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2016年03月28日
糖尿病性腎症の重症化を予防するために連携協定 糖尿病学会など
厚生労働省、日本医師会、日本糖尿病対策推進会議の三者は、糖尿病性腎症の重症化を予防するプログラムを全国に広げるため、連携協定を締結した。
透析が必要となる糖尿病患者を減らすために、かかりつけ医と専門医との連携を強化し、自治体とも連携する体制づくりを全国に広める。モデルケースとなるのは、広島県呉市と埼玉県の取り組みだ。
透析が必要となる糖尿病患者を減らすために、かかりつけ医と専門医との連携を強化し、自治体とも連携する体制づくりを全国に広める。モデルケースとなるのは、広島県呉市と埼玉県の取り組みだ。
地域の医師会とかかりつけ医、専門医が連携
厚生労働省、日本医師会、日本糖尿病対策推進会議の三者は、糖尿病患者の重症化を予防する取り組みを全国に広げるため、「糖尿病性腎症重症化予防に係る連携協定」を締結した。
日本医師会会長の横倉義武氏(日本糖尿病対策推進会議会長)と、日本糖尿病学会理事長の門脇孝氏、日本糖尿病協会理事長の清野裕氏、塩崎恭久・厚生労働大臣らが3月24日に、連携協定締結に調印した。
重症化のリスクが高い患者を見つけだし生活習慣の改善を指導したり、受診を勧めたりする地方自治体の事業を支援するのが柱。事業を実施する上での手順を示したプログラムを近く作成し、各自治体に配布する。
政府は医療費抑制に向けた国民の健康増進に力を入れており、糖尿病の重症化予防もその一環。厚労省は、医師会の協力を得て、自治体が地区医師会や地域の身近なかかりつけ医、糖尿病専門医との協力関係を築きやすい環境を整える。
人工透析に要する医療費は1兆8,400億円
厚生労働省の2012年国民健康・栄養調査によると糖尿病が強く疑われる人は950万人に上り、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)は約1,100万人に上る。両方を合わせると約2,050万人に上ると推定されており、その増加ペースは加速している。
糖尿病は、幅広い年齢層で発症し、さまざまな病態を起こす疾病だが、自覚症状が乏しいために放置されていたり、あるいは治療を中断する人が多くいる。
糖尿病合併症による腎不全になった場合、透析治療が開始される。週3回程度の透析による定期通院が必要となり、患者の時間的拘束や身体的・社会的制限は大きく、患者と家族のQOL(生活の質)の低下をもたらすことになる。日本透析医学会の調査によると、2014年12月時点の透析患者数は32万448人。また、透析医療費は年間500〜600万円に上り高額だ。
厚生労働省が発表した2013年度の国民医療費は40兆610億円、そこに占める透析医療費は4.5%に達する。全国健康保険協会が2010年に発表した「人工透析に関する分析」によると透析患者の医療費は平均月額47万9,000円。単純計算では人工透析に要する医療費は1兆8,400億円に上る。
国レベルで「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定
こうした現状に鑑み、糖尿病対策に積極的に取り組む必要があるとの共通認識により、日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の三者が中心となり、「日本糖尿病対策推進会議」が2005年に設立された。
その後、「日本糖尿病対策推進会議」には活動趣旨に賛同した団体が加入し、日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本歯科医師会を「幹事団体」と位置づけ、健康保険組合連合会、国民健康保険中央会、日本腎臓学会、日本眼科医会、日本看護協会、日本病態栄養学会、日本健康運動指導士会、日本糖尿病教育・看護学会、日本栄養士会、日本理学療法士協会などを「構成団体」として、新たな体制で幅広く活動している。
また、各地域においても都道府県などで糖尿病対策推進会議が立ち上がり、地域の実情に応じた取り組みが行われている。
今回の協定締結により日本医師会、日本糖尿病対策推進会議、厚生労働省は、「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を定め、これにもとづき三者は次の取組を進める。
広島県呉市 糖尿病性腎症の重症化を予防、人工透析を減少
糖尿病は自覚症状なく進行するため、治療を受けないままにしておくと、糖尿病性腎症など重大な合併症を併発するほか、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすおそれがある。重症化すると多額の医療費がかかる。未受診者、治療中断者に医療機関を受診してもらうことが合併症の防止や将来の医療費適正化につながる。
糖尿病性腎症の重症化を予防するために、糖尿病の発症を早期に発見し、かかりつけ医と専門医との間で十分な連携をはかり、生涯を通じての治療を継続することが必要となる。かかりつけ医と糖尿病専門医は患者の病状を維持・改善するため、必要に応じて紹介、逆紹介を行うなど連携して患者を中心とした医療を提供する。
糖尿病性腎症重症化予防プログラムのモデルケースとなったのは、広島県呉市と埼玉県の取り組みだ。
広島県呉市ではレセプトデータを統計的に分析し、糖尿病性腎症患者のうち人工透析導入前段階にある患者に対し、通院先の医療機関と協力しながら、個別保健指導を提供する取組みをしている。具体的には、対象患者に対しテキストなど教材の配布や低タンパク・減塩メニューの料理教室、さらには呉市が委託する疾病管理ナースによる面接や電話による指導を行っている。
糖尿病性腎症で通院中の患者へ、主治医や看護師が協力し、疾患への自己管理能力を高める学習プログラムを提供する地域連携システムを、市町村国保が中心となってつくり運用している。その結果、きめ細かい疾病管理サポートが長期間にわたり可能となり、患者のHbA1c(血糖)とeGFR(腎機能)が改善した。
こうした取り組みにより、糖尿病性腎症の重症化を予防でき、人工透析の導入患者を減少できることを証明した。医師、看護師、医療保険者などとの連携によるアプローチが、患者自身の考え方や行動様式の変化を引き起こし、患者自身の自己管理能力を向上できることを示した。
埼玉県 重症化予防プログラムの全県拡大へ
埼玉県では2014年に、特定健康診査やレセプトのデータを活用して、糖尿病が重症化するリスクの高い患者が人工透析に移行するのを防止するため、「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を開始した。
糖尿病性腎症による新規人工透析患者の10年間の伸び率は、全国は1.7倍なのに対して、埼玉県は2.0倍になっていた。全県での糖尿病重症化防止対策の導入が必要だった。
県では糖尿病有病者のおよそ3分の1が医療機関を未受診であり、また糖尿病の重症化による人工透析導入者が全国平均を上回るペースで増加していた。このため、県と埼玉県国民健康保険団体連合会(国保連)とが協力して市町村を支援する事業を開始した。
プログラムでは、市町村が事業主体となり、リスクの高い患者や、治療を中断している患者に受診勧奨をしている。2014年度には19市町で医療機関への受診を勧奨する文書を送付し、重症化が進んでいる人には電話や訪問による再度の勧奨を行った。受診勧奨に応じた参加者に対し、保健師などが食事や運動などの生活習慣を改善する支援を行った。
その結果、2年以内に透析導入になる可能性の高かった糖尿病腎症3b期以降の患者に対して、尿蛋白を大幅に減少させ、透析導入を阻止することができた。今回の取り組みを通して、医療機関と行政保健師が連携・協働し、地域ぐるみで生活に根ざした指導を実践することで、糖尿病の重症化予防、透析予防が可能であることが示された。
県では各地区の医師会との連携を深め、地域の特性や医療資源に応じた体制作りを整えながら、2016年度からの全県展開を目指している。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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