ニュース

2022年12月26日

糖尿病の人は「アルコール」に注意 年末年始に飲み過ぎないための7ヵ条

 「酒は百薬の長」ということわざがある通り、ほどよいアルコールは健康に良いことが知られている。適度の飲酒は、糖尿病のリスクを減少する可能性もある。アルコールにはストレス解消やリラックスの効果もある。

 しかし、適量を超えてアルコールを飲み過ぎてしまうと、その健康効果はすぐに打ち消されてしまう。アルコールを過度に飲んでいると、糖尿病をはじめとする、さまざまな疾患のリスクが上昇する。

 コロナ禍で、とくに25歳~44歳の若年成人で、アルコールの飲み過ぎによる健康障害が急激に増えているという報告もある。年末年始にアルコールを飲み過ぎないために、知っておきたい対処法をご紹介する。

適量のアルコールは健康に良い?

 「酒は百薬の長」ということわざがある通り、適度なアルコールは健康に良いことを示した研究がある。適度の飲酒は、心臓病や脳卒中、糖尿病のリスクを減少する可能性がある。アルコールにはストレス解消や、人間関係を円滑にするなどメリットもある。

 海外の研究では、アルコール摂取量と糖尿病や関連する疾患のリスクは、「Uカーブ」の関係にあることが示されている。つまり適度な飲酒をしていると、血糖コントロールの状態はむしろ良くなり、糖尿病合併症も減るという報告がある。

 日本人を対象とした大規模調査「NIPPON DATA」で、2型糖尿病では、適度な飲酒をする習慣のある人は、まったく飲まない人に比べ、心血管疾患などの死亡リスクはむしろ低いという結果が報告されている。

 オーストラリアのモナッシュ大学が最近発表した、1万8,000人以上の米国とオーストラリアの高齢者を対象とした調査でも、適度な飲酒をしている人は、心臓病のリスクが低いことが示された。適度な飲酒をしている人は2割ほどだったという。

関連情報

飲み過ぎるとアルコールの健康効果はすぐに打ち消される

 しかし、注意しなければならないのは、アルコールを飲み過ぎてしまうと、その健康効果はすぐに打ち消されてしまうことだ。

 アルコールを飲み過ぎると、インスリンが十分に働かなくなるインスリン抵抗性の原因になり、糖尿病の管理が乱れ、高血圧や肥満のリスクも上昇する。肝臓病や脳卒中、心臓病、がんなどのリスクも高くなる。

 欧州心臓病学会(ESC)によると、アルコールを少し飲み過ぎただけでも、心臓病のリスクが上昇する。とくに糖尿病や肥満、高血圧などの危険因子のある人は、アルコールの飲み過ぎにより心不全などの発症リスクが上昇するという。

 アルコールを中程度あるいは多量飲んでいる人は、まったく飲まない人に比べ、心臓の健康が悪化するリスクが4.5倍高いことと関連していた。とくにアジア人では、少量の飲酒でも有害である可能性があるという。

 また、米国神経学会(AAN)によると、アルコールの飲み過ぎは、脳卒中のリスクも高める。20代~30代の人であっても油断はできないという。

 中程度から大量の飲酒をしていた人は、脳卒中のリスクが20%高く、重度の飲酒の年数が増加するにつれて、脳卒中のリスクはさらに高くなった。この研究では、韓国の国民健康調査で健康診断を毎年受けている人々のデータが解析された。

 「アルコール摂取量を減らすことで、脳卒中を予防できれば、個人の健康と社会に対する脳卒中による負担を全体的に減らせると考えられます」と、韓国のソウル国立大学医学部内科のユエ クン チョイ氏は述べている。

飲み過ぎると肝機能障害やがんのリスクも上昇

 過体重や肥満のある人がアルコールを飲み過ぎると、肝炎など肝機能障害になりやすいことも分かっている。シドニー大学が、40歳~69歳の50万人近くの人々の10年にわたる医療データを調べたところ、過体重や肥満がある人では、アルコールを飲み過ぎていると、肝疾患のリスクが50%以上高いことが分かった。

 過体重や肥満があり、適量とされるアルコール量を超えて飲んでいた人では、適度な飲酒をしていた人に比べ、アルコール性肝障害と診断されるリスクが6倍近くに上昇し、死亡リスクも7倍近くに上昇するという。

 世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)による研究では、過度の飲酒はがんのリスクも高めることが示された。アルコールの飲み過ぎは、乳がん、大腸(結腸・直腸)がんなどの、さまざまながんのリスクを大幅に高めており、2020年に新たに発症したすべてのがんの7分の1と関連しているという。

 「アルコールががんを引き起こすメカニズムにとして、DNA修復の障害によるものが考えられます。過剰なアルコール摂取により、肝硬変が引き起こされたり、乳がんにつながる性ホルモンの調節不全につながることも考えられます。アルコールはまた、頭頸部がんのリスクも高めます」と、精神保健政策研究所のケビン シールド氏は説明している。

「適度な飲酒」のアルコール量は1日に20~25g

 カナダのトロント大学などの研究では、アルコール(純アルコール量)を1日に25~30gまで摂取していると、糖尿病の発症リスクはむしろ低くなることが示された。

 しかし、少しでもアルコールを飲み過ぎると、その効果はすぐに打ち消されてしまうという。

 日本人でも「適度な飲酒」は、男性でアルコール量が1日に20~25gぐらいまでだと考えられている。

 アルコール量20gは、ビール(ロング缶)1本(500mL)、チューハイ(レギュラー缶)1本(350mL)、日本酒1合(180mL)、焼酎1杯(100mL)、ワイン2杯(120mL)、ウイスキー2杯(60mL)に相当する。

