ニュース

2012年04月27日

インスリンポンプ療法の療養環境が充実 2012年診療報酬改定

 2012年度の診療報酬改定で、CSII療法に関連する診療点数が引き上げられた。国内でまだ普及が限定的なCSII療法について、今後はインスリンポンプのサポート体制や指導フォローアップも充実するとみられる。
診療点数の引き上げ 認められた有用性

 「持続皮下インスリン注入(CSII)療法」は、カテーテル(柔らかく細いチューブ)を皮下に患者が自分で簡易的に留置し、携帯型インスリン注入ポンプを用いて、インスリンを持続的に注入する治療法。インスリンポンプを用いたCSII療法には、インスリンの生理的分泌により近いインスリン投与が可能になるというメリットがある。従来の注射器による頻回注射からも解放され、インスリン療法を生活スタイルに柔軟に合わせることができるようになり、患者のQOLも向上すると考えられている。

 1983〜1993年に1型糖尿病患者約1,400人を対象に行われたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)では、インスリン療法群の約半数でCSII療法が実施されており、良好な血糖値コントロールを続けることが糖尿病合併症の発症・進行の防止につながることが示された。DCCT終了後に1994年より開始されたEDIC(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)でも、DCCTで強化療法だった群ではその後の期間中も合併症が少ない状態が続くことが確かめられた。*1

 CSII療法が有効であることはさまざまな研究で示されている。インスリンの基礎分泌(ベーサル)注入量をプレプログラムできる高性能なインスリンポンプが利用しやすいこともあり、欧米ではあらゆる年齢層でインスリンポンプが使われている。

 現在、日本で使われているメドトロニック社が提供する「パラダイムインスリンポンプ712/722」には、便利なプログラム機能が備わっている。ベーサル注入ではインスリンの投与量を30分毎に0.05単位/時で設定できる。また、ボーラス注入では食事などでインスリンの追加が必要な場合にボタンを押すだけの簡単な操作で必要なインスリン量を0.1単位刻みで投与できる。その他、運動、シックデイ時など普段と行動パターンが異なる場合には、一時的にベーサル量を変更したり、食事の時間や内容に合わせてボーラスの注入速度をプログラムできる機能なども備わっている。*2

 メリットの多いインスリンポンプだが、海外に比べ日本ではCSIIを用いたインスリン治療を受ける患者の割合はまだまだ低いのが現状だ。課題となっていたのは医療コストだ。インスリンポンプ療法は2000年に保険適応の項目に正式に加えられた。しかし、患者が自分で操作するインスリンポンプの使用法や、インスリンの調整など、医療機関が患者指導や教育にかかる労力に対し、診療報酬の加算点数は不十分である傾向があった。このことが、インスリンポンプの普及を妨げる要因の1つとなっていた。

 2012年度の診療報酬改定では、「間歇注入シリンジポンプ加算」として、これまで1500点だったものが「1 プログラム付きポンプ」(2500点)、「2 1以外のポンプ」(1500点)」に変更された。「在宅自己注射指導管理料」は2つの項目に変更され、インスリンポンプを用いた「複雑な場合」はこれまで820点だったのが1230点に引き上げられた。

 両方を合計すると、インスリンポンプの機種によっては、患者の自己負担は4230円/月の増額になる。患者にとっては負担増となってしまうが、医療機関ではよりインスリンポンプ導入のための体制構築がより容易となり、今後は患者へのサポート体制や指導フォローアップも充実するとみられる。

2012年度診療報酬改定
第2部 在宅医療-第2節 第1款 在宅療養指導管理料
改定前改定後
【在宅自己注射指導管理料】
820 点
【在宅自己注射指導管理料】
1 複雑な場合 1,230点(新)
2 1以外の場合 820点

注 別に厚生労働大臣が定める注射薬の自己注射を行っている入院中の患者以外の患者に対して、自己注射に関する指導管理を行った場合に算定する。

医科診療報酬点数表に関する事項
(7) 「1」複雑な場合については、間歇注入シリンジポンプを用いて自己注射を行っている患者について、診察を行った上で、ポンプの状態、投与量等について確認・調整等を行った場合に算定する。この場合、プログラムの変更に係る費用は所定点数に含まれる。

