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2013年05月31日
運動療法の最新情報 運動との上手な付き合い方

糖尿病の運動療法には、▽血糖コントロールの改善、▽心肺機能の改善、▽脂質代謝の改善、▽血圧の低下、▽インスリン感受性の増加など、さまざまな効果がある。多くの恩恵をもたらす運動療法だが、実際に取り組んでいる糖尿病患者は少ない現状が、第56回日本糖尿病学会年次学術集会(5月16〜18日、熊本市)のシンポジウム「運動療法の今後の展望」で発表された。
糖尿病患者の運動療法の実施率は50%程度
日本糖尿病学会は、佐藤祐造・愛知学院大学教授を中心に「糖尿病運動療法運動処方確立のための調査研究委員会」を立ち上げて、2008年に運動療法の実地調査のためのアンケート調査を行った。糖尿病患者がどれぐらい運動をしているかということと、指導する立場の医師がどれぐらい指導しているかということなどを、全国規模で調査した。その結果、糖尿病患者の運動実施率は自己申告でおおよそ50%程度であることが判明した。
調査であきらかとなったのは、通動療法の指導率の低さだ。初診糖尿病患者に対して食事療法を「ほぼ全員に指導する」と返答した医師は全体の70〜80%程度であったのに対して、運動療法では40%程度にとどまった。糖尿病の療養計画書で「指導箋を作成して運動を指導している」と回答したのは、専門医でもわすが9%だった。さらに、患者が運動していない、医療者側が運動指導をしていない理由は、「十分な時間をとれない」がもっとも多かった。
佐藤先生らは2011年に糖尿病診療に関わるスタッフ向けに「糖尿病運動療法指導マニュアル」を刊行。運動の適応と禁忌、実際の行い方、注意点・評価方法、運動療法を続けるコツ、安全で効果的・持続性のある運動療法とその指導法など、運動療法指導のエッセンスをマニュアルとしてまとめた。
「運動の実施率を100%に引き上げるために、医療者と患者の双方が対策しなければなりません。大切なのは、生活スタイルにあわせて運動プログラムに組み込むことです。毎日少しずつでも、できるだけ歩くような運動を取り入れて継続することが大切です。日常生活が多忙で、特に運動を行う時間がない場合、エレベーターの代わりに階段を使うなど、生活習慣のなかに運動を組み込むよう指導していく必要があります」と強調した。
有酸素運動は全身持久力を高める
運動療法で改善が期待されるもののひとつは「全身持久力(最大酸素摂取量)」だ。全身持久力はウォーキングや水泳、自転車こぎなど有酸素運動を実施することで維持・向上できる。国立健康・栄養研究所の澤田亨先生は、全身持久力と2型糖尿病の関係を調査した研究の成果を紹介した。
4,747人の男性を対象に体力測定を行い、その結果で対象者を全身持久力の「低い群」、「やや低い群」、「やや高い群」、「高い群」の4群にグループ分けした後、全員を14年間追跡し、各グループ別に糖尿病に罹患した人数を比較した。
2型糖尿病もがん死亡も、いずれも全身持久力が高い群は危険度が低下することがあきらかになった。すべての死因を含んだ総死亡や高血圧についても同様の結果になった。また、全身持久力が維持・向上した人たちは全身持久力が低下した人たちと比較して、2型糖尿病に罹患する危険性が低下していた。
全身持久力を向上するための運動として、高齢者には中等度の強度の運動を30分、可能であれば毎日行なうことが推奨されている。最適な運動のひとつがウォーキングだ。ウォーキングは他の運動よりも比較的簡便で安全というメリットがある。ウォーキングを行なうことによって日常生活動作が改善したり生活の質が向上したりするだけでなく、2型糖尿病や高血圧、老年病の予防・改善に有効であることが多くの研究によって確認されている。
[ Terahata ]
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