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2022年11月01日

膵β細胞を増やす新しい糖尿病の治療法に期待 脂肪からインスリンを増やす物質が出ている

 群馬大学などは、脂肪でつくられる物質が、インスリンをつくる膵β細胞を増殖させ、インスリンを増やすことを明らかにしたと発表した。

 血液中に、膵β細胞の細胞分裂を促す物質が分泌されることで、インスリンを多く作り出されていることを突き止めた。インスリンが効きにくい状態では、内臓脂肪から血液中に膵β細胞を増やす物質が出ていることも分かった。

 遺伝子の発現を調節する転写因子と、細胞の分裂を調節する分子が、膵β細胞の増殖に関わっているという。研究成果は、膵β細胞を増やす新しい再生医療への応用に役立つことが期待される。

インスリンを出す膵β細胞を増やす物質が脂肪から出ている

 肥満やインスリンが効きにくい状態で、インスリンをつくる膵β細胞を補えないことが、糖尿病のリスクを高めている。膵β細胞を増やす方法を開発できれば、糖尿病治療は改善すると考えられる。

 群馬大学は、脂肪から血液中に、膵β細胞を増殖させる物質が分泌されていることを発見した。これまで知られているインスリン受容体を介した経路とは別の増殖経路が示された。

 研究は、群馬大学生体調節研究所代謝疾患医科学分野の白川純教授らの研究グループが、横浜市立大学、ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センター、アルバータ大学などと共同で行ったもの。

 研究グループは今回の研究で、人工的にインスリンが効きにくくなる状態(インスリン抵抗性)をつくりだしたときに、インスリンを分泌する膵β細胞ではどのようなことが起こるのかを詳しく調べた。

 その結果、血液中に膵β細胞の細胞分裂を促す物質が分泌されることで、インスリンを多く作り出されていることを突き止めた。興味深いことに、インスリンが効きにくい状態では、内臓脂肪から血液中に膵β細胞を増やす物質が出ていることも分かった。

 さらに、これまで膵β細胞を増殖させるために必要であると考えられていた、インスリン受容体を介した経路とは別のメカニズムによって、膵β細胞は増えており、その過程には「E2F1」や「CENP-A」というタンパク質が重要な役割を果たしていることを発見した。

 今回発見された、脂肪から出る物質が膵β細胞を増殖させ、インスリンを増やす作用は、ヒトの膵島でも認められた。研究により、糖尿病患者の体のなかで、脂肪を利用して膵β細胞を再生させることにより、インスリンを作り出す新しい糖尿病の治療法を開発できる可能性が開けた。

膵β細胞を増やす作用が障害されることが糖尿病の原因のひとつ

 肥満などによってインスリンが効きにくくなると、膵臓の膵島にある膵β細胞の量が増えることで、インスリンを増やして血糖を下げようとする反応が起こることが知られている。

 このインスリン不足に対する膵β細胞を増やす作用が障害されることが、加齢や遺伝によっておこる2型糖尿病を発症する原因のひとつと考えられている。

 インスリンが効きにくくなっているときに、どのように膵β細胞が増えているかが明らかにすれば、糖尿病で相対的に少なくなった膵β細胞をふたたび増やすことで、インスリンを体のなかで作り出す糖尿病治療につながると考えられる。

 研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、科学研究費助成事業、および民間助成金からの助成に加え、1型糖尿病の患者および家族による認定NPO法人である「日本IDDMネットワーク」の支援を受けて行われた。

 日本IDDMネットワークは、1型糖尿病を中心に、インスリン療法を行っている糖尿病患者への支援や、糖尿病の新たな治療法の開発を目指す研究への助成などの活動を展開している。

 1型糖尿病は、主に自分の免疫で膵β細胞が破壊されてしまうことで発症するが、インスリンを分泌する膵β細胞はわずかに残っているとみられている。それをふたたび増やすことができれば、それだけ血糖管理を行いやすくなり、糖尿病の状態からの回復も可能になると期待されるとしている。

少なくなった膵β細胞を増やせばインスリン分泌を増やせる

 肥満などでインスリン抵抗性になると、血糖値を下げるために膵β細胞が増殖してインスリンを補うと考えられているが、この作用がうまくいかなくなると、インスリンが相対的に不足し糖尿病を発症する。

 体の臓器は、他の臓器とコミュニケーションをとっていることが知られており、インスリンを作り出す膵β細胞も、肝臓や脳、骨ならびに筋肉などとネットワークを形づくっており、他の臓器からの信号を受け取りインスリンの量が調節されていると考えられる。

