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2018年06月06日

「笑い」が糖尿病やメタボ、がんを改善 よく笑うと健康効果が

第61回日本糖尿病学会年次学術集会
 「笑い」を医学的に研究しようとの試みがなされ、糖尿病やがんの改善効果など、さまざまな作用を期待できると分かってきた。笑いを増やすことで、糖尿病やがんを改善できる可能性がある。
よく笑う人ほど健康的 社会的なつながりも多い
 1日に何回くらい声を出して笑っているだろう。最近あまり笑っていないという人は多少無理してでも笑った方がいい。なぜなら笑いにはさまざまな健康効果があり、よく笑う人ほど健康度が高いことが分かってきたからだ。

 笑いは高齢になるほどその頻度が少なくなることが報告されており、40歳代以上の男性の5人に1人が週に1回も声を出して笑っていなかったという調査結果もある。

 意識のもちようで1日に笑う回数は増やすことができる。また、笑いは幅広い年代に作用をもたらす。笑いを増やすことが、糖尿病やがんの対策になる可能性がある。

 笑いはお金がかからず、いつでも臨機応変に、ストレスを管理する効果的な手段になる。「よく笑うことはストレス低減につながります。血糖値やコレステロール値を下げるのにも効果的です」と専門家はアドバイスしている。

 笑いは、加齢にともなう体の変化や、心理的な因子にも影響をもたらす。社会経済的な要因や社会参加の状況など、社会的な因子とも強く関連していると考えられている。社会的なつながりが少ない人は、多い人より死亡率が高いとの報告もある。

 東京大学大学院などが全国の65歳以上の男女約2万人を対象にした調査では、ふだんほとんど笑わない高齢者は、毎日よく笑う高齢者より、「健康状態が良くない」と感じる割合が1.54倍に上昇した。健康に対する自己評価が低い人ほど、寝たきりになる割合や死亡率が高いことが分かっている。
笑いが糖尿病の血糖コントロールを改善
 京都医療センター臨床研究センターの研究で、笑いに象徴されるポジティブな心理的因子が、糖尿病の血糖コントロールの指標となるHbA1cを改善し、2型糖尿病やメタボリックシンドロームを改善する可能性があることが明らかになった。

 研究グループは、京都医療センターの外来に通院中の2型糖尿病やメタボリックシンドロームの患者222人を対象に、1年毎の追跡調査による前向きコホート研究を行った。

 1年後も追跡して調査できた患者を対象に、1年間の食前血糖値およびHbA1cの変化を、笑いの頻度別で比べたところ、笑いの頻度が「月に1〜3回か、ほんど笑わない」という人で血糖値とHbA1c値の改善度が低く、「月に1〜5回」「ほぼ毎日」という人で改善度が高いことが分かった。また、1年の追跡調査によりポジティブな心理要因が多い人ではHbA1cが低下する傾向もみられた。

 笑いなどポジティブ心理要因が多いことが、交感神経の活動を亢進するのを抑えていることが分かった。また、笑いは、脂肪を燃焼してインスリンの働きを助けて糖尿病を改善する作用のある「アディポネクチン」の発現の上昇を促すことも分かった。

 2型糖尿病やメタボリックシンドロームに、笑いに象徴されるポジティブな心理状況が強く影響することが分かった。研究グループは、糖尿病などと笑いの関連をさらに調べ、糖尿病の重症化を予防するために、「ポジティブな心理要因・笑い習慣」を取り入れた治療法の提唱を目指すとしている。
笑いがんの免疫機能にもたらす影響を調査
 大阪府立病院機構「大阪国際がんセンター」は、松竹芸能、吉本興業などと協力し、がん患者や医療従事者を対象に、「笑い」が生活の質(QOL)や免疫機能などに与える影響を明らかにする日本初の「笑いとがん医療の実証研究」を行っている。

 「わろてまえ劇場」は、同センター内で2017年からスタートした笑いの舞台だ。漫才や落語による「笑い」によって、がん患者の免疫力向上のほか、緊張や疲労といった心身の状態が改善するかを調べている。

 研究では、落語や漫才などを2週間に1回、お笑いの舞台「わろてまえ劇場」で開催し、研究に参加した患者をお笑いの舞台を1〜4回目を楽しむ群と、5〜8回目を楽しむ群に無作為に割り付ける。

 患者の「自己効力感」と「QOL指標」、血液検査で「免疫機能」を調べ、笑いが与える影響を評価する。ほかに血圧、脈拍を測定したり、表情や気分を調べる調査も行う。

 がん細胞は、ウイルスなどと同様に異物として認識されるため、通常はがん細胞を攻撃し排除する働きのある免疫細胞がある。その代表が「NK(ナチュラルキラー)細胞」だ。しかし、がん細胞を攻撃する細胞が活性化しないようにブレーキをかけたり、免疫を抑制する細胞を増加させる事によって、がん細胞は体の中で成長する。
笑いがNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化
 2017年5〜6月の計4回、漫才や落語を鑑賞した患者と、鑑賞しなかった患者のそれぞれ約30人の血液を採取して分析した。その結果、落語などを見たグループは2ヵ月で、NK細胞を活性化するタンパク質を作る能力が平均で1.3倍上昇した。NK細胞自体も、増加する傾向があった。

 また、患者の気分の変化などもアンケートし、緊張や抑うつ、疲労などの6項目全てで改善がみられ、がんの痛みについても改善があったという。

 「自己効力感」とは、何か課題が与えられた時、「自分はきっとできる」という前向きな気持ちをもつこと。笑いは自己効力感にも影響するとみられている。

 実験に参加した患者の1人は「家にこもっていると、家事をするだけの単調な日々になりがち。でも、2週間に1回劇場へ行くと思うと、楽しみが増え、気分転換にもなる」と、語っている。

 研究はまだ途中だが、笑いを楽しむことで患者がんの苦痛から解放される可能性が示された。同センターは今回の研究を論文にまとめて学術誌に発表する予定だ。

第61回日本糖尿病学会年次学術集会
大阪国際がんセンター
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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