 なお、女性は男性に比べて、アルコール分解速度が遅いことが多いので、女性は男性の半分から3分の2くらいの量が適当とされている。

連休にアルコールを飲み過ぎないための7つの対策
 休日が続くと、アルコールを飲み過ぎてしまいがちになる。米国糖尿病学会(ADA)や米メイヨー クリニックなどは、休日が続くときの、アルコールとの「上手な付き合い方」を紹介している。

 「アルコールにはリラックス効果があり、ストレスの軽減を期待できますが、飲み過ぎには注意が必要です。安全な飲酒の方法を知っておくことが必要です」と、メイヨー クリニックのテリー シュニークロス氏は述べている。

糖尿病の人はアルコールの飲み過ぎにご注意

  • アルコールはアルコールそのものの作用やアルコールの代謝により、血糖値に影響を与えます。飲み過ぎは糖尿病のリスクも高めるので注意が必要です。

  • とくにインスリンや、SU薬などの経口血糖降下剤で薬物治療をしている人は、アルコールの急性効果として低血糖を起こしやすくなります。アルコールの代謝にともない、糖新生(肝臓での糖の産生)が抑制されるなど、血糖が下がりやすくなります。食事をとらずに飲酒するのは避けるべきです。

  • アルコールを飲むからといって、食事を抜くのは危険がともないます。食事もきちんととることが大切です。良質のタンパク質が多く含まれる魚や肉、大豆製品、ミネラルや食物繊維を多く含む野菜、とくに緑黄色野菜、海藻、キノコなどを食べることが勧められます。

  • アルコールには利尿作用がありトイレが近くなります。排出された水分を補わないと、脱水状態になりやすいので、お酒を飲むときは、水も飲むようにしましょう。

  • 2型糖尿病の治療に広く用いられているビグアナイド薬(メトホルミン)は、アルコールを過度に飲むと、副作用である乳酸アシドーシスが起こりやすくなります。とくに過度の飲酒を続けている人では、肝臓での乳酸の代謝能が低下しているおそれがあるので、注意が必要です。吐気・嘔吐・腹痛などの胃腸症状や過呼吸などがある場合は、医師に相談してください。

  • SGLT2阻害薬は、血液中の糖を尿中に排出させることで血糖値を下げるタイプの治療薬。過度のアルコールを摂取したり、感染症にかかったり、脱水の状態にあると副作用が起こりやすくなります。このタイプの薬を飲んでいるときにも、アルコールの飲み過ぎには注意が必要です。事前に医師や薬剤師に相談して、注意点を聞いておきましょう。

  • お酒を控えていたり、飲めない体質の人は、周囲の人に「自分はお酒を飲めない」ことを事前に伝えておくことも大切。とくに日本人の半数はお酒に弱い遺伝子をもっているとされます。

  • 会席やパーティーでは、ビールやウイスキーの水割りの代わりに、色が似ているウーロン茶やノンアルコール飲料を上手に利用しましょう。宴会やパーティーなどの目的は、食べたり飲んだりではなく人との会話や交流と、割り切って考えることも大切。下戸にとっては宴席で何を飲むかというのは切実な問題です。

Study: Deaths from Alcohol Use Disorder Surged During Pandemic (シダーズ サイナイ医療センター 2022年5月16日)
Evaluation of Trends in Alcohol Use Disorder-Related Mortality in the US Before and During the COVID-19 Pandemic (JAMA Network Open 2022年5月4日)
Alcohol intake and 19-year mortality in diabetic men: NIPPON DATA80 (Alcohol 2009日12月)
Alcohol as a risk factor for type 2 diabetes:A systematic review and meta-analysis (Diabetes Care 2009年11月)
The relationship between alcohol consumption and glycemic control among patients with diabetes:the Kaiser Permanente Northern California Diabetes Registry (Journal of General Internal Medicine 2008年3月1日)
More than 1 drink a day could raise blood pressure in adults with diabetes (米国心臓学会 2020年9月9日)
Moderate drinking of alcohol associated with reduced risk of heart disease and death from all causes, landmark study of older people reveals (モナッシュ大学 2021年11月8日)
Alcohol consumption and risks of cardiovascular disease and all-cause mortality in healthy older adults (European Journal of Preventive Cardiology 2021年10月28日)
Alcohol may be more risky to the heart than previously thought (欧州心臓病学会 May 2022年5月22日)
Moderate alcohol consumption is associated with progression of left ventricular dysfunction in a European stage B heart failure population (欧州心臓病学会 May 2022年5月22日)
In young adults, moderate to heavy drinking linked to higher risk of stroke: Risk increases with more years of drinking (米国神経学会 2022年11月2日)
Cumulative Alcohol Consumption Burden and the Risk of Stroke in Young Adults: A Nationwide Population-Based Study (Neurology 2022年11月2日)
New WHO study links moderate alcohol use with higher cancer risk (依存症・メンタルヘルスセンター 2021年7月13日)
Global burden of cancer in 2020 attributable to alcohol consumption: a population-based study (Lancet Oncology 2021年7月13日)
Overweight or obesity worsens liver-damaging effects of alcohol (シドニー大学 2021年6月1日)
Joint associations of adiposity and alcohol consumption with liver disease-related morbidity and mortality risk: findings from the UK Biobank (European Journal of Clinical Nutrition 2021年5月31日)
Alcohol use: Weighing risks and benefits (メイヨー クリニック 2021年12月11日)
Alcohol and Diabetes (米国糖尿病学会)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