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2017年07月26日
日常診療におけるバイオマーカーとしての尿中L-FABPの有用性と可能性
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第60回日本腎臓学会学術総会 ランチョンセミナー
L-FABP(liver-type fatty acid-binding protein)は現在、CKD(慢性腎臓病)・AKI(急性腎障害)の病態を把握するバイオマーカーとして保険適用されている。近年では新規測定法が開発され以前に比し利便性が向上した。また腎疾患治療の最近のトピックスの一つである運動との関連においてもL-FABPが良い指標となり得ることが示唆されるなど、新たな知見の集積も続いている。
こうした進歩を背景に、日常臨床でL-FABPを用いるべき場面が拡大してきている。そこで本講演では、L-FABPの開発を主導されてきた木村健二郎先生に、現時点でのL-FABPの適用と、より広範な使用を見据えて今後の可能性を語っていただいた。

演者:木村 健二郎 先生(独立行政法人地域医療機能推進機構 東京高輪病院 院長)

座長:諏訪部 章 先生(岩手医科大学 医学部臨床検査医学講座 教授)
AKIバイオマーカーとしてのL-FABP
尿中L-FABPの話をさせていただくが、昨年、日本腎臓学会など5学会が『AK(I 急性腎障害)診療ガイドライン』を策定しL-FABPも取り上げられているので、まずはAKIとの関連について触れる。同ガイドラインでは尿中L-FABPやNGAL(neutrophil gelatinase - associated lipocalin)を「AKIの早期診断に有用な可能性があり、測定することを提案する」(推奨の強さ2、エビデンスの強さ2)としている。
AKIに対するL-FABPの迅速な反応の一例を図1に示す。これは私が聖マリアンナ医科大学に在職中のあるICU患者の経過だが、L-FABPは血清クレアチニンが顕著に上昇する4日前にピークに達していることがわかる。また図2は人工心肺治療を要した心臓バイパス手術後にAKIを発症したICU患者のバイオマーカーを比較した報告だが、L-FABPやNGALは急速に上昇することがわかる。一方でKIM-1(kidney injury molecule 1)は少し遅れて反応しているが、このような反応の差異を理解するため、各尿細管バイオマーカーについて簡単にレビューしてみたい。
各種尿中バイオマーカーの概略
NGALは好中球のゼラチナーゼに結合している蛋白で、血中から糸球体を通過しほとんどが近位尿細管に取り込まれる。しかし尿細管障害があると取り込みが減り尿中に出現する。同時に遠位尿細管でも産生され、血中濃度そのものも上昇するという機序も加わり尿中排泄が増加する。
KIM-1は近位尿細管上皮細胞に発現している膜貫通型蛋白で、同部位の障害を再生修復する過程で発現誘導され、細胞外ドメインが脱落し尿中への排泄が増加する。図2でKIM-1が他の二つのマーカーよりやや遅れて反応しているのは、修復過程で増えるという機序が関係していると考えられる。
次にL-FABPはもともと肝臓(Liver)で発見されたために‘L型’と呼ばれるようになった脂肪酸結合蛋白だ。実際は肝臓だけでなく腎尿細管に多く発現している。腎臓が虚血や酸化ストレス、あるいは尿蛋白、腎毒性物質に暴露された時などには、近位尿細管に脂肪酸が負荷されることになる。脂肪酸は容易に過酸化を受けて間質尿細管障害を発症・悪化させ腎障害を促進する。その時にL-FABPの発現が増え、尿中への排泄が増加する。L-FABPは過酸化脂質との親和性が高く、それを結合して細胞外へ排出することにより、腎保護的に作用すると考えられている1〜6)。
なお、肝障害時には肝臓での産生が増加するが、そのほとんどは腎障害がない限り近位尿細管で取り込まれるため、尿中のL-FABPが有意に上がることはないため7)、肝障害を腎障害と見誤ることはない。
NGALとL-FABPの相違
では、NGALとL-FABPとは、どのような違いがあるのだろうか。図3は東大の土井先生らによるAKIの各種マーカーの特徴を主成分分析により解析したものだ。これをみるとNGALはCRP、白血球といった炎症マーカーや腎機能と関連があることがわかる。一方のL-FABPは、乳酸や肝逸脱酵素などと関連することから、腎低灌流・虚血を反映する。肝逸脱酵素との関連は肝腎症候群による影響ではないかと思われる。
このほか、NGALは白血球尿や血尿の影響を受けて上昇するが、L-FABPはそれらの影響を受けにくいことも明らかになっている8)。
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