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2022年04月14日

妊娠中の運動が子供の糖尿病リスクを低減する仕組みを解明 妊娠期の運動で次世代の健康も守れる

 東北大学や理化学研究所などは、母親が妊娠中に運動することが、肥満による子供の糖尿病リスクを低減するメカニズムを明らかにしたと発表した。

 母体と赤ちゃんを連絡している胎盤から産生されるタンパク質である「SOD3」が、母親の運動の有益な効果を伝えているという。

 妊娠期の運動は、母親の健康を改善できるだけでなく、次世代の健康を守るための実践的な方策にもなる可能性がある。

 母親の肥満は、生まれた子供の将来の2型糖尿病リスクを高めるという報告がある。子供に生まれつきの健康格差を強いる原因となるおそれがあり、この悪循環を防ぐ効果的な方法が求められている。

妊娠期の運動は次世代の健康を守るためにも大切

 東北大学や理化学研究所などの研究グループは、マウスを使った実験を行い、妊娠期の運動が親から子供への肥満の伝播を防ぐメカニズムを解明したと発表した。

 近年、母親の肥満や2型糖尿病は、子供が健康的な生活をしていても、将来に糖尿病のリスクを高めるという研究が発表されている。

 この世代間連鎖は、子供に生まれつきの健康格差を強いる重大な原因となるおそれがあり、母親から子供への肥満の悪循環を防ぐ効果的な手段の確立が望まれている。

 欧米やアジア諸国では、出産可能年齢の女性の30%以上が肥満とみられている。

 研究グループはこれまで、母親が妊娠中に運動することで、胎盤から分泌される「スーパーオキサイドドジスムターゼ3(SOD3)」と呼ばれるタンパク質が、運動の有益な効果を子供へ伝達していることを明らかにしている。胎盤は、妊娠時に子宮内に形成され、母体と胎子を連絡する器官。

 今回の研究では、胎盤から産生されるSOD3のユニークな機能を明らかにした。妊娠中に運動をすることで、肥満による子供の糖代謝への悪影響を予防する新たな分子メカニズムを解明した。

 妊娠期の運動は、母親の健康を改善できるだけでなく、次世代の健康を守るための実践的な予防方策にもなる可能性がある。

 研究は、東北大学学際科学フロンティア研究所の楠山譲二助教、理化学研究所生命医科学研究センターの小塚智沙代基礎科学特別研究員、金沢医科大学の八田稔久教授、東北大学大学院医工学研究科の永富良一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国糖尿病学会誌「Diabetes」に掲載された。

 研究は、米国のハーバード医科大学ジョスリン糖尿病センター、コロラド大学、テキサス大学と共同で行われた。また、SDGs(持続可能な開発目標)のうち、目標3「すべての人に健康と福祉を」、10「ひとや国の不平等をなくそう」に関するものとしている。

母親の胎盤から産生されるSOD3の特別な効果を解明
妊娠中に運動をすることで、肥満による子供の糖代謝への悪影響を予防できる可能性

出典:東北大学、2022年

妊娠中の運動が子供の肥満リスクを低減するメカニズムを解明

 これまで、肥満の妊婦で、SOD3がどのように肥満による子供への悪影響を予防できるかは、よく分かっていなかった。

 今回研究では、マウスを用いた実験で、母親が妊娠中に高脂肪食を摂取すると、胎子の肝臓で「エピジェネティクス」の改変の一種であるヒストンメチル化の「H3K4me3」レベルが低下し、主要な糖代謝遺伝子の発現が低下していることを明らかにした。

 エピジェネティクスは、DNAの塩基配列の変化をともなわず、細胞分裂後も受け継がれる遺伝子発現や細胞表現型の変化のこと。また、細胞の染色体は、主にヒストンと呼ばれるタンパク質とDNAによって構成されている。ヒストンメチル化は、ヒストンの特定のアミノ酸にメチル基が結合し、遺伝子発現を変化させることで、遺伝の制御に関わっている。

 この現象は、胎仔の肝臓での「活性酸素(ROS)」の上昇と、ヒストンメチル化酵素の活性制御分子である「WDR82」の「カルボニル化」による機能異常に起因していた。

 活性酸素が過剰になると細胞傷害などの悪影響に原因にもなる。カルボニル化は、タンパク質が活性酸素によって酸化修飾を受けて変性することで、タンパク質の機能を損なう酸化的損傷のひとつ。

 しかし、母親の高脂肪食を摂取することで誘導されるこのような悪影響は、妊娠中に運動をすることで防げることが明らかになった。運動によって、胎盤からSOD3が分泌され、母親の肥満による子の糖代謝異常を予防できるという。

胎盤から産生されるSOD3の特別な効果を解明

 さらに興味深いことに、胎子肝臓にSOD3を注入すると、生後の糖代謝能は向上したが、代表的な抗酸化剤である「N-acetylcystine(NAC)」を注入しても、SOD3の効果を模倣することはできないことが分かった。

 つまり、胎盤から産生されるタンパク質であるSOD3を、薬で代替することはできず、妊娠中に運動をすることが、胎盤由来のSOD3のもつ特別な効果を引き出すのに必要があることが示唆された。

 「研究は、妊娠中の運動がもつ、母親の肥満による子供への悪影響を予防作用の分子メカニズムを実証したものです。また胎子肝臓の発生中に、胎盤由来SOD3の効果を受けることの重要性を明らかにし、妊娠中の運動がその方法として非常に有効であることを提唱するものです」と、研究グループでは述べている。

 「妊娠中の運動と胎盤を通じて、子供の将来の健康を増進できれば、これまでにない次世代医療の実現につながる可能性があります」としている。

東北大学学際科学フロンティア研究所
理化学研究所生命医科学研究センター
Maternal Exercise-Induced SOD3 Reverses the Deleterious Effects of Maternal High Fat Diet on Offspring Metabolism Through Stabilization of H3K4me3 and Protection Against WDR82 Carbonylation (Diabetes 2022年3月15日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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