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2010年10月22日

インスリン分泌のメカニズムを解明、新たな治療の開発へ 生理研

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医療の進歩
 糖やインクレチンの刺激のどちらにも関与し、インスリン分泌を促すメカニズムを解明したと、自然科学研究機構・生理学研究所(岡崎市)の富永真琴教授(分子細胞生理学)、内田邦敏研究員らの研究グループが発表した。「新たな糖尿病の治療法の開発につながる成果」としている。
体温を感じる分子センサーがインスリン分泌を促進
 糖尿病は、膵臓から出るインスリンが不足したり、インスリンの作用が弱まったりすることで血糖値が高くなり、さまざまな合併症が引き起こされる病気。研究チームは、膵臓の細胞からインスリンが分泌されるメカニズムを調べ、インスリンが分泌される際に働く「体温感受性センサー」の働きに着目した。このセンサーは「TRPM2(トリップエムツー)」という分子の作用により調整されている。

 研究チームは、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞で、TRPM2分子センサーは体温を感じているだけでなく、糖やホルモンの刺激を受けることで細胞内へのカルシウムの流入を調整し、インスリン分泌を促していることをつきとめた。

新たなインスリン分泌促進薬の開発に光
 インスリン分泌を促す刺激となるものとして、糖(グルコース)や消化管ホルモン(インクレチン)などが知られているが、富永教授らは「TRPM2は異なる働きによってインスリン分泌に働きかけている」と述べている。「TRPM2分子センサーを効果的に活性化する物質がみつかれば、これまでにない新しいメカニズムでインスリン分泌を促す薬剤を開発できる」としている。
TRPM2によってインスリン分泌が促されるメカニズム
 TRPM2を遺伝子的に失くしたマウス(TRPM2欠損マウス)を用いた実験では、インスリン分泌低下を伴う血糖調節異常が示された。TRPM2欠損マウスでは、普通のマウスと比べて、糖(グルコース)を与えたときに血糖値の上昇が1.5倍程度に大きくなった。また、TRPM2欠損マウスでのインスリン分泌は、普通のマウスの半分以下だった。

 TRPM2欠損マウスでは、ふつうのマウスと比べて、グルコースやインクレチンを与えても、インスリン分泌はそれほど増えなかったことから、「TRPM2分子センサーは、糖の刺激やインクレチンの刺激によるインスリン分泌の両方に関わっている」としている。

マウスにおける糖(グルコース)経口投与後の血糖値変化とインスリン分泌
 この研究は、生理学研究所生殖・内分泌系発達機構研究部門(箕越靖彦教授)、自治医科大学統合生理学部門(矢田俊彦教授)、京都大学大学院工学研究科(森 泰生教授)との共同によるもので、米国糖尿病学会(ADA)の医学誌「Diabetes」電子版に発表された。

研究で発見されたこと
  • 膵臓のインスリン分泌細胞(膵臓β細胞)には体温を感じる分子センサーTRPM2が存在し、カルシウムを取り込み、インスリン分泌を促進させていました。
  • TRPM2を遺伝子的に失くしたマウス(TRPM2欠損マウス)は、インスリン分泌低下を伴う血糖調節異常を示しました。
  • TRPM2は、糖(グルコース)刺激および消化管ホルモン(インクレチン)刺激のどちらにも関与し、膵臓β細胞を刺激しているものと考えられました。

研究の社会的意義

新たな糖尿病治療薬(インスリン分泌促進薬)の開発に光
今回の研究によって、糖の刺激や消化管ホルモンの刺激どちらにも関与し、膵臓β細胞のカルシウム濃度を直接上昇させてインスリン分泌を促すという新しいメカニズムを解明しました。TRPM2分子センサーを効果的に活性化する物質がわかれば、これまでとは違う新しいメカニズムでインスリン分泌を促す薬剤の開発を行うことができるものと期待されます。

Lack of TRPM2 impaired insulin secretion and glucose metabolisms in mice
Diabetes, Published online before print October 4, 2010, doi: 10.2337/db10-0276
自然科学研究機構・生理学研究所

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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