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2014年07月25日
唾液で血糖値を測定できる技術を開発 100分の1の精度で測定
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- 医療の進歩 血糖自己測定(SMBG)

血糖自己測定(SMBG)には指先などを穿刺して、微量な血液を採取する必要がある。実際にSMBGを行っている糖尿病患者からは、採血が苦痛だという声は少なくない。特に小児の患者では、穿刺にともなう痛みは負担になっている。米国糖尿病学会(ADA)によると、糖尿病患者は1人平均4回の血糖測定を行っているという。
血糖値を測定できるコンタクトレンズなど、痛みを伴わない血糖測定器の開発がいくつか進められているが、いまのところ実用化はされていない。
「血液ではなく、唾液を用いて血糖測定ができるようになれば、糖尿病の治療は大きく改善されるだろう」と、ブラウン大学工学部のドメニコ パシフィチ氏は話す。この研究は、米国科学財団(NSF)の支援を得て行われている。
電気をよく通す金属に、光ビームを照射すると、池に石を投げ込んだときに生じる水面のさざ波のように、電子密度の疎密のパターンが波となって金属表面を伝わっていく。この電子密度の波を「プラズモン」という。研究チームは、指の爪くらいの大きさの小型チップを作り、プラズモン効果を用いたセンサを数千個作り込んだ。
センサの表面に幅100ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)のスリットを入れ、その両側に幅200ナノメートルの溝を刻みつけた。そこに光をあてると、入射した光は金属表面にある電子と相互作用し、特殊な波を生じさせる。その波を高感度に検出することで、微量なグルコースを検出できるようにした。
このデバイスを使い、唾液に含まれているのと同じ濃度のグルコースを検出できることが確認された。唾液に含まれるグルコースの濃度は、血液の100分の1未満だという。水や塩分、酵素などを混合した人工唾液を用いた実験では、グルコース濃度の0.1マイクロモル/リットルの変化を検出できた。
実際には、ヒトの唾液には飲み物や食べ物の微量の破片が混ざっているので、唾液を採取する前に口内洗浄液(マウスウォッシュ)を使い、それらの影響を取り除く方法が考えられている。
研究チームは、測定器を持ち運び可能な、iPhone(アイフォン)ぐらいのサイズまで小型化することを目指している。体内のインスリン濃度測定への応用も検討が進んでいる。
研究チームは2012年にはじめて実験に成功した。研究発表を見た糖尿病の子供をもつ家族からは、「幼い子供にちくりと刺して血糖測定するのは痛ましい。採血の必要のない血糖測定を歓迎する。ぜひ研究を進めて欲しい」といった電子メールが多数寄せられたという。
「糖尿病患者さんの多くは、より良い選択肢を熱心に求めています。この技術を実用化するための、まだ多くの課題がありますが、1日も早く提供できるように技術開発を進めます」と、パシフィチ氏は述べている。
Progress on detecting glucose levels in saliva(ブラウン大学 2014年6月3日)
Saliva-scanning device could replace blood tests for diabetics(ブラウン大学 2012年2月3日)
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