血糖・体重コントロールが改善しているからだ。
日本では個々の患者の病態に合わせて治療薬を選択することが推奨されている。一剤だけではなく、これらの治療薬を組み合わせると、多くの場合で良好な血糖コントロールが得られるようになる。また、インスリンやGLP-1受容体作動薬といった注射薬と併用する場合もある。
ただし、薬による治療では副作用に十分な注意が必要だ。どのような作用や副作用があるかを患者が事前に知っておけば、副作用が起きたときに医師や医療スタッフに相談しやすい。
血糖が下がりすぎる低血糖に注意
海外で実施されたDCCT試験や、DCCT/EDIT試験、UKPDS、日本で実施された熊本スタディなどの臨床研究では、薬物療法によりできるだけ早期から積極的に血糖コントロールを行うと、血管合併症や死亡リスクが低下することが明らかになっている。
一方で、血糖値を下げる作用が効き過ぎ、血糖値が低くなり過ぎる「低血糖」には注意が必要だ。薬をいつも通り使用していても、ふだんと違って食事を抜いたり、食事の量が少なかったり、運動量が多いときなどに、低血糖は起こりやすい。
低血糖になると、まず空腹感、脱力感、冷や汗、震え、動悸などが現れる。血糖値がさらに下がると、頭痛、吐き気、目のかすみ、集中力の低下などが起こる。さらに下がると、意識障害、痙攣などが起こる。
ACCORD試験では、2型糖尿病の治療で厳格な血糖コントロールを目指すと、重い低血糖が増加し、交感神経系の過度の興奮や、中枢神経系の症状による意識レベルの低下などが起こるおそれがあることが示された。この教訓を受けて、現在の糖尿病の治療では、低血糖を避けながら高血糖を改善し、血糖変動が小さく保たれた良好な血糖コントロールが目指されている。
血糖値を下げ、低血糖が起こりにくい薬
● DPP-4阻害薬
シタグリプチンリン(ジャヌビア、グラクティブ)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、テネリグリプチン(テネリア)、アナグリプチン(スイニー)、サキサグリプチン(オングリザ)など
「DPP-4阻害薬」は、日本でもっとも多く処方されている糖尿病治療薬だ。糖尿病を発症して間もない患者が最初に処方される薬でも「DPP-4阻害薬」が多い。
「DPP-4阻害薬」は、食後の血糖値が上昇しそうになったときだけ、インスリンの分泌を促進させる。食事をして小腸からブドウ糖が吸収されると、インクレチンというホルモンが血中に分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進する。
インクレチンは短時間で血中のDPP-4という酵素によって分解される欠点があるが、「DPP-4阻害薬」はDPP-4の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくする。その結果、インクレチンの作用が高まり、食後のインスリン分泌を増やし、血糖値を下げる。
「DPP-4阻害薬」は単剤使用では低血糖が起こりにくく、体重増加も起こりにくいが、後述の「スルホニル尿素(SU)薬」や「インスリン」などと併用した場合に低血糖が起こることがある。併用する場合はSU薬の用量を減らすなどして調整する必要がある。
最近では週に1回内服すれば良い、作用時間の長い薬も発売されている。SU薬やビグアナイド薬を使えない高度の腎臓の障害のある患者にも使える薬も出ており、「DPP-4阻害薬」を利用する患者は増えている。
インクレチン関連薬は、インスリンとは異なり、あくまで自身のインスリン分泌能がある程度保たれている2型糖尿病が適応となる。後述の「SGLT2阻害薬」と「DPP-4阻害薬」の配合薬もある。作用機序が異なるので治療効果が高いこと、併用しても低血糖リスクが増えないなどの利点がある。
また、週1回服用するタイプも出ている。これを使えば服用回数数が少なくなり、服薬遵守率が高くなると期待されている。
● ビグアナイド薬
ブホルミン塩酸塩(ジベトス)、メトホルミン塩酸塩(メトグルコ、グリコラン)など
「ビグアナイド薬」は主に肝臓に作用する薬だ。空腹時に肝臓はエネルギーを供給するため、血液中にブドウ糖を放出する。糖尿病のある人では、このブドウ糖の放出が過剰になることがある。これを抑えることで血糖値を下げる効果を得られる。
