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2013年10月09日
メトホルミンの可能性 がんの死亡リスクを低減

メトホルミンは世界でもっとも広く利用されている糖尿病治療薬で、米国の同薬の調剤件数は2010年に4,800万件を超えている。
メトホルミンの特徴は、インスリン分泌促進作用はないが、それ以外の幅広い膵外作用を併せもつ薬剤という点だ。メトホルミンは肝臓における糖新生の抑制、筋肉など末梢での糖利用の促進し、腸管からのグルコース吸収を抑制することで、血糖降下作用を示す。
メトホルミンは、1950年代から使われており、長い歴史をもつ治療薬だが、1970年代にビグアナイド薬であるフェンホルミンによる乳酸アシドーシスが報告され問題となり、日本ではメトホルミンの用法・用量が一部制限されるようになった。しかし1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンを使った大規模臨床試験が欧米で実施された。
その結果、メトホルミンは、これまで広く使用されてきた経口糖尿病薬であるSU剤と比較して、体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善する効果があるなど、メリットがあることが明らかになった。また、メトホルミン服用者での乳酸アシドーシスの発生頻度は、フェンフォルミンに比べて低いことも明らかになった。
多くの研究者は、メトホルミンは副作用が少なく、使用実績が多く、さらに後発医薬品でも入手可能なために安価であることから、最善の選択肢のひとつだと結論している。
メトホルミンのがん抑制効果が注目されたのは、同薬を服用していた糖尿病患者の中にがんに罹患する例が少ないという観察研究が発端だった。
「Journal of Clinical Oncology」に発表された今回の研究は、イスラエル、RabinメディカルセンターのDavid Margel氏らが、カナダのオンタリオ州の67歳以上の糖尿病男性で後に前立腺がんを発症した3,800人強を対象とした。
研究開始時点で約3分の1がメトホルミンを服用しており、他の患者は別の糖尿病薬を利用していた。メトホルミン服用期間(中央値)は、前立腺がんの診断までは19ヵ月、診断後は約9ヵ月だった。
約4年間の追跡期間中、メトホルミンを使用していた患者は、がん診断後の服用期間が6ヵ月延びるごとに前立腺がんによる死亡リスクが24%低減することが判明した。
糖尿病治療薬のメトホルミンに抗がん効果があることはかねてから指摘されていた。2012年には、米シカゴで開かれた米国がん研究学会(AACR2012)で、前立腺がんおよび膵がんに同薬が有効とする臨床試験結果が初めて報告された。
関連情報メトホルミン服用の患者 癌死・発癌とも減少 国立国際医療研究センター
メトホルミンの効果と安全性を再評価
「ビグアナイド薬の適正使用に関する勧告」を公表 日本糖尿病学会
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