ニュース

2022年07月08日

糖尿病薬の最新情報 インクレチン関連薬とSGLT2阻害薬 糖尿病の薬は進歩

 糖尿病の薬物療法で、「GLP-1受容体作動薬」(注射薬)と「SGLT2阻害薬」(経口血糖降下薬)が広く使用されるようになってきた。

 GLP-1受容体作動薬は、膵臓のインスリン分泌を促進し、SGLT2阻害薬は、血液中のブドウ糖を尿の中に排出させることで血糖値を下げる。

 これらの薬は、血糖値を下げる以外にも、さまざまな効果があることが分かってきた。新しい製剤の開発も進められている。

2つのインクレチンを組み合わせた製剤は効果的

 カナダのアルバータ大学は、肥満のある2型糖尿病の人を治療するために、2つのインクレチンを組み合わせ製剤は、単剤を使用したときよりも効果的だという研究を発表した。研究は、ドイツ糖尿病研究センターと共同で行ったもの。

 2つの薬を組み合わせると、患者によっては、有効性がより高くなり、副作用は少なくなるなど、いくつかの利点があるとしている。

 「肥満のある人は、体重を5%減らしただけでも、血糖値などのさまざまな検査値が改善することがよくみられます。食事療法と運動療法で体重コントロールの改善を目指しますが、患者さんによって十分な結果を得られないことがあります」と、アルバータ糖尿病研究所および女性・子供健康研究所のアンドレア ハック教授は言う。

 「そうした患者さんでも、2型糖尿病と肥満症の薬物療法により、体重を10%~15%減らすのに成功した例があります」としている。

GLP-1の働きに着目したインクレチン関連薬

 「インクレチン」は、食事をして糖などが吸収されると、小腸から出てくるホルモンで、膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を増やす。近年広く治療に使われるようになったインクレチン関連薬は、このインクレチンのなかでもGLP-1の体内での働きに着目してつくられた糖尿病治療薬だ。

 日本でも糖尿病の治療に広く利用されている「GLP-1受容体作動薬」は、膵臓に作用してインスリン分泌を良くする薬。食事により血糖値が高くなったときに働くため、低血糖を起こしにくいとされている。

 GLP-1受容体作動薬は、血糖値を下げるのに加えて、「体重を減らす」「食欲を抑える」という特長もある。胃にも作用して胃の動きを抑え、食欲も抑えるため、体重を増やしたくない人に向いているとされている。週1回の注射で効果が持続するものや、のみ薬タイプのものも出ている。

GLP-1とGIPの2つのインクレチンの作用を統合した新しい製剤を開発

 インクレチンは、GLP-1以外にGIPがある。ともにインスリン分泌を促し、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞を保護する作用があるが、それぞれ分泌される部位が異なる。GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)にも、血液の血糖上昇に応じて膵臓からのインスリン分泌を増やす作用がある。

 現在、GLP-1とGIPの両方のインクレチンの作用を統合した、新しい製剤の開発が進められている。海外で実施されている臨床試験では、GIP/GLP-1の両方の作用により、さらに大きい体重減少の効果を得られることが報告されている。

 なお、アルバータ大学などは、食事に食物繊維を加えることで血糖上昇と体重増加を防いだり、運動療法でインスリンの効きを良くしたり、既存の治療薬の使い方を工夫するなど、薬にのみに頼らない治療法の開発にも取り組んでいる。

 「糖尿病の治療は進歩しています。かかりつけ医に処方された薬を、指示通りに正しく服用・注射することが重要です」と、ハック教授は述べている。

ブドウ糖を尿中に排泄させるSGLT2阻害薬

 インクレチン関連薬とともに、糖尿病治療で広く利用されるようになった薬に、「SGLT2阻害薬」がある。これは、ブドウ糖を尿中に排泄させるという作用により、血糖値を下げる薬。

 SGLT2阻害薬も、他の薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性は低く、エネルギー源であるブドウ糖を体の外に出すので体重が減りやすい。

 SGLT2阻害薬には、心臓や腎臓を保護する効果があることも分かってきた。尿路感染や脱水などの副作用に注意しながら使用すれば、効果的な薬とされている。

糖尿病の人は血管機能障害が起こりやすい

 2型糖尿病の人は、加齢にともない血管機能障害が起こりやすくなるが、SGLT2阻害薬で治療をすると、この障害を軽減できる可能性があることが、米ミズーリ大学の研究で明らかになった。

 研究グループは、糖尿病の人の老化にともなう動脈硬化の進行や血管機能の低下について研究しており、SGLT2阻害薬がこれらを軽減するかを調べた。

 研究では、平均年齢61歳の18人の糖尿病患者と、平均年齢25歳の18人の健康な人とを比べ、血管の老化や機能低下について調べた。その結果、糖尿病の人は、血管の内皮機能がより損なわれ、動脈硬化が進行していることを確かめた。

 次に、SGLT2阻害薬が血管の老化をどう改善するかを調べるために、糖尿病のマウスを使い実験をした。SGLT2阻害薬を投与したマウスは、血管機能が改善し、動脈硬化は減少し、それ以外にも血管の健康に対し利益を得られることが分かった。

SGLT2阻害薬の血管改善作用に期待

 「血管の老化が原因となる心血管疾患は、米国で高齢者の主な死因になっています」と、同大学内分泌代謝・糖尿病科のカミラ マンリケ アセベド氏は言う。

 「体重コントロール、運動の習慣化、血圧の管理、脂質の管理により、血管機能を改善し、動脈硬化を軽減する効果を得られますが、とくに高齢者の血管の健康を改善するためには、追加のアプローチが必要です」。

 「今回の研究は、血管の老化を改善するために、SGLT2阻害薬の潜在的な役割を調べた最初のものです。ヒトの血管老化を遅らせる、あるいは打ち消すための治療ツールとして、SGLT2阻害薬の潜在的な役割を明らかにするため、さらに臨床研究が必要です」としている。

Combination of drugs for obesity and Type 2 diabetes may be more effective than a single therapy (アルバータ大学 2022年3月3日)
Recent Advances in Incretin-Based Pharmacotherapies for the Treatment of Obesity and Diabetes (Frontiers in Endocrinology 2022年3月1日)
Drug that lowers blood sugar also reduces blood vessel dysfunction caused by aging (ミズーリ大学コロンビア校 2022年5月24日)
SGLT2 inhibition attenuates arterial dysfunction and decreases vascular F-actin content and expression of proteins associated with oxidative stress in aged mice (GeroScience 2022年4月15日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