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2011年05月17日
高血圧の原因遺伝子:東アジア人共通の遺伝子を同定
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- 糖尿病合併症
高血圧の発症に、食生活、運動習慣、嗜好品、ストレスなどの生活習慣が影響する。食事や運動を中心とした生活習慣改善が効果的だが、全ての人が実行するのは簡単ではない。また、高血圧症の薬物療法も行われており、効果的な降圧薬が治療に使われているが、多くの患者で十分な血圧コントロールを得られていない現状がある。
全体の9割以上が原因不明な「本態性高血圧症」で、多くの患者で遺伝が高血圧の発症に関わっているとみられている。これまでの研究で、高血圧の原因となる遺伝子(責任遺伝子)は数多くみつかっているが、さまざまな生活習慣が複雑にからみあい発症するので、親から受け継ぐ“高血圧体質”の基盤となる責任遺伝子についてはよく分かっていない。
高血圧の責任遺伝子が分かれば、1人ひとりに合わせた療養指導や治療を行えるようになると考えられている。そのため、責任遺伝子を同定しようとする研究は世界中で行われている。
5万人以上の東アジア人の全遺伝情報を解析し、高血圧に関連する13種類の遺伝子を特定した。このうちの5種類は白人ではみつかっていないという。また7種類は東アジア人で統計学的に有意性が確かめられた。残りの1種類は酒に強いか弱いかを決める遺伝子で、飲酒後に生じる悪酔いの原因物質アセトアルデヒドを分解する酵素を作る「ALDH2」だった。
東アジア人で遺伝性がもっとも強いのは、ALDH2の活性を規定する遺伝子多型であることも分かった。日本人では4割近くが不活性型で、活性型の人は不活性型と比べて、血圧が上昇する傾向があり、血糖、BMI(体格指数)も上昇しやすいことが示された。
これだけだと心血管症のリスクが高まるようにみえるが、一方で活性型では、LDL(悪玉)コレステロールの低下と、HDL(善玉)コレステロールの増加傾向が示され、総合的には動脈硬化が抑えられリスク低減効果の方が大きいという。
ALDH2多型の遺伝的効果は、飲酒によって強まる。不活性型の多い日本人ではアルコールの飲みすぎが動脈硬化の進展につながりやすいとみられる。
研究者は「両親からひとつずつ受け継いだALDH2の対立遺伝子がともに活性型の人は、体質的に飲酒が可能で、適量レベルであれば、血圧上昇効果があっても心筋梗塞に対して予防的効果がある。ただし、実際には、血圧だけでもALDH2以外に数多くの遺伝子が関わるので、総合効果の点で“遺伝要因と生活習慣(飲酒)、心血管病の関わり”をよくみたうえで、療養指導などを行う必要がある」と説明している。
この研究は、国立国際医療研究センター研究所の加藤規弘・遺伝子診断治療開発研究部長らの研究グループによるもので、英国の科学誌「Nature Genetics」オンライン版に5月16日付で発表された。
今回の研究成果は主に次の3点――
- 東アジア人を対象に、高血圧に関する大規模全ゲノム関連解析を行い、新規のもの5つを含む計13の遺伝子座を同定した。
- 欧州人と東アジア人の間で共通する部分も多いが、人種に特異的な遺伝子もある。そのうちの一部は、環境への適応のために生じた自然選択によるものとみられる。
- 遺伝子と環境の間に相互作用があるとみられる。この「遺伝-環境相互作用」に関わる明確な事例が示され、患者1人ひとりの生活習慣に影響されながら、心血管病の発症リスクは複合的に規定されることが実証された。
初めて東アジア人の高血圧関連遺伝子を同定(国立国際医療研究センター 2011年5月16日)
Meta-analysis of genome-wide association studies identifies common variants associated with blood pressure variation in east Asians
Nature Genetics, 2011 DOI:doi:10.1038/ng.834
健康を脅かす上位リスクは高血圧、喫煙、糖尿病 WHO報告(糖尿病NET)
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