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2018年01月05日

インスリン産生とインスリン抵抗性の両方を改善する方法を開発

 肝臓でつくられるタンパク質「セレノプロテインP」は、インスリン抵抗性を引き起こし2型糖尿病を悪化させる。「セレノプロテインP」の作用を抑制する抗体をつくるのに、同志社大学の研究チームが世界ではじめて成功した。
 この抗体は、膵臓のインスリン産生とインスリン抵抗性の両方を改善することを確かめた。新たな糖尿病治療薬の開発につながる成果だ。
セレノプロテインPは糖尿病を悪化させる「悪玉」
 食事によって血糖が増加すると、膵臓のβ細胞から分泌されたインスリンは骨格筋などに作用し、血液中から糖分を取り込み血糖値が下がる。2型糖尿病患者では、β細胞からのインスリン産生の低下と、インスリンの効果が低下し骨格筋などでの糖取り込みが低下する「インスリン抵抗性」が起こりやすい。

 同志社大学の研究グループは、「セレノプロテインP」に着目した研究を行っている。セレノプロテインPは、主に肝臓で合成され血液中に分泌されるタンパク質で、必須微量元素である「セレン」を含んでおり、食事から吸収したセレンを各臓器に運ぶ役割をしている。

 セレノプロテインPは、活性酸素を除去する「グルタチオンペルオキシダーゼ」というタンパク質を合成するなど重要な働きをしているが、増え過ぎるとさまざまな障害を引き起こす。

 増え過ぎたセレノプロテインPは糖尿病を悪化させる「悪玉」として作用し、インスリン抵抗性を引き起こし、血糖値を上昇させる。セレノプロテインPの作用を抑制する治療薬が開発できれば、糖尿病の効果的な治療法となると考えられている。
セレノプロテインPを抑制する「中和抗体」をつくるのに成功
 金沢大学の研究によると、増加したセレノプロテインPは「運動抵抗性」を引き起こし、運動による効果を打ち消す作用をする。運動によって生じる微量の活性酸素は、インスリンの効果を高め血糖の取り込みを促し、糖尿病を改善するが、セレノプロテインPは活性酸素を消去し、インスリン抵抗性や運動抵抗性を引き起こすという。

 同志社大学の研究グループは今回の研究で、セレノプロテインPに結合する「抗体」となるタンパク質を作成し、セレノプロテインPの作用を抑制する「中和抗体」を同定するのに成功した。

 筋肉のモデルである「C2C12」細胞に、セレノプロテインPを添加すると、セレノプロテインPとセレン含有タンパク質GPxの増加するが、中和抗体「AE2」を加えると、両方が低下しセレノプロテインPの作用が抑制されることを発見した。

 研究グループが、セレノプロテインPが増加している糖尿病のモデルマウスに、この中和抗体を投与したところ、血糖値が低下し、糖尿病が改善した。中和抗体の投与後にインスリンを投与したところ、血糖値が低下し、中和抗体はインスリンの効果も回復させることが示された。

 さらに、血中へのインスリン分泌を調べたところ、糖負荷後に血中に分泌されるインスリン量が増えており、インスリン分泌が回復していることを確かめた。
膵臓を保護する新たな糖尿病治療の開発へ
 マウスを使った実験では、セレノプロテインPの投与により膵臓のインスリン産生が低下することが分かった。膵臓の障害について組織学的に解析したところ、正常な膵島の中央にはβ細胞があるが、セレノプロテインPを処理したマウスでは膵島が萎縮し構造が大きく歪んでいた。

 これに中和抗体を投与したところ、インスリン産生の低下が抑制され、膵島の構造変化も抑制された。

 今回の研究から、セレノプロテインPの中和抗体により、インスリンの分泌と作用の両方を改善でき、複合的に糖尿病を治療できることが明らかになった。また、セレノプロテインPレベルが膵臓のインスリン分泌に大きく影響することも分かった。

 研究グループは、血中のセレノプロテインPを測定する診断薬の開発を進めている。セレノプロテインPの値が高くなっている糖尿病患者は少なくないと考えられる。この診断薬と治療薬を組み合わせれば、セレノプロテインPを標的とするテーラーメイドの糖尿病治療が実現できる。

 今後、セレノプロテインPを標的とすることで、膵臓を保護する新たな糖尿病治療薬の開発が期待される。

 研究は、同志社大学生命医科学部システム生命科学研究室の斎藤芳郎准教授らの研究グループによるもので、科学誌「Nature Communications」に発表された。

同志社大学生命医科学部システム生命科学研究室
Selenoprotein P-neutralizing antibodies improve insulin secretion and glucose sensitivity in type 2 diabetes mouse models(Nature Communications 2017年11月21日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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