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2024年07月16日

糖尿病の人は認知症リスクが高い 生活改善で認知機能の低下を抑制 血糖値を下げる薬に認知症予防の効果?

 糖尿病のある人は血糖値が高い状態が続くと、認知症のリスクが高くなることが知られている。

 認知症を予防するために、健康的な生活スタイルは年齢よりも重要という研究が発表された。糖尿病のある人は、血糖管理を良好に維持することが大切だ。

 糖尿病治療薬による治療を受けている人は、認知症とアルツハイマー病の発症リスクが低いことが、大規模な調査で明らかになった。

生活スタイルが健康な人は認知機能の老化が少ない 認知症リスクが減少

 糖尿病のある人は血糖値が高い状態が続くと、認知症のリスクが高くなることが知られている。糖尿病の人は、アルツハイマー病のリスクが1.5倍高く、血管性認知症のリスクが2.5倍高いという報告がある。血糖値が高いと、認知機能の障害も起こりやすい。

 認知症の危険因子として糖尿病・喫煙習慣・難聴などが知られている。そうした危険因子が増えるにつれ、認知能力の低下も進み、これは3年分の加齢に相当しており、年齢が上がるにつれてその関連性は大きくなることが、カナダのベイクレスト高齢者医療センターの研究で明らかになっている。

 一方で、40代~70代で危険因子をもたない人は、多くの危険因子をもつ10~20歳年下の人と認知能力は同じくらいであることも分かった。生活スタイルを改善し適切な治療を受けることで、危険因子を減らすことが重要であることが示された。

 「今回の研究で、認知機能のレベルを決定するうえで、健康的な生活スタイルは年齢よりも重要である可能性が示されました」と、同センターで認知神経学を研究しているアナリーズ ラプルーム氏は言う。

 「認知症を予防するために、2型糖尿病の予防、糖尿病のある人は血糖管理を良好に維持すること、難聴への対処、禁煙、必要に応じてサポートを受けるなど、できることはたくさんあります」としている。

 同大学などは、脳の健康状態を簡単に評価できる「コグニシティ 脳の健康 評価ツール」を開発している。このツールを使うと、20分ほどで自分の認知症リスクについて知ることができる。研究グループは、18~89歳の2万2,117人に参加してもらい、このツールを利用してもらった。

 認知症の危険因子として知られている、▼高血圧、▼糖尿病、▼喫煙習慣、▼難聴、▼アルコール・薬物乱用、▼うつ病、▼外傷性脳損傷、▼低教育などは、多くが生活スタイルの改善により修正が可能だ。

20代のときに不健康だと40代になると認知能力が低下

 糖尿病や肥満症などの慢性疾患や、運動不足・ストレス・喫煙などの不健康な生活スタイルが影響し、若いときから体の炎症レベルが高くなっていた人は、年齢を重ねて中年期になると、認知機能が低下しやすいことが、米カリフォルニア大学でも示された。

 「炎症は認知機能の老化に重要な役割を果たすことが分かっています。若い頃に不健康な生活をしていたり、体の状態が良くないと、中年期以降に認知能力に悪い影響があらわれ、将来に認知症のリスクが高まるおそれがあります」と、同大学精神医学・行動科学部のアンバー バホリック氏は言う。

 研究グループは、若年成人の心血管疾患などの発症リスクを調べる目的で実施されている「CARDIA研究」に参加した2,364人の18~30歳の成人を18年間追跡して調査した。

 その結果、調査を開始した時点で、参加者の16%は体の炎症が中程度であったり進行しており、39%は炎症レベルが高いことが示された。そうした人が40~50代になると、処理速度と記憶力のテストの成績が悪くなることが分かった。

 「認知症の30%は予防可能と考えられています。健康的な体重を維持し、運動量を増やし、タバコを吸う人は禁煙するなど、生活スタイルを改善することで体の炎症を軽減できます」と、同学部のクリスティン ヤッフェ氏は述べている。

糖尿病治療薬には認知症予防の効果もある?
メトホルミンとSGLT2阻害薬が認知症リスクの低下と関連

 糖尿病の人の認知症を予防するために、効果的な治療の開発が進められている。糖尿病の治療薬に関する研究も行われている。

 糖尿病治療薬であるメトホルミンとSGLT2阻害薬による治療を受けた人は、他の糖尿病治療薬による治療に比べて、認知症とアルツハイマー病の発症リスクが低いことが、韓国の慶熙大学校などが156万人超の糖尿病患者を対象とした調査で明らかになった。

 メトホルミン(ビグアナイド薬)には、肝臓で糖がつくられる糖新生を抑えることで血糖値を下げ、消化管からの糖の吸収を抑えたり、体のインスリンの働きを高める作用などがある。

 メトホルミンは、他の薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性は低く、体重を増やしにくい薬なので、肥満のある糖尿病の人にもよく利用されている。

 またSGLT2阻害薬は、ブドウ糖を尿中に排泄させる作用により、血糖値を下げる薬。インスリン分泌を刺激する作用はないため、こちらも単独で使用すれば低血糖になる可能性は少ない薬だ。

 研究グループは、糖尿病治療薬の投与開始後の認知症とアルツハイマー病の発症率を調査した16件の観察研究に参加した計計156万5,245人の患者のデータを解析した。

 その結果、メトホルミンを服用している患者は、認知症リスクが0.53倍と低く、またSGLT2阻害薬を服用している患者も、とくにSU薬を使用している患者に比べて、認知症リスクが0.39倍と低いことが示された。メトホルミンSGLT2阻害薬を服用している患者は、アルツハイマー病の発症率も低かった。

 「糖尿病と認知症の有病率は、ともに世界的に上昇し続けています。また、糖尿病と認知症のあいだに、強い相関関係があることを示唆した研究は増えています」と、同大学薬学部のイョオ チン チョウイ氏は言う。

 「とくにSGLT2阻害薬は、血糖値を下げるだけでなく、心不全や腎臓病にも効果があることが分かってきて、注目されています」。

 「糖尿病の治療薬の認知症に対する潜在的な効果を解明することは、糖尿病の治療を最適化するだけでなく、患者の安全性を優先し、公衆衛生を促進するためにも重要です」としている。

 「今回の研究の対象となったのは観察研究であり、今後さらに研究が必要ですが、糖尿病とともに生きる人の認知症の発症を効果的に抑制する治療法が望まれています」としている。

Whether you're 18 or 80, lifestyle may be more important than age in determining dementia risk, study reveals (ベイクレスト高齢者医療センター 2022年7月13日)
The adverse effect of modifiable dementia risk factors on cognition amplifies across the adult lifespan (Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring 2022年7月13日)
Brain Health Assessment - Cogniciti - Brain Health Powered by Science (コグニシティ)
Poor Health, Stress in 20s Takes Toll in 40s With Lower Cognition (カリフォルニア大学 2024年7月3日)
Association of Changes in C-Reactive Protein Level Trajectories Through Early Adulthood With Cognitive Function at Midlife: The CARDIA Study (Neurology 2024年7月3日)
Metformin and Other Antidiabetic Drugs Can Help Reduce the Risk of Dementia in Patients with Type 2 Diabetes (Elsevier 2024年7月11日)
Risk of Dementia and Alzheimer's Disease Associated With Antidiabetics: A Bayesian Network Meta-Analysis (American Journal of Preventive Medicine 2024年5月3日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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