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2012年06月04日
時間変化がインスリン作用に影響 東大が解明
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糖尿病を発症してまもない人ではインスリンの追加分泌量が減少する一方で、基礎分泌量が増加している傾向があることや、糖尿病患者では15分周期の振動成分が失われていることが確かめられている。
ヒトの体の細胞では、複雑で多くの情報処理が行われている。細胞外では、ホルモンや成長因子、栄養などさまざまな環境の変化が起こる。それらの情報は細胞内に受容体などを介して伝わっていき、最終的に細胞の応答を導く。細胞内に情報を伝える経路は「シグナル伝達経路」と呼ばれ、一般にリン酸化酵素などによる、分子を組み合わせて情報を通信する方法が用いられる。
近年、黒田教授らはこの分子の組み合わせ以外に、分子の活性や量などの時間変化(波形)によっても生物の多様な応答をコントロールできるとの多重通信システムの考え方を、世界に先駆けて提唱してきた。
画像は、この多重通信システムを図で示したもの。ラジオでは番組の情報を電磁波の周波数や振幅に多重に埋め込む。これらの多重の情報を分離して、番組の情報を取りだす(上図)。
同じように生物も生理作用の情報も、インスリンの波形に周波数や振幅に多重に埋めこまれている。インスリンの標的臓器はインスリンの周波数や振幅に埋め込まれた多重の情報を分離して、下流の応答を情報に応じて活性化するという(下図)。

AKTとは、細胞内シグナル伝達経路のひとつ。主に、細胞の増殖・成長をコントロールしている。特に肝臓・筋肉・脂肪などのインスリンの標的細胞では、インスリン刺激により活性化され、糖や脂質の代謝、タンパク質合成を制御している。
インスリン分泌の生理作用を制御する分子メカニズムは不明の点も多い。インスリンの15分程度の周期的刺激は、一定刺激よりも肝臓からの糖新生抑制や筋肉などによる糖の取り込み促進の効果が強いことが知られる。肝臓からの糖新生抑制は阻害されるが、脂肪の合成は促進される現象も、糖尿病の初期ではよくみられる。従来の研究では、こうした現象がなぜ起こるのかうまく説明できていなかった。
今回の研究では、インスリンの複数の時間波形がAKTに埋め込まれ、AKTがこれらの情報を多重に通信することで下流の分子を選択的に制御し、インスリンの異なる生理作用が生みだされることがあきらかになった。
研究チームは、「分子が生物の現象を制御する」という従来の生物学の考え方に加え、「分子の(活性化)波形によっても生物の現象が制御できる」という考え方を示した。今回の研究成果を用いることで、インスリン作用や糖尿病病態の一見矛盾する現象のいくつかを説明できるという。
黒田教授らは「刺激の時間波形によって選択的に応答が制御できるという研究結果は、持続時間や投薬回数を考慮した薬剤開発が重要であることを意味している」と述べている。
「細胞内シグナリングの多重通信システム」―インスリン時間波形による選択的制御システムを解明―(東京大学 大学院理学系研究科 2012年5月25日)
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