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2014年07月18日

画期的な治療法を開発中 1回のタンパク質の注射で血糖値が下がる

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医療の進歩
 糖尿病の画期的な治療法の開発が進められている。「FGF1」と呼ばれるタンパク質を活用する治療法で、マウスによる実験では血糖値が下がることが確認された。ヒトを対象とした試験の準備が進められている。
FGF1が糖尿病によるダメージを抑制 インスリン抵抗性を改善
 FGF1は「繊維芽細胞増殖因子」とも呼ばれ、ヒトや動物の体の細胞の成長において重要な役割を担うタンパク質だ。広範囲な細胞や組織の増殖や分化の過程を促進する重要な機能をもっている。

 米カリフォルニアにあるソーク研究所の研究チームは、糖尿病のマウスの筋肉にFGF1を注射して、血糖値が劇的に低下させることに成功した。この研究は、科学誌「ネイチャー」に発表された。

 過体重の糖尿病マウスにFGF1を投与したところ、長時間のトレッドミルでの運動をしないでも、正常な代謝機能を取り戻し、血糖値が低下し、体重が減少した。1回の注射で血糖値は2日以上、正常値の範囲におさまったという。

 FGF1による継続的な治療によって、インスリン抵抗性も改善した。FGF1は、アデイポネクチン量を増やすことが確かめられた。

 アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される善玉のアディポサイトカイン。インスリン感受性を高め、インスリンの作用を高め血糖値を下げることから、糖尿病の治療予防への活用が期待されている。

糖尿病治療のブレイクスルーになる可能性
 食事で脂肪や炭水化物を摂り過ぎると、過剰なエネルギーの蓄積を引き起こし、糖尿病、心臓病など、肥満に関連するさまざま疾患をもたらす。FGF1はその脂肪の燃焼を促している。

 標的となる細胞がインスリンが効きにくい状態にあるのが「インスリン抵抗性」だ。インスリンの作用によって糖を取り込む最大の組織は、体を動かす筋肉である骨格筋で、健常者では、肝臓を通過して全身で利用する糖の約7割を骨格筋が取り込む。ところが、血糖コントロールが悪い状態にあると、骨格筋での糖の取り込みが減る。

 FGF1を注射した糖尿病のマウスは、血糖降下作用が18〜24時間であらわれ、その作用は48時間持続した。「糖尿病のマウスにFGF1を注射すると、血糖値が劇的に下がり、正常化することを確かめました。FGF1には、体重増加を防いだり、心臓や肝臓の機能障害を抑制する効果もあります」と、ソーク研究所のマイケル ダウンズ博士は言う。

血糖値の上昇を自動車メーターで表した図。血糖コントロールの不良の人の体では血糖値が上昇しているが、FGF1を投与することで、血糖値は標準値まで下がる。
 2型糖尿病は、繊維芽細胞増殖因子とその受容体とは関連が深いことは、過去の研究でも指摘されている。FGF1は血管形成や細胞分裂において大きな役割を果たしていることが知られている。

 FGF1の生産は難しくないので、FGF1を使った治療法が実用化したとき、治療費を安くできるのではないかとしている。

 「FGF1に関する研究は始まったばかりで、血糖値を下げる作用メカニズムについてはまだ不明の点は少なくありません。しかし、FGF1の代謝に関する研究に、道は大きく開かれています。近い将来に、治療に利用できるようになる可能性があります」と、ダウンズ博士は述べている。

One injection stops diabetes in its tracks(ソーク研究所 2014年7月16日)
Protein may help control diabetes symptoms(NHS 2014年7月17日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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