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2015年01月30日

エピジェネティクスで糖尿病を解明 遺伝子スイッチが運命を変える

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医療の進歩
 「エピジェネティクス」(epigenetics)と呼ばれる研究が、従来の遺伝子学では説明できないゲノムの仕組みを解き明かすものとして注目されている。エピジェネティクスを応用すれば、糖尿病や合併症の予防に役立つと期待されている。
「遺伝子スイッチ」があなたの運命を変える
 親族が糖尿病だと、糖尿病の家族歴がない人に比べて 糖尿病になりやすいことが知られているが、遺伝するのは糖尿病そのものではなく「糖尿病になりやすい体質」だ。しかし、その遺伝の仕組みには不明の点が多い。

 同じような生活スタイルをもつ人でも、糖尿病を発症する人とそうでない人に分かれる。糖尿病を引き起こす要因を正確に知る方法として「エピジェネティクス」研究が期待されている。

 エピジェネティクスとは、塩基配列の変化以外のメカニズムで遺伝子の変異を制御し生体に変化を起こす現象。遺伝子にはスイッチがあり、それをいろいろな方法でそのスイッチをオンにしたり、オフにしたりすることができる。そうした働きがエピジェネティクスだ。

 ジョンズ ホプキンス大学医学部のアンドリュー フェインバーグ博士は、糖尿病のエピジェネティクスを解明する多くの糸口を発見したと発表した。「2型糖尿病を発症するリスクは、遺伝子だけでなく、エピジェネティックが関わっています」と、フェインバーグ博士は言う。

 ヒトをはじめとする生物は、すべての細胞が同じDNAを持っているが、どの遺伝子が働くかによって個々の細胞の性質が決定され、その役割決定には染色体やDNAの後天的に働く化学修飾(メチル化など)などが重要な役割を果たしている。

 先天的に同じ遺伝子情報をもっていたとしても、後天的な環境因子でゲノムが修飾され、個体レベルの形質が異なってくると考えられている。つまり、自分の生きている環境を変えることで遺伝子情報も変えられるということだ。

 例えば、親族に糖尿病の人が多く、その遺伝子を受け継いでいるのではと心配する人は多い。しかし、同じように糖尿病になりやすい遺伝子をもっていたとしても、糖尿病になるかはその人次第だ。生活スタイルを見直すことで、その遺伝子の働きをオンにもオフにもできる。

「遺伝子スイッチ」をオン/オフにする仕組み
 フェインバーグ博士らは、糖尿病のマウスと糖尿病ではないマウスのDNAを比較し、625ヵ所に明確な相違があることを突き止めた。近い将来に糖尿病の発症を決定付けるエピジェネティックの変化が解明される可能性がある。

 「ヒトとマウスは進化の過程でおよそ5,000万年に切り離されましたが、遺伝子には似た部分が多くあります。エピジェネティック研究ははじまったばかりですが、糖尿病の発症について遺伝子から解明できるようになれば、新たな治療や予防の方法を開発できるようになります」と、フェインバーグ博士は言う。

 エピジェネティクスは、いまや生物学・遺伝学だけではなく、健康や長寿、糖尿病の治療などの観点からも注目を集めている。がんや糖尿病、老化など、遺伝子の配列の変化を伴わない後天的な現象の多くが、遺伝子のスイッチングに関係していることが明らかになってきた。

 今までは両親から受け継いだ遺伝子による「体質」は一生変わらないと考えられてきた。確かにこれらの遺伝子配列による体質、例えば肥満や糖尿病の発症しやすさといった「先天的体質」は変わらない。

 一方、それよりも「後天的体質」つまり、同じリスクのある遺伝子配列を有する人であっても、エピジェネティクスな変化が異なれば遺伝子発現が違ってくることになり、後天的疾患に対するリスクは違ってくると考えられるようになった。

 そして、これらのエピジェネティクスの変化は毎日の私たちの生活習慣、例えば食事、運動、ストレスなどによって大きく影響されてくる。

 例えば先天的に糖尿病合併症を発症しやすい遺伝子配列をもっている人でも、エピジェネティクスな変化で遺伝子のスイッチがオフになって発症を抑えられれば、先天的体質が合併症になりやすい体質であっても、エピジェネティクスな変化次第では発症しない可能性もあるということになる。

生活習慣や環境がエピジェネティックな変化を起こす
 遺伝子をみることで、将来に腎臓病や心臓病などの糖尿病合併症を発症する確率が正確に分かるようになれば、より効果的な予防法を開発できるようになる。しかもこの体質の変化は、自分にだけに留まらず、子供や孫へと引き継がれていく可能性も指摘されている。

 食事、運動、社会環境などの影響がエピジェネティックな変化を起こし、遺伝子の発現を変える。その変化は、がん、糖尿病、心臓病などの病気を招く。スウェーデンのルンド大学の研究チームは、インスリン生産を低下させる大量の遺伝子にエピジェネティックな変化を発見したと発表した。

 研究チームは、健常者と糖尿病患者のインスリン生産細胞を調べた結果、2型糖尿病患者の800以上の遺伝子に健常者にはみられないエピジェネティックな変化を発見したという。これらの遺伝子の100以上で、発現パターンが変化し、それがインスリン生産の減少につながっていた。インスリン生産の減少は2型糖尿病の原因のひとつだ。

 「エピジェネティクスは可逆性をもつ遺伝子のメカニズムです。エピジェネティクスの異常は、適切な治療や生活スタイルの改善で改善や回復が可能であることも明らかにされつつあります」と、フェインバーグ博士は言う。

 エピジェネティクス研究の進歩によって「予防的治療」の新たな可能性が明らかになってきた。研究成果を応用した新薬の開発も期待されている。

Researchers Identify New Genetic And Epigenetic Contributors To Diabetes(ジョンズ ホプキンス大学 2015年1月6日)
Epigenetic changes could explain type 2 diabetes(ルンド大学 2014年3月7日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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