ニュース

2021年11月10日

【脂肪肝と糖尿病】座ったままの時間をウォーキングに置き換えて脂肪肝を改善 1時間の運動で22%減少

 1日の座ったままの時間(座位行動)を30分減らし、普通の歩行から早歩きくらいまでの中高強度の運動に置き換えると、脂肪肝になる可能性が13%減少することが、山口県立大学と明治安田厚生事業団による研究で明らかになった。

 さらに、もっとがんばって1日に1時間の座位行動を運動や身体活動にあてると、脂肪肝は22%減少するという。

 運動量を30メッツ・時まで増やしていくと、それに応じて脂肪肝の抑制効果を得られることも示された。普通の歩行の強度は3メッツくらい。これを週に10時間行うと30メッツ・時になる。やや速歩であると運動の強度は3.8メッツになり、およそ週に8時間行うと30メッツ・時を満たすことができる。
脂肪肝があると糖尿病リスクは大きく上昇
 不健康な食事や運動不足、肥満などが原因で、肝臓に中性脂肪がたまるのが「脂肪肝」。アルコールが原因であることも多いが、近年は飲酒をしない人にも起こる「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」と呼ばれる状態が注目されている。

 脂肪肝を放置していると、肝炎・肝硬変に進行するので注意が必要となる。NASHになる前の脂肪肝の段階でも、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの危険性が高くなることが知られている。

 脂肪肝は世界的に増えている。日本の人間ドックでも3割の人が脂肪肝と判定され、そのほとんどは食べ過ぎや運動不足が原因の非アルコール性脂肪肝とみられている。

 脂肪肝は、糖尿病とも関連が深い。とくに脂肪肝があり、肥満があると、2型糖尿病のリスクが大きく上昇することが知られている。

 福島県立医科大学などが行った、健康診断を受けた中年の男性1,544人と864人の女性を10年間追跡した研究によると、脂肪肝のある男性の糖尿病の発症リスクは12.5%、女性では26.3%だった。脂肪肝のない人に比べある人では、糖尿病の相対リスクが、男性で4.8倍、女性で14.5倍上昇した。

 脂肪肝を病気と認識して、きちんと治療することが大切だ。
座ったままの時間が長いと脂肪肝リスクが上昇
 現代人は、デスクワークや、テレビ・パソコン・スマホの使用など、1日の座ったままの時間(座位行動)が長い。座位行動が長く、ウォーキングなどの運動や身体活動を行う時間が短いと、非アルコール性脂肪肝になるリスクが上昇することが分かっている。

 誰にとっても1日は24時間と決まっている。運動不足の人が生活を見直し、ウォーキングを始めるなど身体活動を増やせば、座ったままの時間を減らせる。しかし、1日の行動時間のこうした特性(相互依存性)については、十分に調べられたことがない。

 そこで研究グループは、明治安田厚生事業団体力医学研究所が行っている明治安田ライフスタイル研究(MYLSスタディ)により、1日の座っている時間(座位行動)と体を動かしている時間(身体活動)のバランスに着目し、非アルコール性脂肪肝との関連について調べた。

 研究は、山口県立大学社会福祉学部の角田憲治准教授と、同事業団によるもの。研究成果は、国際学術誌「Alimentary Pharmacology & Therapeutics」に発表された。
脂肪肝を改善するためにやや早歩きのウォーキングを
 研究グループは、1日の座位行動および身体活動と非アルコール性脂肪肝との横断的関連性を、統計手法により調べた。

 MYLSスタディに2017~2019年度に参加した、非飲酒者・適量飲酒者(男性30g/日未満、女性20g/日未満)1,914人を対象に、ふだんの座位行動時間と身体活動時間を測定した。参加者に腰に活動量計を装着してもらい、腹部エコー検査により脂肪肝を評価した。

 解析した結果、中高強度の活動量が多いほど、非アルコール性脂肪肝である可能性が減少することが分かった。この抑制効果は、運動量を30メッツ・時まで増やしていくと、それに応じて強まることが示された。

 普通の歩行の強度は3メッツくらい。これを週に10時間行うと30メッツ・時になる。やや速歩であると強度は3.8メッツで、およそ週に8時間行うと30メッツ・時に相当する。

 一方、ゆっくりとした歩行や家事などの3メッツ未満の低強度活動であると、非アルコール性脂肪肝に対する効果はみられなかった。

 脂肪肝を予防・改善するためには、やや早歩きのウォーキングなど、強度をある程度高めた活発な運動が必要であることが示唆された。

やや早歩きのウォーキングなど、運動の強度を高めると効果的

出典:国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
座位行動時間を1時間減らし運動に置き換えると脂肪肝は22%減少
 さらに、組成データを解析した結果、1日の座位行動時間を30分減らし、中高強度活動に置き換えた場合は、非アルコール性脂肪肝である可能性が13%減少することが明らかになった。

 もっとがんばって、中高強度活動の時間を1時間に延ばすと、非アルコール性脂肪肝は22%減少すると計算された。

1日の座ったままの時間を30分減らし、中高強度の運動に置き換えると、脂肪肝が13%減少する。
さらに運動を1時間に増やすと、脂肪肝は22%減少する。

出典:明治安田厚生事業団、2021年

 今回の研究は、客観的に評価された身体活動量と非アルコール性脂肪肝との関連性について、量反応関係や行動の相互依存性を考慮して解明した世界初のものとなる。

 「研究により、中高強度活動の多い人ほど、非アルコール性脂肪肝である可能性が低いことが分かりました。また、中高強度活動による非アルコール性脂肪肝の予防効果は、座位行動時間を1時間減らし、それを中高強度の身体活動に置き換えると、とくに大きいことが示されました。ふだんから不活動な方ほど、できる限り活動量を増やすことが重要であることが示唆されました」と、研究者は述べている。

 「運動・スポーツに対し苦手意識をもっている人や、その時間がない人でも、階段を使う、一駅分歩いて通勤するなど、日常の行動のなかから、中高強度活動時間を増やすことはできます。脂肪肝は重度肝疾患への入り口です。適切な食生活とともに、ふだんから意識的に体を動かし、予防に努めることが重要です」としている。

 なお、今回の研究で得られた知見は横断的検討によるものであり、因果関係は明らかにされていない。また、対象者が首都圏の人間ドック受診者であり、通勤などによる活動量が多い集団だった。そのため、得られた結果が活動量の少ない人や他の地域の人に当てはまるかなどについては、さらなる研究が必要としている。

山口県立大学 社会福祉学部
明治安田厚生事業団
Non-alcoholic Fatty Liver Disease Is a Risk Factor for Type 2 Diabetes in Middle-aged Japanese Men and Women(Internal Medicine 2017年4月1日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