この薬は、インスリンの働きを良くするが、インスリン分泌量を増やさないので、体重が増えにくいという利点がある。また、単剤使用では低血糖はほとんど起こらない。
糖尿病の重要な原因のひとつである「インスリン抵抗性」は、インスリンが効きにくくなった状態をさす。過食や運動不足などを続けて肥満になると、糖を筋肉細胞に取り込ませるインスリンの働きが阻害されて、食後に上がった血糖値が下がりにくくなってしまう。「ビグアナイド薬」には、このインスリン抵抗性を改善する作用がある。
しかし、「ビグアナイド薬」はまれにだが「乳酸アシドーシス」という副作用を起こすことがある。吐き気や腹痛などの胃腸症状、倦怠感、過呼吸などの症状が現れたら、すぐに薬を中止して主治医に連絡する必要がある。この薬は腎臓や肝臓の機能が低下している場合や、心臓や肺に病気がある患者、高齢者には処方されない。
大腸がんや肝臓がんなどの発症を抑制するという報告もあり注目されている。「ビグアナイド薬」を服用している患者は増えている。
● SGLT2阻害薬
イプラグリフロジンL-プロリン(スーグラ)、ダパグリフロジンプロピレングリコール(フォシーガ)、ルセオグリフロジン(ルセフィ)、トホグリフロジン(デベルザ、アプルウェイ)、カナグリフロジン(カナグル)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)など
「SGLT2阻害薬」は、腎臓に作用する薬で、血液中のブドウ糖を尿の中に多量に排出させることで血糖値を下げる。体重の低下作用があるので、肥満があり、体重を落としたい人に向いている薬だ。2014年に登場した薬だが、これまでにない新しい作用をもつ薬として注目されている。
インスリン分泌やインスリン作用とは独立して作用するため、異なる作用機序をもつ他の糖尿病薬とも併用が可能だ。「糖毒性」は、高血糖が起こり膵臓が障害され、インスリンの分泌量が低下したり、インスリン抵抗性が引き起こされる状態を言う。この薬は、糖毒性を解除しインスリン分泌の改善、インスリン感受性の回復をもたらし、膵臓のβ細胞の負担も軽減すると考えられている。
心筋梗塞などの心血管イベントのリスクが高い患者では、「SGLT2阻害薬」の使用により、心血管イベントが改善するという報告がある。さらに、腎機能についても保護作用があるという報告があり、注目されている。
「SGLT2阻害薬」は脱水、尿路感染などの副作用が起こることがある。サルコペニアやADLの低下など、老年に多い疾患のある患者には慎重に使うことが推奨されている。また、単剤使用では低血糖が起こりにくいが、「スルホニル尿素(SU)薬」や「インスリン」などと併用した場合に低血糖が起こることがある。
インスリン分泌を促進し、全般に血糖値を下げる薬
● スルホニル尿素(SU)薬
グリベンクラミド(ダオニール、オイグルコン)、グリクラジド(グリミクロン)、グリメピリド(アマリール)など
「スルホニル尿素(SU)薬」は、膵臓に働きかけて、インスリン分泌を促進させる。日本人に多いインスリンの分泌する働きが弱まったタイプの糖尿病に効果がある。
膵臓のランゲルハンス島にあるインスリンを分泌するβ細胞に直接働きかけて分泌を促進し(インスリン分泌刺激作用)、インスリンの基礎分泌、追加分泌の量を増加させることで血糖を下げる。
古くから使われている薬剤で、安全性が確かめられており安価で、インスリン分泌を刺激する強力な作用を得られるが、血糖値が高くても低くても、同じように働くため、副作用として低血糖を起こすことがある。そのため、十分な注意が必要となり、「少量を使い」「他の血糖降下薬とうまく併用する」治療が一般的だ。
食後の高血糖を改善する薬
動脈硬化を予防するためには、食後血糖値(食べ始めてから1~2時間後)を140mg/dL未満にコントロールする必要がある。2型糖尿病の多くは、食後の急峻な血糖上昇が起こり、これがさまざまな変化を引き起こす。酸化ストレスもそのひとつで、血管の内膜の機能を障害し、動脈硬化の原因になると考えられている。
● 速効型インスリン分泌促進薬
ナテグリニド(ファスティック、スターシス)、ミチグリニドカルシウム水和物(グルファスト)、レパグリニド(シュアポスト)など
膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出すように働く薬で、「グリニド薬」とも呼ばれる。後述のスルホニル尿素(SU)薬に比べ、服薬後短い時間でインスリンが分泌され、作用時間は短い点が特徴となり、食後インスリン分泌を生理的なパターンに近づける作用がある。
空腹時血糖値はそれほど高くないが、食後に高血糖が起こる患者に良い適応になると考えられている。この薬は食事の直前に服用する。副作用としては、スルホニル尿素(SU)薬と同様に、低血糖に注意が必要だ。
なお、「α-グルコシダーゼ阻害薬」と「速効型インスリン分泌促進薬」の配合剤も出ている。速効性・短時間作用型の「グリニド薬」に、食後の糖質消化・吸収を遅延する「α-グルコシダーゼ阻害薬」を配合することで、食後高血糖を効果的に改善できると考えられている。
● α-グルコシダーゼ阻害薬
アカルボース(グルコバイ)、ボグリボース(ベイスン)、ミグリトール(セイブル)など
小腸に作用し、食べたものに含まれる糖質がブドウ糖に分解される速度を遅くする薬。ブドウ糖がゆっくり吸収されるため、食後の急激な血糖値の上昇を抑える。
食後にインスリンが分泌しにくい人では、食後の血糖値は急峻なピークを示すが、「α-グルコシダーゼ阻害薬」により糖質吸収が遅くなるため、なだらかな血糖推移を示すようになる。
毎食前に飲む必要があり、作用機序から食事時のインクレチンの分泌促進も期待できる。副作用としてお腹の張り(腹部膨張感)、放屁の増加、便秘などがあらわれることがある。
インスリン、スルホニル尿素(SU)薬、グリニド薬を併用している患者が低血糖になると、砂糖が吸収されにくい状態となってるため、低血糖が改善しない場合がある。低血糖のときはブドウ糖を服用する必要がある。
インスリンを効きやすくする薬
● チアゾリジン薬
ピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)
「チアゾリジン薬」は、主に脂肪組織に作用する薬。肥満があると、脂肪組織からインスリンの働きを悪くする物質が分泌される。この薬はこれに働きかけ、脂肪組織の質を変えて、この物質の分泌を抑える。その結果、全身でインスリンが働きやすくなり血糖値が下がる。
「チアゾリジン薬」は体液貯留を促し、足などがむくむ副作用が起こることがある。
高齢者の薬物療法の注意点は?
高齢者では腎臓や肝臓の機能が低下している場合が多く、そうした人が血糖を下げる薬を使うと、薬を排泄・分解する力が弱いために、薬が効きすぎて低血糖になったり、副作用がでたりすることがある。
また、高齢者では低血糖のときに、自律神経症状である冷や汗、震え、動悸などの症状がはっきり出ない場合がある。また、「頭がくらくらする」「目がかすむ」「ろれつが回らない」「元気がない」など典型的でない低血糖症状を示すため、低血糖が見逃されやすく、結果として重症低血糖を起こしやすくなる。
「SU薬」や「速効型インスリン分泌促進薬」を飲んでいる人は、重症低血糖を起こす可能性がある。血糖コントロールの目標について主治医と相談し、自覚症状についてよく主治医に伝える必要がある。また、食事が十分にとれていない状況や、体調が悪いときに(シックデイ)これらの薬を使い続けると、低血糖が起こりやすくなるので注意が必要だ。
「DPP-4阻害薬」は、前述した通り「SU」や「インスリン」などと併用した場合に低血糖が起こることがある。「SU薬」と併用するときは用量を減らすのが一般的だ。また、「SGLT2阻害薬」は、脱水・尿路・性器感染症、低栄養やサルコペニアなどの副作用が懸念される薬剤なので、ADL(日常生活動作)の低下などのある高齢者では慎重に使うことになっている。
低血糖にならないようにするための注意、低血糖になったときの対応方法については、主治医や薬剤師、看護師が教えてくれる。自分の使用している薬が分からない人は、一度確認するようにしよう。
第61回日本糖尿病学会年次学術集会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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