 肥満やメタボなどの内臓脂肪が蓄積する状態では、インスリン抵抗性になり、血糖値を下げるためにインスリンが多く必要になる。この状態では、脂肪組織のなかで炎症などの変化が起こっていることが知られているが、膵β細胞にどのような影響を与えているのかはよく分かっていなかった。

 そこで研究グループは、代償的に膵β細胞が増えるメカニズムを解明すれば、少なくなった膵β細胞を増やしインスリン分泌を増やすことで、糖尿病の新たな治療法につながると考えた。

 今回の研究で、「S961」というインスリンの作用を特異的に阻害するペプチドを、マウスにポンプで持続注入することにより、急性インスリン抵抗性をきたしたモデルを作製。

 膵β細胞への影響を解析したところ、これまで肥満状態や肝臓でインスリンが効かなくなった時に膵β細胞が増えるために必要と考えられてきたインスリン受容体がない状態でも、インスリン受容体がある状態と同等に膵β細胞は増殖することが分かった。

脂肪をターゲットにした膵β細胞を増やす新しい再生医療

 そこで研究グループが、急性インスリン抵抗性により膵β細胞のなかでどのような変化が起きているのか、遺伝子の発現を解析したところ、「E2F1」という遺伝子の発現を調節する転写因子と、「CENP-A」という細胞の分裂を調節する分子が、急性インスリン抵抗性による膵β細胞の増殖に関与していることが明らかになった。

 E2F1やCENP-Aがどのようにして、膵β細胞で誘導されるのかを解析したところ、血液中に循環している膵β細胞を増やす物質が関与していることが分かった。この循環因子による膵β細胞の増殖は、マウスだけでなくヒトの膵島でも認められた。さらに、急性インスリン抵抗性状態では、膵β細胞でE2F1を誘導し増殖させる物質が脂肪から出ていることも突き止めた。

 これまで脂肪はエネルギーをためこむ器官と考えられていたが、近年では血液中に他の臓器に作用するホルモンを豊富に分泌する器官でもあることが分かってきた。今回の研究では、脂肪から血液中にでてくる物質が膵β細胞を増やすという新しいホルモンなどの存在が示唆された。

 「過去の研究により、この物質は1つではなく複数で作用している可能性が考えられます。本研究の成果は、今後、糖尿病患者さんの体のなかで、脂肪をターゲットとして膵β細胞を増やすような新しい再生医療への応用に役立つことが期待されます」と、研究グループでは述べている。

群⾺⼤学 生体調節研究所
群⾺⼤学 生体調節研究所 代謝疾患医科学分野
E2F1 transcription factor mediates a link between fat and islets to promote β cell proliferation in response to acute insulin resistance (Cell Reports 2022年10月4日)

1型糖尿病の「根絶(=治療+根治+予防)」を目指して
日本IDDMネットワーク

 日本IDDMネットワークは、1型糖尿病の「根絶(=治療+根治+予防)」を一刻も早く実現し、1型糖尿病による生涯の負担から解放することを目標に活動している。

 1型糖尿病は、生きていくのに欠かせないインスリンを産生するβ細胞が攻撃・破壊されることで発症する疾患。原因不明で、小児期に突然発症することが多い。現在の医療では、生涯にわたり毎日4~5回の注射、またはポンプによるインスリン補充が必要となる。

 1型糖尿病は、糖尿病の大半を占め生活習慣病とも言われる2型糖尿病とはまったく異なる疾患だが、日本での年間発症率は10万人当たり2人程度と希少であり、社会的な認知や理解は十分に得られておらず、患者と家族の精神的・経済的負担も大きい。

 同NPO法人は、こうした患者の負担をなくすことを目指して、1型糖尿病についての最先端の研究を支援するために、さまざまなクラウドファンディングを展開している。これまでに多くの実績を重ねており、広く参加を呼びかけている。

 日本IDDMネットワークの活動の財源となっているのは、1型糖尿病の患者や家族、支援者からの「1型糖尿病研究基金」への寄付と、佐賀県庁へのふるさと納税だ。

 ふるさと納税の運営母体は自治体であり、佐賀県庁では日本IDDMネットワークを指定して寄附ができ、税金の控除も受けられ、お礼の品をもらうこともできる。また、認定NPO法人である日本IDDMネットワークへの寄付は、税制優遇の対象となる。

 1型糖尿病の根治治療が1日も早く実現するよう、研究のサポートをする募金への参加を呼びかけている。

 日本IDDMネットワークを指定して佐賀県庁へふるさと納税をすると、寄付額の90%が同法人に寄付される。ふるさと納税の返礼品は、佐賀牛や有田焼など多数に及ぶ。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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