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2016年05月06日
ウォーキングと腹式呼吸でうつ病を克服 2ヵ月のトレーニングで効果
眠れない、食欲がない、1日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない――この「気分が落ち込む」「ゆううつ」な気分が長期にわたって続いている場合、うつ病の可能性がある。
うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、さまざまな理由で脳の機能障害が起きている状態だ。
糖尿病の人はうつ病を併発しやすいことが知られている。糖尿病の人はそうでない人に比べ、うつ病を発症するリスクが3倍高いという調査結果がある。うつ病は血糖コントロールを悪化させ、血糖コントロールが悪くなるとうつ病も進行しやすくなり、相乗的に合併症を発症しやすくなる。早期からうつ病に対策することが必要だ。
1日30分のウォーキングなどの有酸素運動と腹式呼吸を中心としたリラクゼーションを組み合わせることでうつ病を改善できることが、米ニュージャージー州のラトガース大学の研究で明らかになった。
リラックスはストレスと対極にある状態で、「心と体の緊張が解けて安らかな状態」を指す。人は意識しないとなかなかリラックスできないため、リラックスした状態を保つには、意識的にトレーニングすることが大切だ。
腹式呼吸は、誰にでもすぐできて効果があるリラックス法だ。例えば、緊張して心臓が動悸を打ったり汗をかいたときに、意識的に「心臓を鎮める」「汗を抑える」ことはできないが、呼吸は自分のペースで速くしたり遅くしたりできる。また、呼吸に集中することで雑念を払うことができる。
呼吸には、呼吸や体幹部の安定性を作り出している「横隔膜」を上下させ、大きくゆっくり呼吸する「腹式呼吸」がある。リラックス法として有効なのはこの腹式呼吸だ。
リラックスの原点は「大きくゆっくり腹式呼吸をする」ことだ。呼吸回数を減らすと、興奮を抑えるホルモンの分泌が増え、副交感神経が活性化し、リラックス効果を得やすくなる。仕事などでストレスや緊張を感じたときなど、日常生活で試してみると効果を実感できる。
具体的には次のようなやり方で腹式呼吸を行うと効果的だ――
(1)息を吸うときにお腹が膨らみ、横隔膜が下がるのを感じる。はじめのうちは、お腹に意識するために、手を当てて行う。
(2)口からゆっくり息を吐き、お腹がへこみ、横隔膜が上がるのを感じる。吐ききったら少し息を止める。
(3)息を吐くときは、吸うときの2倍くらいの時間をかけ、ゆっくり吐く。慣れてきたら1回の呼吸時間を長くし、呼吸回数を減らしていく。
ラトガース大学の研究チームは、ウォーキングなどの運動と呼吸法を組み合わせた治療を「メンタル アンド フィジカル」(MAP)トレーニングと名付けた。
研究には、うつ病と診断された大学生22人と、精神障害の既往歴がない学生30人が参加した。参加者は日常や環境に不安や否定的な感情をもち、仕事や勉強に集中できないと訴えていた。
研究チームは参加者に有酸素運動と腹式呼吸を中心としたリラクゼーションに週2回、8週間をかけて取り組んでもらった。
トレーニングが終了した後、参加者をうつ病を評価するスケールで検査しアンケートに答えてもらった。その結果、うつ病の参加者のグループは、実施前に比べ症状が21%軽減し、健康な参加者でも抑うつ度が軽減した。参加者の行動へのモチベーションは向上し、生活に対して集中力と積極性が増していることが分かった。
「ウォーキングと腹式呼吸を取り入れたリラクゼーションの組み合わせにより、メンタル面で臨床的に有意な改善がみられました。たった2ヵ月のトレーニングにより、参加者には明確な変化が起きていました」と、ラトガース大学スポーツ運動科学部のブランドン アルダーマン氏は言う。
「2つの行動療法のそれぞれはうつ病の治療法として有効であることは知られていましたが、組合せることでより効果的な治療ができるようになることがはじめて解明されました。活動への関心や喜びの低下を特徴とする“うつ病性障害”の症状も改善しました」と、同大学心理学部のトレーシー ショーツ教授は言う。
うつ病を発症する患者は増えており、世界の17ヵ国で実施された国際調査によると、10~20人に1人が生涯にうつ病の状態を経験しているという。うつ病の標準的な治療法として、向精神薬により脳内化学物質を調整する薬物療法と、医療者との対話による認知療法が行われているが、うつ病をコントロールするには多くの時間と医療費が必要だ。
「メンタルとフィジカルのトレーニングであれば費用があまりかからず、短時間で効果を得られます。今回の研究では、参加者は1日に30分のウォーキングと30分の呼吸トレーニングから始めました」と、アルダーマン氏は言う。
ハーバード大学の研究グループが磁気共鳴画像法(MRI)を使って、呼吸トレーニングに取り組んでいる人たちの脳を調べたところ、注意や感覚情報の処理といった役割を担っている前頭前皮質の一部の体積が大きくなることが確かめられた。
また、運動そのものが気分の高揚に直接的影響をもたらし、うつ病の状態を改善することがさまざまな研究で確かめられている。
「ウォーキングや呼吸法にはいつでもどこでも行える強みがあります。もしも患者がうつ病を再発したときでも、これらのトレーニングで改善したときのことを思い出しながら、再び取り組めば、状態を良くすることを期待できます」と、アルダーマン氏は指摘している。
この研究は精神医学誌「Translational Psychiatry」オンライン版に発表された。
Exercise and Meditation–Together–Help Beat Depression, Rutgers Study Finds(ラトガース大学 2016年2月10日)
MAP training: combining meditation and aerobic exercise reduces depression and rumination while enhancing synchronized brain activity(Translational Psychiatry 2016年2月2日)
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