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2013年07月05日

1型糖尿病のワクチンを開発 β細胞減少を抑える新たな治療法

 1型糖尿病を予防する新しいワクチンの研究開発を、米スタンフォード大学の研究チームが進めている。研究は開始されたばかりだが、自己免疫を抑えてインスリンを分泌するβ細胞を保護する治療法が、近い将来に実現する可能性がある。
β細胞を破壊する免疫細胞を抑える治療
 1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が自己免疫によって破壊されることで発症する。この免疫作用を抑えてβ細胞を保護できれば、1型糖尿病の新たな治療法になると考えられている。

 ワクチンは通常は、病原体のウイルスや細菌がもっている病原性を弱めたもので、これを予防接種すると、その病気に自然にかかった状態とほぼ同じ免疫力がつく。

 しかし、開発が進められているのは、体全体の免疫メカニズムを損なわないようにしながら、β細胞を攻撃する特定の免疫細胞の働きのみを抑えることを目標としたワクチンで、通常のワクチンとは逆の働きをする。

 「1型糖尿病の特徴のひとつは、膵臓のβ細胞を破壊する免疫作用です。この免疫作用を抑える治療法が求められています」と、米スタンフォード大学医学部のローレンス スタインマン教授(小児神経学)は話す。

 「免疫作用を全て抑える治療を行うと、病原体による感染症や、がん細胞を駆逐する正常な免疫反応も阻害されてしまいます。このワクチンは、β細胞を破壊する免疫細胞のみを抑えるように設計されています。1型糖尿病をターゲットとするはじめてのワクチンです」(スタインマン教授)。

 免疫反応において、「T細胞」は免疫を調節する司令塔として役割を果たしている。T細胞は、細胞表面のマーカー分子として「CD4」か「CD8」のどちらかを発現している。

 このうちCD8細胞は、ウイルス感染細胞などを異物として認識し、排除する役割を果たしている。1型糖尿病は、CD8細胞が正常なβ細胞に対して過剰に反応し、攻撃を加えてしまうことで引き起こされる疾患だ。

 体内でインスリンを作れる唯一の細胞である膵臓のβ細胞では、インスリンが合成される前段階の物質である「プロインスリン」が合成されている。新たに開発されたDNAワクチンは、プロインスリンに作用するCD8細胞のみに反応し、その働きを特異的に抑える。

残存するβ細胞がインスリンを分泌
 スタインマン教授ら研究チームは、1型糖尿病患者80人を対象に、この新型ワクチンの臨床試験を行った。12週にわたり週に1回のワクチン投与を行った。

 患者を5グループに無作為に分け、うち4グループは異なる量のワクチンを投与し、1グループにはワクチンを投与しなかった。そして、全ての患者のCペプチド値を測定した。Cペプチドはプロインスリンが分解されるときに発生するペプチドで、インスリン分泌能の指標となる。

 研究チームは、Cペプチド値をワクチン接種の5週後、15週後、6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後、18ヵ月後、24ヵ月後に測定した。それぞれ経口ブドウ糖負荷試験を行い、ブドウ糖投与後30分、60分、90分、120分の血糖値を測定した。

 その結果、プロインスリンに目標を定めたCD8細胞は、ワクチンを接種した患者で減少しており、β細胞を破壊するのを阻止する作用をしていることが確認された。

 また、ワクチンを接種した患者では、Cペプチド値が低下しなかっただけでなく、上昇を示した患者もいた。これは、自己免疫による破壊を免れた残存するβ細胞が、インスリンを分泌していることを意味している。

 「免疫システム全体を破壊しないようにしながら、膵臓のβ細胞を破壊する特定の免疫細胞のみをシャットダウンする治療が可能であることが示されました。試験では副作用が示されなかったのことにも希望がもてます」(スタインマン教授)。

 ただし、治療効果が高かったのは、もっとも高量のワクチンを投与した患者であったなど、課題も残されている。「実用化するまでに、さらに研究が必要です」と、スタインマン教授は話す。

 この研究は、小児糖尿病研究財団(JDRF)やアイアコッカ財団などが資金提供して行われている。

DNA ‘reverse’ vaccine reduces levels of immune cells believed responsible for type-1 diabetes, study shows(スタンフォード大学 2013年6月26日)

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[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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