【間歇注入シリンジポンプ加算】
1,500点
【間歇注入シリンジポンプ加算】
1 プログラム付きポンプ 2,500点(新)
2 1以外のポンプ 1,500点

注 別に厚生労働大臣が定める注射薬の自己注射を行っている入院中の患者以外の患者に対して、間歇注入シリンジポンプを使用した場合に、第1款の所定点数に加算する。

医科診療報酬点数表に関する事項
(1) 「間歇注入シリンジポンプ」とは、インスリン又は性腺刺激ホルモン放出ホルモン剤を間歇的かつ自動的に注入するシリンジポンプをいう。
(2) 「プログラム付きシリンジポンプ」とは、間歇注入シリンジポンプのうち、基礎注入と独立して追加注入がプログラム可能であり、また基礎注入の流量について、1日につき24プログラム以上の設定が可能なものをいう。
(3) 入院中の患者に対して、退院時に区分番号「C101」在宅自己注射指導管理料を算定すべき指導管理を行った場合は、退院の日1回に限り、在宅自己注射指導管理料の所定点数及び間歇注入シリンジポンプ加算の点数を算定できる。この場合において、当該保険医療機関において当該退院月に外来、往診又は訪問診療において在宅自己注射指導管理料を算定すべき指導管理を行った場合であっても、指導管理の所定点数及び間歇注入シリンジポンプ加算は算定できない。
(4) 間歇注入シリンジポンプを使用する際に必要な輸液回路、リザーバーその他療養上必要な医療材料については、所定点数に含まれる。

出典:平成24年度診療報酬改定について(厚生労働省)
より効果的な治療に向けたCGMへの期待

メドトロニックi Pro2
 持続グルコースモニタ(CGM)は、腹部などの皮下組織に専用のセンサを装着し、連続的に皮下の組織間質液中のグルコース濃度を記録する検査方法。この機器で測定した値は、血糖値とよく相関することが確認されているため、血糖値変動をプロファイリングするものとして利用される。

 血糖自己測定(SMBG)は1日の測定回数が限られ、測定時前後の傾向が確認できないため、1日を通しての総合的な変動傾向を把握することが難しいという課題がある。SMBGだけでは食後の高血糖を見逃したり、特に自己測定が困難な夜間就寝中の無自覚性低血糖症状や早朝に血糖値が上昇する「暁現象」といった変動をみすごすおそれがある。

 CGMにより、5分ごとにグルコース濃度を記録し、昼夜を問わず1日を通しての高血糖、低血糖などの変動パターンを知ることができる。各患者の血糖プロファイルに対する理解を深め、より適切で安全な糖尿病治療を行うための指標となることが期待されている。

 CGMで得られた血糖変動パターンに、インスリンを24時間連続して注入するCSIIを組み合わせ参照し、特に血糖変動が激しい不安定な1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善できるようになる可能性がある。

 日本では、2010年より「メドトロニックCGMS-Gold」が販売され、2012年4月23日より「メドトロニックiPro2」が発売される。

 「メドトロニックCGMS-Gold」は、測定を中断することなく、測定中のデータを取り出して参照することが容易で、入院での使用に適している。測定中のトラブルに対してアラームによりその場で検知する機能も付いており、入院時は医療従事者が即座にも対処可能だ。一方、「メドトロニックiPro2」は、小型・軽量化されており、操作性・装着性が高く、より外来での使用に適している。防水性もあり、多くの患者が普段どおりの生活をしながら測定が可能なことが特徴となる。

写真提供:日本メドトロニック

  1. Intensive Glucose Control Halves Complications of Longstanding Type 1 Diabetes(米国国立衛生研究所 2009年7月)
    http://www.nih.gov/news/health/jul2009/niddk-27.htm
  2. 日本メドトロニック(株)ホームページ
    http://www.medtronic.co.jp/

平成24年度診療報酬改定について(厚生労働省)

インスリンポンプに関する詳しい情報は下記サイトをご覧ください。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