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2024年05月30日
糖尿病の人は腎臓病のリスクが高い 腎臓を守るために何が必要? 「糖尿病・腎臓病アトラス」を公開

腎臓病は、糖尿病の合併症として非常に多くみられる。国際糖尿病連合(IDF)によると、糖尿病があると、腎臓病を発症するリスクは1.3~4.3倍に高まる。
「腎臓病は、他の多くの糖尿病合併症と同じように、検査を定期的に受け早期発見し、治療を行えば、そのリスクを減らすことができます」と、専門家はアドバイスしている。
腎臓病を予防し、進行を抑制するために、生活で注意するべきポイントが公開されている。
腎臓の機能が失われ腎不全に進行すると透析が必要に
糖尿病性腎症は、糖尿病の合併症のひとつで、血糖値が高いことが原因で腎臓の働きが低下した状態。また慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の働きが低下した状態や、尿のなかにタンパクが漏れでるようになった状態(タンパク尿)の総称で、発症には糖尿病と高血圧が影響している。 腎臓は、血液を濾過する、細い血管が集まった糸球体が多くあり、高血糖による影響を受けやすい。 腎臓の働きが徐々に低下していき、腎臓の機能が失われ、老廃物を十分排泄できなくなる腎不全にまで進行すると、透析などの治療によって腎臓の働きを代替しなければならなくなる。透析治療を開始した人のうち、糖尿病が原因になった人は圧倒的に多い。糖尿病があると腎臓病リスクは1.3~4.3倍に上昇
腎臓病は、糖尿病の合併症として非常に多くみられる。国際糖尿病連合(IDF)によると、糖尿病があると、腎臓病を発症するリスクは1.3~4.3倍に高まる。 世界で糖尿病とともに生きる人の30~40%が、腎臓病を発症しているという。糖尿病が主な原因となり発症する腎臓病は、1990~2017年に世界で74%増えた。 腎臓病があると、やはり糖尿病の合併症である心血管疾患(CVD)を発症するリスクも高くなるので、その予防と治療は重要な課題になっている。検査と治療を受ければ腎臓病リスクは減らせる
IDFは「糖尿病・腎臓病アトラス」を公開し、糖尿病と腎臓病の脅威を減らすことを呼びかけている。 「最近の調査で、対象となった世界の142の国や地域のほとんどで、糖尿病が原因となる腎臓病は増えていることが分かりました。いますぐ糖尿病と腎臓病に対する、適切な対策を強化する必要があります」と、アトラスの編集委員長の米ワシントン大学のエドワード ボイコ教授は言う。 「腎臓病は、他の多くの糖尿病合併症と同じように、検査を定期的に受け早期発見し、治療を行えば、そのリスクを減らすことができます」。 「しかし腎臓病は、腎臓の機能の多くが失われるまで、自覚症状があらわれにくいことが知られています。腎臓病が発見されたときには、病状がかなり進行してしまっていることが少なくありません」。 「調査では、腎臓病のある成人の10人に9人は、自分に腎臓病があることに気付いていないことが示されています」としている。腎臓病を予防・改善するために生活で注意するべきポイント
糖尿病が原因の腎臓病の多くは、血糖値を目標範囲内に管理することで予防できる。1~2ヵ月の血糖値の平均が反映されるHbA1cを7.0%未満にすることを目標とする。 腎臓病の早期には、尿中に微量のアルブミンというタンパク質が検出されることが多い(微量アルブミン尿)。研究では、血糖管理を良好に行うことで、微量アルブミン尿のリスクが3分の1に減少することが示されている。 すでに微量アルブミン尿がみつかった人でも、血糖管理を改善することで、腎臓病が進行するリスクを半分に減らすことができるという。 また、高血圧も腎臓病の進行に影響しており、血圧がわずかに上昇しただけでも、腎臓病が急速に悪化する可能性があるという。
米国糖尿病学会(ADA)は、腎臓病を予防し、進行を抑制するために、生活で注意するべきポイントを公開している。
- 肥満のある人は、必要に応じて体重を減らし、健康的な体重を維持する。
- 食事では塩分の摂取量を減らす。糖質や脂肪もとりすぎないようする。
- 食物繊維やタンパク質が含まれる植物性食品を食べる。
- オリーブオイル、大豆油、アマニ油など体に良い植物油をとる。魚の油にもEPAやDHAが含まれる。
- アルコールの飲みすぎを避け、タバコを吸う習慣のある人は禁煙する。
- 運動を習慣として行う。
- 糖尿病の治療薬に加えて、血圧が高い人は降圧薬などを、かかりつけの医師の指示通りに服用する。
- 腎臓病のある人の食事では、腎臓に負担をかけないために、ナトリウム、カリウム、リンなどの特定の栄養素を減らしたり、水分摂取量にも注意する必要が出てくる場合がある。食事について、かかりつけの医師や管理栄養士に相談する。
糖尿病がない人と変わらない生活の質と寿命を実現
「糖尿病のある人は、血糖管理を良好に維持し、血圧が高くなっている人は血圧値を適切に下げることが重要です。そのために、検査を定期的に受け、適切な治療を続ける必要があります」と、IDFの理事長でノルウェーのノード大学およびバングラデシュ糖尿病協会で活動しているアクタル フセイン教授は言う。 「私の父は1982年に糖尿病と診断され、65歳で糖尿病の合併症のために亡くなりました。当時のバングラデシュでは、糖尿病に関連する検査と治療は十分に提供されていなかったことが影響しています」。 「糖尿病の治療の目標は、高血糖により引き起こされる代謝異常を改善し、糖尿病の合併症を予防・改善し、糖尿病がない人と変わらない生活の質と寿命を実現することです。そのためには、先進国と途上国の医療の格差をなくすことも必要です」としている。 糖尿病性腎症 (東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)糖尿病性腎症 重症化予防 事業実施の手引き (令和6年度版) (厚生労働省) Diabetes and kidney disease (国際糖尿病連合)
Diabetes and Kidney Disease: the latest data from the IDF Diabetes Atlas and the iCaReMe registry (国際糖尿病連合 2024年5月)
Renewing the Fight: A Call to Action for Diabetes and Chronic Kidney Disease (国際糖尿病連合 2023年7月)
Chronic Kidney Disease (Nephropathy) (米国糖尿病学会)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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