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2023年08月28日

「妊娠糖尿病」をこうして予防・改善 妊娠中に血糖が上がるとなぜ悪い? どの女性にもリスクが

 妊娠中にはじめて発見される糖代謝異常が「妊娠糖尿病(GDM)」。

 妊娠糖尿病を発症する女性は増えている。国際糖尿病連合(IDF)によると、世界の新生児の17%は、母親の妊娠中の高血糖の影響を受けている。

 妊娠糖尿病を発症した母親や、生まれてきた子供は、将来に2型糖尿病を発症するリスクが高いという調査結果が発表された。

 一方で、食事や運動などの生活スタイルを改善することで、妊娠糖尿病を予防・改善できることも分かっている。

 妊娠初期に運動を多くした女性は、妊娠糖尿病の発症リスクが低いことも分かってきた。

医療は進歩している 安心して妊娠・出産するために

 妊娠中にはじめて発見される糖代謝異常が「妊娠糖尿病(GDM)」で、妊娠前から糖尿病がある女性の「糖尿病合併妊娠」とは区別されている。

 妊娠すると、胎盤から分泌されるホルモンなどの影響で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが働きにくくなるインスリン抵抗性が強まることがある。そうなると、血糖を正常に保つために必要なインスリンの量が増えていく。

 妊娠糖尿病を発症する女性は増えている。国際糖尿病連合(IDF)によると、世界の新生児の17%は、母親の妊娠中の高血糖の影響を受けているという。とくに40代からの高齢出産になると、妊娠中に高血糖になるリスクが高くなる。

 妊娠中に妊娠糖尿病と診断された女性は、妊娠を安全に継続し出産するために、血糖値をできるだけ正常に保つ必要がある。

 これは、母親の高血糖が胎盤を通じて赤ちゃんに伝わり、過剰に栄養を受け取ってしまうため、赤ちゃんにも母親にも合併症を引き起こす可能性が出てくるからだ。

 さらには、妊娠糖尿病の影響で、2型糖尿病や肥満のリスクが、母親の将来にも、さらには赤ちゃんの将来にも上昇する可能性も知られている。

 そのため、妊娠糖尿病と言われた女性は、糖尿病に対する正しい知識をもち、望ましい血糖コントロールを目指して、妊娠中は食事の工夫や、必要に応じてインスリン治療も必要になる。

 医療は進歩しており、糖尿病がある女性が妊娠を希望する場合でも、事前に血糖を十分に管理した上で計画的に妊娠すれば、安全に妊娠・出産することができるようになっている。

妊娠糖尿病の母親から生まれた子供も糖尿病リスクが上昇

 妊娠糖尿病を発症し、妊娠経過中にインスリン治療を行っていた女性は、分娩後はインスリンが不要になることが多い。

 しかし、妊娠糖尿病を発症した母親や、生まれてきた子供は、血糖値が上がりやすい体質は残っていて、将来に2型糖尿病を発症するリスクが高いという調査結果を、カナダ医師会が発表している。

 カナダのマギル大学などは、7万3,180人の母親を対象に調査を行った。その結果、1万人年あたりの糖尿病の発症数は、妊娠糖尿病の母親から生まれた子供では4.5人、糖尿病でない母親から生まれた子供では2.4人となった。

 妊娠糖尿病の母親から生まれた子供が糖尿病を発症する可能性は、ほぼ2倍に上昇することが分かった。

 「小児や若者が糖尿病を発症すると、高血糖により引き起こされる合併症である糖尿病ケトアシドーシスを発症することがあります」と、同大学医療センター研究所のカベリ ダスグプタ氏は言う。

 「糖尿病を早期発見し、治療を行うことが重要です。急にのどが渇いたり、たくさん水を飲んだり、尿がたくさん出て、全身がだるいといった症状がある場合は、すぐに医療機関にかかるべきです」としている。

