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糖尿病3分間ラーニング
「HbA1c7%未満」が目標になった理由 大規模研究で明らかに
2015年05月29日

第58回日本糖尿病学会年次学術集会
 日本や欧米諸国で行われている大規模臨床研究では、糖尿病の治療を進歩させるさまざまな成果が得られている。大規模臨床研究を成功させるために、多くの糖尿病患者が協力している。
 「糖尿病の合併症を抑えるために、良好な血糖コントロールが必要」「糖尿病の治療目標はHbA1c7.0%未満」「糖尿病患者や予備群は、適切に治療しないと心血管や脳血管の合併症が増える」といった説明がよく聞かれる。

 これらは、過去に行われた大規模臨床研究によって明らかにされたエビデンス(根拠)をもとにしている。米国で行われた「DCCT」や、英国で行われた「UKPDS」という大規模臨床研究によって、糖尿病は1型も2型も厳格な血糖管理が重要であることが示された。糖尿病合併症を防ぐためにより良好な血糖管理を目指すという今日の治療ガイドラインは、これらの研究によって決定付けられたといえる。
血糖コントロールにより糖尿病合併症は抑えられる
 大規模臨床研究は、病気の予防方法や治療方法などの有用性を評価するため、多数の患者を対象にデータを集めて分析する研究だ。

 良好な血糖コントロールが、網膜症、腎症、神経障害といった細小血管合併症を抑えるために必要であることが、北米で実施された1型糖尿病を対象とした「DCCT」(1983〜93年)という大規模臨床研究で明らかになった。

 さらに、「DCCT」の終了後に約11年間観察した「EDIC」という臨床研究が行われた。強化インスリン療法をしないで10年間治療しその後強化インスリン療法に切り替えた集団と、最初から強化インスリン療法を行った集団を比較した。

 その結果、DCCT終了後に緩めの血糖コントロール群と同じ程度の血糖コントロールになったとしても、10年後の細小血管合併症の発症率は、最初から強化療法を行った集団の方が4割低下することが判明した。

 英国で実施された「UKPDS」(1977〜97年)や、日本の「熊本スタディー」(1987〜96年)でも同様の結果が得られた。

 「熊本スタディー」では、2型糖尿病において厳格な血糖コントロールにより細小血管合併症の発症、進展を抑えることができることが明らかになった。また、HbA1Cが6.9%未満、空腹時血糖値110mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満を達成すれば、細小血管合併症を予防できることが確かめられた。

 2013年に発表された糖尿病の「血糖コントロール目標」は、「熊本スタディー」の成果を受けて制定された部分が多い。
 2型糖尿病患者を対象にした「UKPDS」では、強化療法を一定期間続けた集団とそうでない集団を比較した。治療期間終了時点では心血管疾患の発症率、総死亡率に差はなかったが、10年後には強化療法を行った集団の心筋梗塞発症率が15%、脳卒中発症率が9%、総死亡率が13%、それぞれ減少した。
糖尿病のレガシー効果 血糖コントロールの開始は早ければ早いほど効果的
 こうした大規模長期研究の結果、早期からの徹底した血糖値管理の効果は長く続くと報告され、糖尿病は早期発見・早期治療が重要であることが証明された。合併症の抑制効果は、細小血管合併症だけでなく、「DCCT」や「UKPDS」の研究期間中には有意な抑制効果を示すことができなかった心筋梗塞や脳卒中などの大血管合併症でも認められた。

 良い血糖コントロールの効果は糖尿病合併症に対して、長期的にみて次第に効果があらわれてくる。逆にみると、血糖コントロールが不良の状態がしばらく続いた後に治療を強化しても、コントロール不良の期間を補うのは容易でないことも分かる。

 早い時期からの良好な血糖コントロールは、長期的な合併症の抑制効果があることから、この長期的な影響は「レガシー(遺産)効果」や「メタボリックメモリー」と呼ばれている。

 糖尿病診断の早い時期から最低10年間、きちんと血糖コントロールをすれば、レガシー効果によって心筋梗塞や脳梗塞のリスクを減らすことができ、生活の質の低下を防ぐことができる。レガシー効果を念頭に置いて治療をすれば、10年後、20年後の健康を手に入れることができる。
「重症低血糖」が糖尿病治療の障害に
 しかし、厳格かつ急激な血糖コントロールはむしろ危険である場合もある。北米で行われた「ACCORD」(2003〜2008年)は、心血管疾患の危険因子を有する、すなわち合併症が進行している2型糖尿病患者を対象にした研究だ。

 参加した患者を、厳しい目標値(HbA1c6.4%)を設定した「強化療法群」と比較的緩やかな目標値(HbA1c7.5%)に設定した「標準療法群」の2つに分け、その後の経過を観察した。

 その結果、標準治療群に比べ、強化治療群で総死亡が約22%増加するという結果になり、この試験は中止された。それまで、血糖値を低くコントロールすれば糖尿病合併症を抑えられると考えられていたので、逆に死亡が増えてしまったのは想定外だった。

 強化療法群では薬物療法で無理やりHbA1cを下げようとしたため、「重症低血糖」や体重増加を引き起こし、結果的に緩めの血糖コントロール群よりも死亡率が上昇するという結果になったと考えられている。低血糖は糖尿病治療でしばしばみられる合併症であり、良好な血糖コントロールを実現する上で大きな障害になる。

 「ACCORD」では、重症低血糖が心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを誘因したために総死亡が増加した可能性がある。すでに心血管疾患のリスクが高くなっている患者では、低血糖を繰り返すような急激な血糖コントロールはむしろ危険であることが示された。
合併症予防のための目標は「HbA1c7%未満」
 この研究によって、より良い血糖コントロールを目指すために、(1)重症低血糖をきたさないようにしながら個々の患者に応じた治療が重要、(2)糖尿病合併症の発症や進行を抑えるためには脂質異常症や高血圧治療も重要、(2)食事療法と運動療法による生活習慣の改善は糖尿病治療に不可欠、といったことが明らかになった。

 糖尿病の血糖コントロール指標では、合併症予防のための目標は「HbA1c7%未満」と定められている。

 また、適切な食事療法や運動療法だけで血糖コントロール達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用がなく達成可能な場合には「血糖正常化を目指す際の目標」としてHbA1c6%未満を目指すことを推奨し、また低血糖などの理由で治療が難しい場合には「治療強化が困難な際の目標」としてHbA1c8%未満を目標に掲げられている。

第58回日本糖尿病学会年次学術集会

[ Terahata ]
カテゴリー :糖尿病の検査  2015年    医療の進歩  

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