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2021年04月22日

「ゆっくり食べる」ことが糖尿病対策に 噛む力が低下すると心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇 よく噛むための8つの対策

 仕事などで毎日が忙しく、十分に咀嚼せず、食物を早く飲み込み、食事のスピードが速いという人は多い。しかし、早食いは体に悪影響をもたらすので注意が必要だ。
 食べ方を工夫すれば、食後の血糖上昇を抑えられる。早食いが原因で肥満になったり、血糖変動が大きくなり糖尿病リスクが上昇するという研究が発表されている。
食べ方によって血糖上昇を抑えられる
 食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑えられることが分かっている。主食の炭水化物を食べる前に、食物繊維が豊富に含まれる野菜や、タンパク質を含む肉や魚などの主菜を先に食べることで、食後血糖の上昇を抑えやすくなる。

 さらには、咀嚼(よく噛むこと)の大切さも注目されている。咀嚼には、食物を噛み砕き、胃腸での消化・吸収を助ける働きがあるが、それ以外にも「満腹中枢」を刺激し、食欲を抑える効果もあり、食事療法や肥満対策に役立つことが分かってきた。

 咀嚼力と血糖コントロールの関係を調べた研究では、咀嚼力が低下すると、血糖コントロールを乱しやすくなることが分かった。つまり、野菜など食物繊維の多い食材を主食より先に食べ、よく噛んで咀嚼することで、食後の高血糖を抑えやすくなる。
早食いをすると満腹中枢が働きにくくなる
 早食いをすると肥満や2型糖尿病のリスクが上昇するのは、脳の満腹中枢が関係しているからだ。満腹中枢は、脳の視床下部にある器官のひとつで、摂取した食物に反応して体に満腹感を知らせる。

 食べ物を摂取すると血液中のブドウ糖(血糖)の量が増加し、血糖値が上昇する。満腹中枢がこれを感知し、「これ以上食べる必要ない」と体に伝える。もしも満腹中枢が正常に機能しないと、どれだけ食べても満腹感を得られなくなる。

 満腹中枢が血糖値の上昇を感知するまでに約15~20分かかるとされている。食べ過ぎを改善するためには、早食いをしないで、15分以上かけて食事をするのが望ましい。
糖尿病の人は「ゆっくり食べる」と効果的
 九州大学が2型糖尿病の日本人約6万人を対象とした研究で、食事の速度が肥満やBMIに影響することが示された。速く食べる人ほどBMIや腹囲が上昇しやすいという

 研究は、九州大学大学院医学研究院の福田治久氏らによるもので、医学誌「ブリティッシュ メディカル ジャーナル」のオンライン版に発表された。

 研究チームは、調査期間中に2型糖尿病と診断された日本人5万9,717人を対象に、食べる速度と体重の増減との関連を調べた。日本医療データセンター(JMDC)が作成した健康保険組合の実施した健康診断のデータベースを利用した。

 解析した結果、食べる速度が速い人は全体の37.6%、普通の人は55.4%、ゆっくりの人は6.9%であることが判明した。

 BMI(体格指数)は身長と体重から算出され、体重が適正範囲内かどうかを判断する際に用いられる。BMIが25以上の肥満の割合は、食べる速度が速い人では44.8%、普通の人では29.6%、ゆっくりの人では21.5%で、食べる速度がゆっくりであるほど肥満の割合は少なくなることが明らかになった。

 食べる速度はウエスト周囲径にも影響する。ウエスト周囲径の平均は、食べる速度が速い人では86.8cm、普通の人では82.8cm、ゆっくりの人では80.1cmで、食べる速度がゆっくりであるほど、お腹周りも引き締まることが分かった。
噛む力が低下すると心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇
 また、国立循環器病研究センターの研究によると、咀嚼機能の指標のひとつとなる「最大咬合力」が低下すると、心筋梗塞や脳卒中などを発症するリスクが上昇する。

 研究グループは、大阪府吹田市の市民を対象としたコホート研究である「吹田研究」に参加した、50~79歳の男女1,547人を対象に調査した。

 その結果、最大咬合力が低い人は高い人に比べ、循環器病を新たに発症する割合が高かった。最大咬合力がもっとも高い人に比べ、低い人では心血管疾患(CVD)を発症するリスクが4倍以上に上昇した。

 つまり、咀嚼機能が低いと、将来に循環器病を発症するリスクが上昇する可能性がある。いつまでもよく噛めるように心がけることが大切だ。
よく噛んで食べるための8つの対策
 ハーバード公衆衛生大学院によると、1回の食事にかける時間が少ないと、短時間に吸収しやすい食品を選びがちになる。吸収の早い食品は食後の血糖値を上げやすい。

 ゆっくり食べることで、食事の血糖上昇を抑えられ、血糖変動が小さくなり、1~2ヵ月の血糖の平均をあらわすHbA1cが低下する。体重も減少させることができる。

 ゆっくり食べるために、1回の食事に費やす時間を増やす必要がある。下記の工夫をすると、自然に噛む回数を増やせて、ゆっくりと食事ができる。

1 ひと口の量を減らす

 多くの人はひと口で噛む回数は量によって変わらないという調査結果がある。ひと口の量を減らせば、噛む回数を増やせる。

2 食事の時間に余裕をもつ

 忙しい毎日、時間に追われると、つい早食いになってしまいがちだ。スケジュールを調整し、食事の時間を十分にとれば、噛む回数を増やせる。

3 食べることに集中する

 テレビやスマートフォンを見たり、パソコンの前で仕事をしながらの食事は、食べることに集中できなくなるだけでなく、食べ過ぎにもつながる。  食べるときにはスマートフォンの電源を消し、なるべく食べることに集中する。楽しみながら食事をすることで、ゆっくりと食べられるようになる。

4 まずは噛む回数を5回増やす

 ひと口の噛む回数をいきなり増やすのは大変なので、まずは5回増やしてみる。慣れてきたら少しずつ増やしていく。

5 歯ごたえのある食材を選ぶ

 ゴボウやレンコンなどの根菜類や、きのこ、コンニャク、海藻類、ナッツ類(アーモンド、クルミ)など、食物繊維が豊富に含まれ、噛み応えのある食品を副菜に取り入れる。

6 食材は大きく、厚めに切る

 食材を一口大に切ると、飲み込める大きさになるまで噛むようになるので、自然に噛む回数も増える。みじん切りや千切りよりは、乱切りなどのように大きめに切ったほうが良い。

7 薄味にする

 薄味にすると、食材本来の味を味わおうとして、よく噛むようになる。

8 食事はなるべく家で

 ファストフードやレストランなどでの外食は、1回の食事量が多く、食べ過ぎにつながりやすく、しかも多くは栄養価も低い。食事にかけられる時間も少なくなる傾向がある。家で家族といっしょに時間をかけて食べるのが理想的。

A simple meal plan of 'eating vegetables before carbohydrate' was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes(Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition 2011年6月)
Effects of changes in eating speed on obesity in patients with diabetes: a secondary analysis of longitudinal health check-up data(British Medical Journal 2018年2月12日)
A lower maximum bite force is a risk factor for developing cardiovascular disease: The Suita study. Scientific Reports(Scientific Reports 2021年4月7日)
Food and Diet Beyond Willpower: Diet Quality and Quantity Matter(ハーバード公衆衛生大学院)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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