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2011年07月06日

「肥満から糖尿病」をストップ 糖尿病発症のカギとなる“AIM”

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医療の進歩
 食事や運動などの生活習慣が同じで、同じくらいの肥満であっても、2型糖尿病を発症する人と発症しない人とに分かれる。血中の「AIM」という蛋白質の働きが糖尿病や動脈硬化の進展に大きく影響することを、東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授らの研究チームがつきとめた。糖尿病などの生活習慣病の根本的な治療法や治療薬の開発につながる成果。
肥満から生活習慣病への進行を阻止する画期的な薬剤開発に期待
 AIMは、当初は細胞のアポトーシス(細胞死)を抑える分子として宮崎教授が発見した。その後の研究で、さまざまな作用があることがあきらかになった。AIMは細胞内で脂肪のもととなる物質ができるのを妨げたり、脂肪を分解して減らしたりする作用があるという。


「Cell Metabolism」表紙
 食生活の乱れなどが原因で、体に中性脂肪が大量にたまり肥満が進行すると、血中のAIMが増え脂肪細胞の中に取り込まれる。AIMが脂肪分解を引き起こし、遊離脂肪酸が放出され、マクロファージという免疫細胞を呼び寄せる。この免疫細胞がサイトカインという炎症性物質をつくる。その結果、脂肪組織や全身に慢性炎症があらわれ、インスリン作用の障害(インスリン抵抗性)が起こる。この状態が続くと糖尿病や動脈硬化に進む。

 通常のマウスでは、肥満にともない血中のAIMの濃度が上昇し、脂肪組織に蓄積した中性脂肪を分解することで、体全体の肥満の進行が妨げられるという。肥満が進展するとAIMがたくさん作られ、脂肪滴を溶かすことで“これ以上太るな”という作用が引き起こされると考えられている。

 AIMの働きを抑えられていると、肥満が亢進しても糖尿病や動脈硬化に進行しないという。研究では、AIMを作れなくしたマウスに高カロリーの餌を与え、過度に肥満させても、脂肪組織に免疫細胞が呼び寄せられることはなく、慢性炎症も起こらず糖尿病も発症しないことを確かめた。このマウスでは動脈硬化も抑えられていた。

 宮崎教授は、AIMをコントロールすることが糖尿病などの生活習慣病の抑制に効果的だとしている。「血中のAIM濃度が低い肥満の初期では、AIM自身により肥満を抑制できる。肥満が進行し血中AIM濃度も高くなっており、糖尿病や動脈硬化の危険性が高い状況では、AIM阻害剤を使い発症を阻止できる」と述べている。

 研究は「米国科学アカデミー紀要」電子版7月4日発行号に発表された。

脂肪組織の肥満進行から慢性炎症が起こるプロセスとAIMの関与

肥満から糖尿病や動脈硬化への橋渡しメカニズムを解明―脂肪融解タンパク質AIMの阻害による、肥満から生活習慣病への進行を阻止する画期的な薬剤開発の可能性―(東京大学大学院医学系研究科 2011年7月5日)
Macrophage-Derived AIM Is Endocytosed into Adipocytes and Decreases Lipid Droplets via Inhibition of Fatty Acid Synthase Activity
Cell Metabolism, Volume 11, Issue 6, 479-492, 9 June 2010.

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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