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2021年06月24日

糖尿病患者の血糖コントロールは10年間で悪化 治療は進歩 なぜ改善しないのか?

 成人の糖尿病患者の血糖コントロールは最近の10年間で悪化していることが、米国の調査で明らかになった。
 血糖値を下げる薬を使用している患者で、低血糖を恐れて、血糖コントロールの目標を少しゆるめたケースが多いとみられている。
 ただし、現在は低血糖を引き起こさないより安全な薬が登場しており、今後はそれらの新しい薬が患者に利益をもたらす可能性がある。
米国の糖尿病患者の血糖コントロールは10年間で悪化
 米国の成人糖尿病患者の血糖コントロールは最近の10年間で悪化していることが、ジョンズ ホプキンズ公衆衛生大学院の研究で明らかになった。研究は医学誌「ニューイングランド ジャーナル オブ メディシン」に発表された。

 研究グループは、「米国国民健康栄養調査(NHANES)」の1999~2018年のデータを解析。この調査は米国全土で実施されており、毎年約5,000人が対象になっている。1999~2018年の調査には、6,653人の成人が参加した。

 その結果、HbA1c7.0%未満という目標を達成している糖尿病の成人の割合は、57.4%(2007~2010年)から50.5%(2015~2018年)に減少したことが分かった。

 ただし、血糖コントロールの目標を達成している割合は、さらに10年前の1999~2002年には44.0%だったので、それに比べると大幅に改善している。

 さらに、血圧の目標である140/90mmHg未満を達成している割合も、74.2%(2011~2014年)から70.4%(2015~2018年)に減少した。Non-HDLコレステロールの目標である130mg/dL未満を達成している割合は、52.3%(2007〜2010年)から55.7%(2015~2018年)にやや改善した。

 血糖・血圧・コレステロールの3つの目標をすべて達成できている糖尿病患者の割合は、2010年以降は横ばい状態になり、2015〜2018年には22.2%だった。
低血糖を恐れて血糖の管理目標がゆるくなった?
 「多くの患者さんが、10年前に比べ血糖コントロールが低下しており、血糖・血圧・コレステロールのコントロール目標をすべて達成している患者さんはごく一部だけです」と、ジョンズ ホプキンズ公衆衛生大学院疫学部のエリザベス セルビン教授は言う。

 これまで、米国のDCCTや英国のUKPDSといった大規模研究により、1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cを低くコントロールすると、糖尿病の合併症を抑制できることが証明されている。その結果、HbA1cを目標値まで下げることが、糖尿病の治療の基本になった。

 しかし、2008年に発表された2つの大規模な臨床研究(ACCORDとADVANCE)では、厳格な血糖コントロールを求め過ぎると、危険な低血糖のリスクが上昇し、求めていた心血管疾患からの保護という利益を得られないことが示された。

 その影響で、血糖値をより低くコントロールしようとすると、一部の糖尿病患者では、低血糖のリスクが高くなる恐れがあると考えられるようになった。

 低血糖は、ある種類の血糖値を下げる薬を使用すると、血糖値が低くなり過ぎる副作用。血糖値が一定の値まで低下すると、"汗をかく""脈が早くなる""手や指が震える"などの症状があらわれる。重症の場合は、脳などの中枢神経が糖不足の状態になり、意識障害、けいれんや昏睡などが起こり危険な状態になる。

 「過去10年ほどで、多くの医師が低血糖を回避することを考え、糖尿病患者の血糖コントロールの目標を少しゆるめた結果、悪影響がもたらされた可能性があります」と、セルビン教授は言う。
低血糖を引き起こさないより安全な治療法も
 ただし、ACCORDやADVANCEの以降は、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬といった、低血糖を引き起こさないより安全な薬が登場しており、今後はそれらの新しい薬が患者に利益をもたらす可能性があるという。

 「低血糖を引き起こさないより安全な治療法で、HbA1cを下げることができれば、それだけ糖尿病合併症を防ぐことができます」と、セルビン教授は強調している。

 現状では、十分な血糖コントロールを得られておらず、糖尿病とともに生きる何百万人もの米国人が、深刻な合併症のリスクにさらされていると指摘している。

 「糖尿病の医療は進歩しています。合併症を予防するために、血糖だけでなく、血圧やコレステロールのコントロールも必要です」と、同学部のマイケル ファング氏は述べている。

 「治療を改善するためには、患者さんに意識を高めてもらうことも必要です。患者さんには、医療の進歩にも関心をもってもらい、疑問があったら医師や医療スタッフに尋ねてもらいたい」としている。
糖尿病の治療の基本となるABC
 糖尿病の90%以上は2型糖尿病であり、食事や運動などの生活スタイルの影響を強く受ける。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国の成人の糖尿病人口は3,400万人以上で有病率は13%だ。

 公衆衛生上の大きな課題になっている糖尿病は、血糖を下げるインスリンの作用不足により、血糖値が慢性に高くなった状態だが、多くの場合で高血圧や高コレステロールもともなっている。

 治療を受けず、これらをコントロールできないでいると、心血管疾患、脳卒中、腎臓病、足切断などの深刻な合併症が引き起こされる。糖尿病は骨粗鬆症や歯周病、認知症、がんなどとも関連している。

 糖尿病の治療の基本となるABCとは、「A=HbA1c」「B=血圧」「C=コレステロール」のこと。3つのゴールを達成すれば、糖尿病合併症を予防できる確率は大きく上昇する。

 「医療機関で定期的な診療と検査を受け、慢性的な高血糖を減らし、血圧を十分なレベル以下に保ち、コレステロール値もコントロールすることが重要です」と、ファング氏はアドバイスしている。

ジョンズ ホプキンズ ブルームバーグ公衆衛生大学院
Trends in Diabetes Treatment and Control in U.S. Adults, 1999-2018(ニューイングランド ジャーナル オブ メディシン 2021年6月10日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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