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2020年05月15日

糖尿病の人はがんの発症リスクが高い メカニズムを解明 新たながん予防法や治療法に期待

 糖尿病によってがんの発症リスクが高まるメカニズムの一端を解明したと、京都大学の研究グループが発表した。
 糖尿病の人はがんになりやすいことが知られており、新たながんの予防法の開発が期待される。
なぜ糖尿病の人はがんになりやすい?
 糖尿病の人はそうでない人に比べ、がんの発症リスクが高いことが知られているが、明確な原因は明らかになっていない。一方、多くの研究でがんを発症するメカニズムの解明が勧められている。

 京都大学の研究グループは、「高インスリン血症」になると、「細胞競合」がうまく働かず、がん細胞が増えるというメカニズムを発見した。

 2型糖尿病や肥満の人の多くで、血中のインスリン量が増える高インスリン血症がみられる。血糖値を調節するホルモンであるインスリンは、食後などに血糖値が高くなると、それを元に戻すために血中に分泌される。

 遺伝的な要因や、肥満、運動不足、ストレスなどの要因により、体がインスリンが効きにくい状態になり、血糖値を下げるためにインスリンが多く分泌され続け、体内のインスリン量が異常に増加した状態が高インスリン血症。

 研究グループは、高インスリン血症の状態になると、異常細胞のタンパク質合成能力は正常細胞よりも高くなり、正常細胞によって排除されなくなって、腫瘍化することを突き止めた。
がんを未然に防ぐ細胞競合
 研究グループは、細胞のがん化の初期段階で起こる「細胞競合」と呼ばれる現象に着目した。

 細胞競合は、体内で生存能力や増殖能力の異なる2種類の細胞が近接すると、適応度のより高い細胞が生き残り、低い細胞が排除される現象。細胞競合によって、健康な人ではがんが未然に防がれていると考えられている。

 細胞は生きていくために必要なタンパク質を常時作り出している。このタンパク質合成能力により、細胞競合が起こり、がんのもとになる異常な細胞は、正常細胞により除去される。異常細胞は、通常は周りにある正常な細胞に比べ、タンパク質合成能力が劣っている。

メトホルミンを投与するとがん化を抑制
 さらに、高インスリン血症により細胞競合が破綻した状態で、糖尿病の治療薬として広く使われている「メトホルミン」を投与すると、細胞競合が復活して異常細胞が排除され、がん化が抑制されることも分かった。

 メトホルミンは、肝臓からのブドウ糖の放出を抑えたり、腸管からのブドウ糖吸収を抑制したり、筋肉組織でインスリンが効きやすくするなどの作用があるが、その作用メカニズムについて分かっていない部分も多い。

関連情報
メトホルミンが細胞競合を促す可能性
 今回の研究は、ショウジョウバエを使ったもので、細胞競合は多くの生物種に備わっているメカニズムであり、ヒトの体でも同じことが起きていると考えられる。

 実験で、「chico」と呼ばれるインスリン受容体基質遺伝子の機能を破壊し、細胞内でインスリンが生理活性を示さなくしたハエでは、血糖値に関係なくインスリン循環量が異常に多くなる高インスリン血症が起きた。

 このハエでは、異常細胞内のインスリンシグナルが上昇することで、タンパク質合成能力が顕著に高くなり、異常細胞が正常細胞によって排除されなくなり腫瘍化することが分かった。

 このハエに、メトホルミンを登用すると、細胞競合が復活して異常細胞が排除され、がん化が起こらなくなった。メトホルミンにはタンパク質合成能力を抑える働きもあり、メトホルミンが細胞競合を促すことでがんリスクを低下させている可能性がある。
細胞競合を標的としたがんの予防法や治療法を開発
 細胞競合は、ヒトのがんにおいても重要な役割を果たしており、今回の研究は、細胞競合を標的とした新たながん予防や治療法の開発につながると考えられる。

 研究は、京都大学大学院生命科学研究科の井垣達吏教授、佐奈喜祐哉氏(現:フランス キュリー研究所)らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Developmental Cell」のオンライン版に発表された。

 「細胞競合は、正常細胞 vs 異常細胞の戦いという点で現象そのものに面白味があります。また、本研究成果で示されたがん予防の他に、個体発生や老化にも役割を果たしていることが示されてきました。細胞競合を理解することで、これらの疾病や老化などをコントロールできるかもしれません」と、佐奈喜氏は述べている。

京都大学大学院生命科学研究科
Hyperinsulinemia Drives Epithelial Tumorigenesis by Abrogating Cell Competition(Developmental Cell 2020年5月7日)
がんリスクチェック(国立がん研究センター)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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