食事や運動などの生活スタイルの改善が大切

 妊娠糖尿病を予防・改善するために、食事や運動などの生活スタイルを改善することが重要となる。

 フィンランドのヘルシンキ大学が発表した別の研究では、妊娠糖尿病の遺伝的リスクの高い女性でも、生活スタイルを改善することで、糖尿病を予防できることが示された。

 妊娠糖尿病はフィンランドでも増えていて、妊娠中の女性の5人に1人がこの病気の影響を受けているという。妊娠糖尿病は、妊娠中および出産後の両方で、母親と子供の健康に重大な影響を与えるとしている。

 研究グループは、「フィンランドの妊娠糖尿病予防研究(RADIEL)」に参加した516人の女性を対象に、妊娠中と出産後の1年間に、食事や運動などの生活スタイルを改善するカウンセリングを実施した。

 その結果、カウンセリングを受けて、食事や運動などの生活スタイルを改善した妊娠糖尿病の女性は、糖尿病の遺伝的リスクが高いと判定された場合でも、糖尿病の発症を63%減少できることが示された。

妊娠初期に運動をした女性は妊娠糖尿病リスクが低下

 米テネシー大学による別の研究では、妊娠初期に運動を多く行った女性は、妊娠糖尿病を発症するリスクが低いことが示されている。

 研究グループは、妊娠した2,246人の女性を対象に調査を実施。その結果、1日に30分以上の運動をしている女性は、妊娠糖尿病を発症するリスクが半分未満に減少することが示された。

 「運動は妊娠糖尿病の予防にも役立てられることが示されました。健康な妊婦にとっても、調整をしながら行う運動は、安全で有益であることが分かっています」と、同大学公衆衛生学部のサマンサ アーリック氏は言う。

 「米国でも100人の女性のうち、6~10人が妊娠糖尿病を発症しています。女性も1日に30分以上を目安に、運動習慣に取り組むべきです」としている。

すべての女性は運動習慣により恩恵を受けられる

 アイオワ大学による別の研究でも、妊娠を希望している女性は、フィットネスを強化することで恩恵を受けられることが明らかになっている。

 研究グループは、米国の1,333人の女性の1985年から2011年までの25年間のデータを解析した。その結果、フィットネスレベルの高い妊娠前の女性は、レベルが低い女性に比べて、妊娠糖尿病を発症するリスクが21%低いことが分かった。

 「女性は妊娠中に、食事や運動に対し細心の注意を払っており、安全を優先するために、運動することをためらうことがあります。しかし、妊娠前に適度な運動をしていれば、糖代謝が改善され、過度の体重増加も抑制でき、妊娠糖尿病のリスクを減少できる可能性があります」と、同大学健康人間学部のカラ ウィテカー氏は言う。

 「妊娠する前から体調を良くしておくことが重要です。妊娠した後に妊娠糖尿病を発症する女性の多くは、妊娠前からすでに代謝異常の危険因子が上昇していることも多いので、注意が必要です」としている。

一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

妊娠糖尿病 (日本産科婦人科学会)
Maternal gestational diabetes linked to diabetes in children (マギル大学 2019年4月16日)
Gestational diabetes associated with incident diabetes in childhood and youth: a retrospective cohort study (Canadian Medical Association Journal 2019年4月15日)
A healthy lifestyle helps to prevent gestational diabetes in those at highest genetic risk (ヘルシンキ大学 2022年5月4日)
Genetic risk of type 2 diabetes modifies the effects of a lifestyle intervention aimed at the prevention of gestational and postpartum diabetes (Diabetologia 2022年4月30日)
Team Led by Researcher Finds Increased First-Trimester Exercise May Reduce Gestational Diabetes Risk (テネシー大学 2021年1月11日)
Exercise During the First Trimester of Pregnancy and the Risks of Abnormal Screening and Gestational Diabetes Mellitus (Diabetes Care 2020年12月21日)
Researchers say moderate improvement in fitness can lower risk by more than 20 percent (アイオワ大学 2018年3月28日)
Prepregnancy Fitness and Risk of Gestational Diabetes: A Longitudinal Analysis (Medicine & Science in Sports & Exercise 2018年8月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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