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2021年02月05日

糖尿病の飲み薬の「残薬」が課題に 生活が忙しくて服薬管理できない人も 飲み忘れはなぜいけない?

 日本イーライリリーは、糖尿病の経口治療薬を服薬中の2型糖尿病患者を対象に「残薬」に関する調査を実施した。
 糖尿病の飲み薬について、「残薬あり」と回答した患者は33.1%に上り、うち3人に1人以上は医師に残薬を申告していないことが分かった。

 調査は2017年4~5月に、インターネットや郵送、訪問留置により実施。2型糖尿病の診断がされている成人で、かつ通院中で薬物療法を行っている患者2,942人が回答した。
残薬を軽くみてはいけない理由
 「残薬」とは、飲み忘れてしまった薬のこと。とくに高齢者は複数の医療機関を受診していることが多く、薬の処方などの情報が一元化されていないため、薬の種類が増え過ぎたり、重複して薬が処方されてしまうことは少なくない。

 服用できなかった薬が余ったり、服用しても相互作用や重複投与などによる副作用が出るなど、医療費が増大するなかで社会問題になっている。

 また、薬にも使用期限があり、家庭で残薬となった古い薬は再利用できず、利用してしまった場合は健康障害が起こるおそれがある。

 薬局では、薬は適切な環境で保管されている。薬を貯蔵庫に入れ、温度・湿度の管理が必要な薬にも十分に気を配り、遮光が必要であれば光の当たらない保管庫内で管理するなど、医薬品ごとに決められた方法で正しく管理されている。

 さらに、一度調剤された薬は品質の保証ができないため、ほかの患者が使用することもできない。薬を飲み忘れて、残薬が出た場合は、医師や薬剤師に相談することが望ましい。
薬の量や種類の多さ、服薬のタイミングについての悩みは多い
残薬のある糖尿病患者が困っていること

出典:日本イーライリリー、2017年
 日本イーライリリーの調査では、糖尿病の飲み薬を服薬中の2型糖尿病患者のうち、この薬について「残薬あり」と回答した患者は33.1%に上ることが分かった。

 また、残薬がある患者の服薬回数は「1日に3回以上」(40.2%)が最多となった。

 残薬がある患者が困っていることとして「薬の種類が多い」(26.3%)、「一度に飲む量が多い」(22.4%)、「タイミングを守ることが難しい」(17.5%)が多く挙げられ、薬の量や種類の多さ、服薬のタイミングについて悩んでいる人が少なくないことが示された。

 また、「薬が余っているなんて言ったら、怒られてしまうかな?」と考え、残薬を医師に正直に伝えるのを迷ってしまう患者は多いとみられる。

 調査では、医師に残薬があることを申告しているか聞いたところ、残薬がある患者のうち「申告をしていない」という回答は34.7%に上り、3人に1人以上は残薬を申告していないことが示された。
仕事が忙しく、生活が多忙なため、薬の服用を忘れてしまう
 「病識・治療態度」と「生活スタイル・性格」に関する回答を、因子分析を用いて分析し、患者を6つのタイプに分けたところ、経口糖尿病治療薬の残薬が生じている患者には2つの傾向がみられた。

 1つ目は「楽観的志向」で、自分は軽症で服薬管理は難しくないと考えており、残薬が生じている患者。そうした患者は、「治療に影響するほど、薬の飲み忘れはしていない」(86%)、「治療に関する医師からの指示は、ほとんど守れている」(80%)、「自分の病気は、毎日の服薬が欠かせないほど重くはない」(55%)などと考えがちだ。

 2つ目は「治療あきらめ志向」で、フルタイム就業などで生活が多忙なために、服薬管理が難しいと考えて、現状にあきらめを感じており残薬が生じている患者。そうした患者は、「仕事がとても忙しい」(38%)、「以前より病気が進行してきていると感じる」(36%)、「週に7回以上は外食をする」(26%)などと感じており、自分の病態の現状をあきらめている傾向がある。

2型糖尿病患者の6つタイプ

出典:日本イーライリリー、2017年

 また、処方されている経口治療薬すべて(糖尿病治療薬とそれ以外の薬)について、直近1ヵ月で医師の指示通りに服薬しなかったことがある患者に、服薬しなかった理由を尋ねたところ、「特に理由はないが、ついうっかり忘れてしまう」(56%)、「外出の際に持っていくのを忘れてしまう」(39%)、「食事のタイミングが不規則で、飲むタイミングを逸してしまう」(24%)という回答が多かった。

指示通りに服薬しなかった理由
糖尿病を含めて処方されている経口治療薬すべてで、
直近1ヵ月で医師の指示通りに服薬しなかったことがある患者

出典:日本イーライリリー、2017年
忙しくて服薬管理ができない人はどう対策すればよいか
 今回の結果から、2型糖尿病患者が治療に取り組むうえで、食事のタイミングや外出など、生活スタイルに課題を抱えている可能性があるとともに、残薬が生じる患者のタイプがあることが示唆された。

 この結果について、横浜市立大学分子内分泌・糖尿病内科学教室の寺内康夫教授は、「忙しい現代社会の2型糖尿病患者は、不規則なライフスタイルなどが原因で、思い通りの薬物治療を継続できていない方がいることが分かりました」と述べている。

 「服薬アドヒアランスを高めるためには、『服薬回数・種類の減少』や『一包化』などの対策とともに、患者と医療従事者の双方向のコミュニケーションを通じて、服薬遵守の重要性についての理解促進や、あきらめ感の払拭などが必要とされていると考えられます」。

 「糖尿病は進行すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こすリスクが高まりますので、継続して治療に取り組むことが大切です」としている

日本イーライリリー
知りたい!糖尿病(日本イーライリリー)

「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」の役割に期待

 糖尿病の医療では、患者が自己管理によって健康的な生活習慣をもてるように導き、糖尿病の治療目標を達成するために、「チーム医療」が重要と考えられている。

 チーム医療では、糖尿病について十分な知識をもっており、患者に対して教育・心理的配慮ができる糖尿病療養指導士や看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士などが、糖尿病治療に参加することが期待されている。

 残薬の問題を解決するためには、患者の疾患背景をある程度理解していたり、患者が服用している薬を把握している「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」の役割が期待されている。

 薬局の薬剤師が専門性を発揮して、電子版お薬手帳などのICT(情報通信技術)も活用し、患者の服薬情報を一元的に把握し、服薬の指導を実施することが解決につながると考えられている。

 かかりつけ薬剤師や薬局が、患者の服薬情報を知り、副作用や効果を継続的に確認することで、多剤・重複投薬や、健康障害につながる相互作用の防止にも役立つ。

薬局・薬剤師に関する情報(厚生労働省)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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