ニュース

2018年04月17日

日本IDDMネットワークが新たな研究支援 「1型糖尿病を根絶」

 1型糖尿病の患者・家族を支援する認定NPO法人の「日本IDDMネットワーク」は、1型糖尿病の根絶(治療、予防、根治)に取り組む研究者を支援する活動を行っている。このほど順天堂大学と協力して受託研究を開始し、佐賀大学へは研究助成を行うことを発表した。
 日本IDDMネットワークは、1型糖尿病を『治らない』病気から『治る』病気にするために、活発な支援活動を行っている。
「1型糖尿病の根絶」を目指して
 1型糖尿病は、自己免疫などにより膵臓のβ細胞が壊れてしまい、インスリンが分泌されなくなってしまう疾患。生涯にわたり毎日4〜5回の注射またはポンプによるインスリン補充がないと数日で死に至る難病だ。

 糖尿病患者の大半を占める2型糖尿病に対し、1型糖尿病の日本での年間発症率は10万人当たり1〜2人と希少であり、患者と家族の精神的、経済的負担は大きい。

 1型糖尿病の患者・家族を支援する認定NPO法人の「日本IDDMネットワーク」(理事長:井上龍夫氏、佐賀県佐賀市)は2018年4月に、順天堂大学と協力して、1型糖尿病を根治する治療の開発を目指す受託研究を開始した。

 皮膚などの体細胞から直接インスリンを分泌する細胞を高効率で作製し、細胞移植により1型糖尿病を根治する治療法を開発し、2025年までの臨床研究の実現を目指す。 この研究助成金は、佐賀県によるNPO等指定ふるさと納税などを財源としている。
体細胞からインスリン分泌細胞を作製
 今回の助成の対象となった共同研究のテーマは「細胞治療による1型糖尿病根治法の開発」。
研究者:
岡康司 教授(順天堂大学大学院医学研究科難治性疾患診断・治療学、難病の診断と治療研究センター長)
松本征仁 准教授 (順天堂大学大学院医学研究科先進糖尿病治療学講座、難病の診断と治療研究センター)

 研究は、皮膚などの体細胞から、幹細胞を経ることなく直接変換(ダイレクトリプログラミング)することで、インスリン分泌細胞を高効率で作製するというもの。マウスの実験では皮膚や脂肪などの細胞に4つの遺伝子などを導入し、インスリンを分泌する細胞を作り出すことに成功した。
はじめての「循環型研究資金」
 この技術は前例がなく、実験の成功率はいずれも約80%と効率がきわめて高いことが分かった。日本IDDMネットワークが提供する研究資金は1年間で1,000万円だが、成果に応じて支援を継続する可能性があるという。

 これまでNPO法人と大学との間では、研究助成という形での支援が一般的だったが、この度の受託研究では、研究成果が実用化され実施料収入が生じた場合に、その収入を次の研究資金として日本IDDMネットワークに還元する「循環型研究資金」の仕組みを採用している。

 「患者・家族が中心になって、大学と研究資金の循環を作り出す取り組みは、国内ではじめてです。還元される資金をもとに、1型糖尿病根絶に向けた研究がさらに進展することを期待しています」と、井上理事長は言う。

 「研究の技術と知識が新たな1型糖尿病の治療法を開発・確立し、一日も早く"インスリン注射と毎日の血糖管理から解放されたい"という患者さん・ご家族の切実な思いに応えられるよう研究に取り組みます」と、松本征仁准教授は述べている。
1型糖尿病の発症を防ぐ「ワクチン」を開発
 日本IDDMネットワークは2018年3月に、永淵正法氏(佐賀大学医学部客員研究員・九州大学名誉教授)による1型糖尿病を発症させない「ワクチン開発」研究に対して、2,100万円の研究助成金を贈呈した。

 1型糖尿病が発症するまでの経過のひとつとして、(1)「1型糖尿病を引き起こす(誘発する)ウイルス」が、(2)「そのウイルスによって1型糖尿病が引き起こされやすい遺伝子をもっているヒト」に感染した場合に、(3)1型糖尿病を発症すると考えられている。

 永淵正法氏らは、マウスとヒトのウイルス糖尿病にかかりやすい遺伝子を世界ではじめて発見した。研究では、これらのウイルス糖尿病感受性遺伝子から出発して、糖尿病を誘発するウイルスの検出方法を開発することを目指している。
国際的先端研究拠点を形成
 プロジェクトでは、1型糖尿病を引き起こしやすいウイルスをより高い感度で見つけるために、ウイルスによって1型糖尿病を起こしやすい遺伝子をもつマウスの開発を進めている。

 1型糖尿病を引き起こすウイルスの特定ができれば、それをもとにウイルスワクチンを開発して、ウイルス糖尿病の発生予防やリスク低下が可能になる。ワクチン開発に向け、九州大学の研究グループが佐賀大学のグループに合流し、ウイルス糖尿病の臨床研究と基礎研究が融合した国際的先端研究拠点を形成する。

 ワクチン開発に向けた臨床応用、臨床実施の実現まで視野に入れており、研究を3年継続させれば、展望が見えてくるという。
「1型糖尿病の根絶」を目指して
 「日本IDDMネットワーク」は、全国の1型糖尿病患者とその家族を支援する活動をしている認定特定非営利活動法人。その活動は、患者・家族への情報提供から災害対応などさまざまだが、究極のゴールとして「1型糖尿病の根絶」を掲げている。

 1型糖尿病の根絶(治療、予防、根治)に取り組む研究者を支援し、1日でも早くその研究が実用的な医療になることを願っている。1型糖尿病を『治らない』病気から『治る』病気にするための方策として、2005年に「1型糖尿病研究基金」を設立した。

 現在では、佐賀県のふるさと納税の仕組みや、さまざまなクラウドファンディングを活用して、患者・家族はもとより、患者・家族以外からも共感され、多くの寄付金を集めている。これまでに42件の研究課題に対して2億2,860万円の研究助成を実施してきた。

 「日本では患者・家族が中心になって自らの疾患の根絶のために研究助成を行っている例は極めて少ない。日本IDDMネットワークは患者団体活動の先駆的な事例になる」と井上龍夫理事長は述べている。

子供たちを注射から解放する挑戦(いのち×ふるさとチョイス)
佐賀県のふるさと納税 課題解決に取り組むNPOを支援
 今回の研究助成は、佐賀県庁への日本IDDMネットワーク指定のふるさと納税を通じて寄せられた寄付などを財源としている。ふるさと納税は、自治体を選んで寄付をすると、税金の控除が受けられたり、お礼の品がもらえたりする制度。

 佐賀県では「ふるさと納税」として寄付をする人が使途を指定することができ、指定先は県内のNPOでも可能だ。この制度を使えば寄付者のわずかな実質負担で、大きな資金をNPOが得ることができる。

 使途を明確にした資金調達である「ガバメント クラウド ファンディング」(GCF)にふるさと納税を活用する動きが増えている。佐賀県の場合は、NPOと組んで課題解決に取り組み、それに賛同する人からふるさと納税を活用して寄付金を募るというものだ。

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