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2021年03月29日
運動をすると良く眠れるのはなぜ? 睡眠不足だと糖尿病リスクが上昇 ⽇中のウォーキングが効果的
筑波大学は、運動を行うことで、質のよい睡眠がとれ、より短時間で効率よく「睡眠要求」を満たすことができるという研究を発表した。
睡眠時のゆっくりとした脳波である「デルタ波」をエンベロープ解析するという新しい手法で、脳波の活動を多角的に調べた。
その結果、⽇中に活発なウォーキングなど、最⼤酸素摂取の60%程度の強度の運動を1時間⾏うことで、夜は質のよい睡眠をとれ、デルタ波が睡眠の前半に集中して⼤幅に増えるという。
睡眠時のゆっくりとした脳波である「デルタ波」をエンベロープ解析するという新しい手法で、脳波の活動を多角的に調べた。
その結果、⽇中に活発なウォーキングなど、最⼤酸素摂取の60%程度の強度の運動を1時間⾏うことで、夜は質のよい睡眠をとれ、デルタ波が睡眠の前半に集中して⼤幅に増えるという。
運動を行うと、質のよい睡眠をとれる
夜になると眠くなり、朝になると目覚める睡眠のリズムは、「睡眠欲求」と「覚醒力」のバランスから生まれている。昼間の活動によるたまった身体と脳の疲労をとるため、身体は睡眠を要求する。これが「睡眠欲求」だ。
筑波大学は、運動を行うことで、質のよい睡眠がとれ、より短時間で効率よく「睡眠要求」を満たすことができるという研究を発表した。
睡眠は健康を保つために欠かせない。疲労回復はもちろん、2型糖尿病や肥満などを予防・改善するためにも、睡眠の効果は注目されている。
睡眠時間が短かったり、質のよい睡眠をとれないでいると、2型糖尿病のリスクが上昇することが知られている。
日本人を対象とした調査でも、睡眠時間が一晩に6.5時間未満だと、糖尿病リスクが上昇するという結果が出ている。
床についてもなかなか眠りに入れない入眠困難があると、糖尿病リスクは1.57倍に、眠りについても何度も目が覚めてしまったり、眠りが浅いなどの睡眠維持困難があると、糖尿病リスクは1.84倍にそれぞれ上昇するという報告もある。
ウォーキングなどの運動をすることが睡眠に影響することは、⽇常的に経験されることだ。運動をした後には快眠できることを、多くの人が経験している。ヒトや動物を⽤いたこれまでの研究でも、運動後に睡眠の量が増加することが報告されている。
どのような運動をすると、睡眠の量や質を改善できるか
一方で、運動負荷や運動時間の違いによる睡眠の量や質への影響がさまざまな研究で明らかになり、運動のやり方によっては、睡眠の質に対してマイナスの効果もあることが分かってきた。
どのような運動をすると、睡眠の量や質を改善できるのだろうか?
筑波大学の研究で、少し強めの運動は、主観的な睡眠の質は改善しないものの、客観的にはより安定した深い睡眠を誘導することが明らかになった。
また、運動することで、全体的な睡眠時間が短縮し、とくに睡眠前半で深い睡眠を強めたり安定化をもたらすことも確認された。
これらから、運動を⾏うことで、質のよい睡眠がとれ、より短時間で効率よく睡眠要求を満たせることが示された。やはり運動をすることは、睡眠を改善するために必要なことが分かった。
研究は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)のフォークト キャスパー准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
⽇中に最⼤酸素摂取の60%の強度の運動を1時間⾏うことで、質の良い睡眠がとれるようになり、より短時間で効率よく睡眠要求を満たせるようになる可能性がある。
筑波大学、2021年
睡眠時のゆっくりとした脳波「デルタ波」で睡眠を評価
睡眠の質についての研究では、睡眠脳波を目視によって、30秒毎にN1(浅睡眠)、N2、N3(深睡眠)、REM(レム睡眠)という、4つの睡眠ステージで判定し、各ステージの時間の長さで評価することが多い。
この方法は50年以上にわたり、睡眠判定の標準として用いられているが、目視という半定量的な手法を用いるため、睡眠の質を十分に評価できているとは限らず、再現性にも問題がある。このため、睡眠の質を評価する新たな解析手法が求められている。
そのひとつの手法として、脳波波形の「エンベロープ」(包絡線)を用いた、新しい脳波解析の手法が提案されている。エンベロープは、信号の曲線群のすべてに接するような曲線のこと。振幅のゆっくりした変化やピークの検出に⽤いられる。
脳波の特定の周波数成分でのエンベロープの変動係数(CVE)を求めることで、その周波数域での振動の経時的な変化や安定性を評価することができる。
より振動が安定している場合は、CVEは低い値を、不安定な場合は高い値を示す。
世界ではじめての手法で脳波を詳細に解析
少し強めの運動はより安定した深い睡眠を誘導
その結果、運動によって睡眠中のエネルギー消費は増加したが、深部体温には差がないことが分かった。
また、運動によって睡眠の質の主観的評価が改善することはなく、客観的な評価でも深い睡眠時間は減少していたものの、睡眠時の脳波を詳しく分析すると、深い睡眠時のデルタ波の強度が大幅に増加していることが分かった。
また、デルタ波のエンベロープ解析により、運動をすることで、睡眠前半で深い睡眠の安定性が向上することも分かった。
これらのことから、少し強めの運動は睡眠の質の主観的な改善、および客観的な深い睡眠時間の増加にはつながらないものの、より安定した深い睡眠を誘導していることが明らかになった。
つまり、運動を行うことで、質のよい睡眠を効率的に得られることが示された。
⽇中に活発なウォーキングを1時間⾏うと睡眠を改善できる
⽇中に最⼤酸素摂取の60%の強度の運動を1時間⾏うことで、夜は時間が短くても質のよい睡眠をとれ、深い睡眠の指標であるデルタ波が睡眠の前半に集中して⼤幅に増え、安定性を強められるという。
最⼤酸素摂取量は、酸素を体内に取り込む能力を測るもの。これが60%の強度の運動とは、活発なウォーキングなどの有酸素運動に相当する。ウォーキングなどを1日に60分行えば、睡眠を改善できる可能性がある。
今回、運動生理学や睡眠医学との連携により、新たな手法で脳波の活動を多角的に調べた結果、運動により快眠を得られる、つまり主観的な睡眠の質の改善を得られるメカニズムが新たに示された。
運動が睡眠にもたらす効果を明らかにすれば、より効果的に睡眠を改善できる運動方法を提案できるようになる。運動の効果を最大化するために、どのような介入をすればよいのかが分かる。
「今回の研究で、その有効性が示された、デルタ波のエンベロープ解析という新しい手法を、今後は既存のデータも含め、さまざまなデータに適用することで、さらに睡眠の謎が解明されると考えられます」と、研究グループは述べている。
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)Exercise Improves the Quality of Slow-Wave Sleep by Increasing Slow-Wave Stability(Scientific Reports 2021年2⽉24⽇)
Quantity and quality of sleep and incidence of type 2 diabetes:a systematic review and meta-analysis(Diabetes Care 2010年2月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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