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2023年08月22日
植物油が食後の血糖上昇をゆるやかに リノール酸やαリノレン酸の効果 糖尿病の治療への応用に期待
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- 医薬品/インスリン 糖尿病の検査(HbA1c 他) 食事療法

大豆油などの植物油に含まれるリノール酸が、食後の血糖上昇をゆるやかにする可能性があることが、和歌山県立医科大学と北海道大学の研究で示された。
アマニ油やエゴマ油などに多く含まれるαリノレン酸でも、同様の効果が確かめられた。
さらに、自己免疫などを原因に膵臓のβ細胞からインスリンがほとんど出なくなり発症する1型糖尿病でも同様の結果になった。
食後に高血糖になりやすい1型糖尿病の治療への応用も期待できるとしている。
糖尿病の人の食事に不飽和脂肪酸を活用
ご飯やパンなど、炭水化物を多く含む食品を食べると、血糖値が上昇しやすくなる。これは、炭水化物が胃腸で消化され、ブドウ糖などに分解され、血液中の糖濃度が上がるからだ。 通常は、この血糖値の上昇に反応し膵臓からインスリンが分泌されることで、血糖値はもとに戻るが、インスリンの分泌が低下していたり、その効き目が悪くなっている人では、食前にも血糖が高かったり、上昇した血糖値がなかなかもとに戻らなくなる。 一方、大豆油などの植物油に含まれる脂肪酸のひとつであるリノール酸は、植物や魚の脂に多く含まれる不飽和脂肪酸のひとつ。体内では合成することができないので、食事で摂取する必要のある必須脂肪酸だ。 サバ・サンマ・イワシなどの魚や、植物などから不飽和脂肪酸を十分にとっていると、コレステロール値が低下し、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患のリスクが低下することが、多くの研究で確かめられている。リノール酸を摂取するとGLP-1の血中濃度が上昇
食事に含まれる油は、小腸で消化され、脂肪酸とグリセリンという栄養成分になり、小腸で吸収される。小腸には腸内の栄養状態を監視するさまざまなセンサーがあり、そのセンサーのうち脂肪酸の量を監視するセンサーとして、「GPR40」と「GPR120」という受容体がある。 GPR40とGPR120は、ともに「長鎖脂肪酸受容体」として知られている。消化管で長鎖脂肪酸を感知し、「GLP-1」などのホルモン分泌を促す。 GLP-1は、小腸から血液中に分泌されるホルモンで、血糖値を下げるインスリンの分泌を促す働きをする。糖尿病の治療薬として利用されている「GLP-1受容体作動薬」は、このGLP-1を体の外から補い、膵臓からインスリン分泌を増やして血糖値を下げる薬だ。 和歌山県立医科大学と北海道大学の研究グループは今回、GPR40とGPR120の両方のセンサーに反応する、リノール酸の作用に着目した。 研究は、和歌山県立医科大学医学部解剖学第一講座の山本悠太氏らが、北海道大学大学院薬学研究院臨床薬剤学研究室と共同で行ったもの。リノール酸が食後の血糖上昇をゆるやかにする
これまで、GPR40に反応する薬を、食事1時間前に投与すると、食後の血糖上昇時に分泌されるインスリン量を増やせることや、食後血糖が速やかに下がる効果が報告されている。また、GPR120に反応する薬を投与すると、インスリンの効き目が改善することも分かっている。 研究グループは、これらセンサーに作用する脂肪酸であるリノール酸の働きに着目した。リノール酸をラットに投与し、直後にブドウ糖液を投与したときの血糖値への影響を調べた。 その結果、ブドウ糖液を直前に投与した群では、血糖値の上昇は30分でピークを迎えたが、リノール酸を投与した群では、血糖値の上昇のピークが30分後ろ倒しにされた。 このリノール酸が食後の血糖上昇をゆるやかにする効果は、インスリンの出ない1型糖尿病ラットでも確認された。そのため、この効果はインスリンの働きによるものではないことが分かった。 また、リノール酸のこの効果は、ブドウ糖の取り込みをブロックする効果とも関係ないことも分かった。
リノール酸を投与すると血糖の上昇はゆるやかになった

ラットを使った実験では、リノール酸を多く含む油ではこの効果は認めなかった。リノール酸を多く含む食事や食品では効果をえられない可能性がある。
出典:和歌山県立医科大学、2023年
リノール酸が胃の動きを遅くしている可能性
GLP-1には、インスリンを分泌させる作用のほかにも、摂取した食物の胃からの排出を遅らせたり、食欲を抑える作用などもある。 研究グループは、リノール酸を投与すると、GLP-1の血中濃度が上昇することから、リノール酸を投与することで、GLP-1が血中に分泌され、胃の動きをゆるやかにしている可能性を考えた。 リノール酸は、GPR40とGPR120の両方のセンサーに反応する。リノール酸の食後血糖の上昇をゆるやかにする効果はどちらのセンサーに反応して起きているのかを確認する実験を行ったところ、このメカニズムはGPR120の経路に関連している可能性があることを突き止めた。 この効果は、アマニ油やエゴマ油などに含まれ、中性脂肪を下げたり、血栓や高血圧の防止の効果があると言われているαリノレン酸でもみられた。 「今回の研究により、リノール酸やαリノレン酸の摂取が、食後血糖上昇を抑える働きがあり、食後の急な血糖上昇を改善する可能性を示すことができました」と、研究グループでは述べている。 「また、GPR120に反応する薬の新たな使用法を提唱することができたため、本研究が、1型糖尿病を含む糖尿病患者さんを対象とした新しい薬の開発の第一歩になりうることが考えられます」としている。 なお、研究で使用したリノール酸とαリノレン酸は脂肪酸であり、食品や健康食品の摂取では同等の効果を認められない可能性があるとしている。 和歌山県立医科大学医学部解剖学第一講座Oral administration of linoleic acid immediately before glucose load ameliorates postprandial hyperglycemia (Frontiers in Pharmacology 2023年7月31日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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