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2015年10月01日
「人工膵臓」の開発に成功 低血糖が大幅に減り安全性も確認
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第51回欧州糖尿病学会(EASD 2015)
インスリンポンプとCGM(持続血糖測定器)を組み合わせた「人工膵臓」が、危険な低血糖のリスクを減らし、より良好な血糖コントロールを実現することが確かめられた。詳細はストックホルムで9月に開催された第51回欧州糖尿病学会(EASD 2015)で発表された。
インスリンポンプとCGM(持続血糖測定器)を組み合わせた「人工膵臓」が、危険な低血糖のリスクを減らし、より良好な血糖コントロールを実現することが確かめられた。詳細はストックホルムで9月に開催された第51回欧州糖尿病学会(EASD 2015)で発表された。
成人と小児の1型糖尿病患者を対象とした試験が成功
成人と小児の1型糖尿病患者を対象にした、CGM(持続血糖測定器)とインスリンポンプを組み合わせた完全クローズドループ式のシステム(いわゆる「人工膵臓」)を、自宅で12週間使用したクロスオーバー試験の結果が発表された。
この人工膵臓はケンブリッジ大学が開発したもので、大きさはスマートフォンとほぼ同じ。血糖値が目標値より上昇したり低下すると、CGMのセンサーがリアルタイムに読み取り、インスリンポンプに組み込まれたアルゴリズムが適切なインスリン量を調整し投与し、血糖値を一定に保つ仕組みだ。
CGMとインスリンポンプを組み合わせたデバイスはすでに治療に使われているが、患者自身がインスリン量の調整を行う必要がある。ケンブリッジ大学が開発した人工膵臓はこれを一歩進めたもので、夜間などに機器がCGMのデータを自動解析して適量のインスリンを正確に投与するように精度を高めている。
「数ヵ月をかけて行った試験で、人工膵臓は危険な夜間の低血糖を減らし、血糖コントロールを改善することが確かめられました。しかも人工膵臓は安全であることが分かりました」と、人工膵臓を開発したケンブリッジ大学メタボリック研究所のロマン ホヴォルカ氏は言う。
研究は、1型糖尿病患者を支援する活動をしている「国際若年性糖尿病研究財団」(JDRF)の資金提供を受けて行われた。「今回の実験成功はとてもスリリングです。糖尿病医療におけるブレークスルーになる可能性があります」と、JDRFのカレン アディントン氏は述べている。
人工膵臓が血糖コントロールを改善、夜間低血糖を4割減少
今回の試験は2件が行われ、英国、ドイツ、オーストリアの3施設で33人の成人(平均年齢40.0±9.4歳、平均HbA1c 8.5±0.7%)と、英国の3施設で25人の小児・若年者(同12.0±3.4歳、8.1±0.9%)を参加した。
成人は、昼夜の人工膵臓療法と従来療法をそれぞれ12週間、小児・若年者は夜間のみ人工膵臓を使用する療法と従来療法をそれぞれ12週間行った。両治療期の間には成人で4〜6週間、小児・若年者で3〜4週間のウォッシュアウト期間を設けた。
CGMで測定した血糖値が、成人で70〜180mg/dL、小児・若年者で70〜145mg/dLの目標範囲内にある時間を主要評価項目とし解析を行った。
その結果、成人の人工膵臓の使用期間には、平均HbA1c値は0.3%改善し、血糖値が目標範囲内にあった時間は11.0ポイント改善した。同様に血糖値が63mg/dL未満であった時間の曲線下面積(AUC)は39%減少した。
小児・若年者でも人工膵臓の使用期間には、夜間の目標血糖値を維持した時間は24.7ポイント改善し、夜間の平均血糖値は29mg/dL低下し、血糖値が63mg/dL未満であった時間のAUCは42%減少した。
人工膵臓は2〜3年後に実用化できるとの見込み
インスリン療法が必須の1型糖尿病患者にとって、危険な低血糖はもっとも恐れるものだ。
試験には12歳の1型糖尿病患者であるダニエル ウォールズさんが参加した。母親のスーザン ウォールズさんは「人工膵臓によって、ダニエルには夜間低血糖が起こらなくなりました。夏休みが終わり、ダニエルは学校に戻ります。完璧な人工膵臓の実現は、生活に安心感をもたらします」と述べている。
人工膵臓システムの開発は欧米を中心に進められている。インスリン適切な量に調整するアルゴリズムの精度は高くなっている。
血糖値を下げるインスリンとと、血糖値を上げるグルカゴンを投与する人工膵臓も開発されているが、今回の研究で使用された人工膵臓はインスリンのみを投与するタイプのものだ。
人工膵臓は完全に自動化されているわけではなく、使用している1型糖尿病患者は食事の炭水化物量を計算して入力する必要があり、また血糖自己測定を行い、測定した血糖値の補正をする必要があるという。
最終的には、食事やストレスなどにより耐えず変化するインスリン分泌を完全に模倣する人工膵臓の開発が目指されているが、実現するにはさらに研究が必要だという。
ホヴォルカ氏は今後2〜3年のうちに、人工膵臓が実際に治療に使われるようになると予測している。「価格は、現在使われているCGMとインスリンポンプを組み合わせたデバイスと同等になるだろう」と述べている。
New study shows artificial pancreas works for length of entire school term(ケンブリッジ大学 2015年9月17日)New study shows artificial pancreas works for length of entire school term(国際若年性糖尿病研究財団 2015年9月18日)
Home Use of an Artificial Beta Cell in Type 1 Diabetes( New England Journal of Medicine 2015年9月17日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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