糖尿病の医療費・保険・制度

糖尿病にまつわる入院医療費

下北沢病院 糖尿病センター/足病センター 糖尿病センター長 富田益臣先生
協力:東京都済生会中央病院 担当部長 河合俊英先生

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はじめに

 糖尿病患者さんは、糖尿病教育やインスリン治療の導入時といった、血糖コントロールを目的とした入院以外にも、心筋梗塞や足潰瘍などさまざまな合併症により入院にいたることが多くなります。日々の血糖コントロールをしっかり行い合併症を予防することは、糖尿病の改善はもちろん、医療費の軽減にもつながります。
 今回は、モデルケースをご紹介しながら、糖尿病患者さんの入院医療費について考えてみましょう。

 

※下記のモデルケースは、いずれも「DPC(診断群分類)による包括評価制度」を導入した500床程度の総合病院に入院した場合を想定しています(2021年1月時点の診療報酬制度に基づく)。また、医師の治療方針や患者さんの状態、医療機関によって、治療内容や医療費は異なりますのでご了承ください。

 従来の、診療行為ごとの点数をもとに計算する「出来高方式」とは異なり、入院患者さんの病名や症状をもとに、手術の有無や処置などの内容に応じて厚生労働省が定めた「診断群分類点数表」に当てはめて、1日あたりの入院医療費を計算する方式です。この入院医療費には、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料などが含まれますが、一部含まれないものもあり、その場合の費用や、手術やリハビリなどは従来どおりの出来高方式で計算されます。
■ケース1

2型糖尿病の患者さんが2週間の教育入院を行った場合

患者さん:50歳 男性 2型糖尿病
経過:2年前から血糖降下薬1剤による治療を行ってきたが、高血糖が改善せず、HbA1c12%となり教育入院となった。
入院後経過:入院中は食事療法を見直し、血糖コントロールが改善。これまでの血糖降下薬にDPP4阻害薬が追加され退院した。

請求内容 保険点数 3割負担*1の場合の請求額 1割負担*1の場合の請求額
医学管理料など 720点 2,160円 720円
投薬料/処方料 3,320点 9,960円 3,320円
入院料 300点 900円 300円
DPC包括 42,067点 126,201円 42,070円
その他 450点 1,350円 450円
食事負担金など 17,020円 17,020円
合計 157,591円*2 63,880円*2

*1自己負担の割合について、詳しくはこちら
*2医療機関の窓口で支払った自己負担額が上限を超えている場合は、高額療養費制度を利用すると、超えた金額が支給されます。詳しくはこちら

■ケース2

1型糖尿病を発症し、インスリン導入のために9日間入院した場合

患者さん:40歳 男性 1型糖尿病
経過:これまで健康であったが、健康診断で高血糖を指摘され、その後も改善なく、体重減少やHbA1c11%と血糖が上昇。治療のために入院となった。
入院後経過:入院後はインスリン4回注射を導入し退院した。体重減少があったため入院中に胃カメラを施行した。

請求内容 保険点数 3割負担の場合の請求額 1割負担*1の場合の請求額
医学管理料など 470点 1,410円 470円
投薬料/処方料
在宅自己注射管理料
2,798点 8,394円 2,798円
検査料 1,450点 4,350円 1,450円
画像診断料 250点 750円 250円
入院料 295点 885円 295円
DPC包括 33,117点 99,351円 33,117円
食事負担金など 10,580円 10,580円
合計 125,720円 48,960円
■ケース3

急性心筋梗塞で心臓のカテーテル治療を行い、1週間入院した場合

患者さん:45歳 男性 2型糖尿病
経過:糖尿病のほか、高血圧、脂質異常症あり。血糖降下薬3剤による糖尿病治療を行っていたが、HbA1cは8%台、BMI28で肥満を指摘されていた。通勤時に歩いて数分で胸の痛みを自覚するようになり、心電図で心筋梗塞が疑われたため緊急入院となった。
入院後経過:入院当日に心臓カテーテル(冠動脈造影)検査を行い、右冠動脈に狭窄を認めたため経皮的冠動脈形成術(カテーテルを使って冠動脈を広げる手術)を行った。手術後は心臓リハビリテーションを行い、1週間で退院となった。

請求内容 保険点数 3割負担の場合の請求額 1割負担*1の場合の請求額
医学管理料など 775点 2,325円 775円
投薬料/処方料 872点 2,616円 872円
手術料 72,248点 216,744円 72,248円
リハビリ 2,240点 6,720円 2,240円
入院料 17,418点 52,254円 17,418円
DPC包括 27,742点 83,226円 27,742円
その他 450点 1,350円 450円
食事負担金など 5,400円 5,400円
合計 370,640円 127,150円
■ケース4

足の壊疽(えそ)と閉塞性動脈硬化症で25日間入院した場合

患者さん:70歳 男性 2型糖尿病
経過:閉塞性動脈硬化症(足の動脈硬化が進み血管が詰まったり細くなって血行障害が起きた状態)で通院治療を行っていた。左足の親指の陥入爪(深爪などにより爪の端が皮膚に刺さって炎症を起こした状態)から親指の壊疽(皮下組織や筋肉組織の壊死)が進行したため入院した。
入院後経過:左下肢血管造影と血管拡張術を行い退院となった。

請求内容 保険点数 3割負担の場合の請求額 1割負担の場合の請求額
医学管理料など 1,140点 3,420円 1,140円
投薬料/処方料 1,542点 4,626円 1,542円
手術料 665,501点 199,503円 66,501円
検査料 278点 834円 278円
リハビリ 1,830点 5,490円 1,830円
入院料 570点 1,710円 570円
DPC包括 66,550点 199,650円 66,550円
食事負担金など 26,680円 26,680円
合計 437,290円 163,550円
まとめ

 このように、インスリン導入や血糖コントロール目的での入院は3割負担の場合で12~16万円、心臓や足のカテーテル治療などの場合は35~45万円の入院医療費がかかり、合併症を発症した場合の医療費は高額であることがわかります。
過去の報告ですが、脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈疾患の治療を行った場合は、糖尿病がある患者さんは糖尿病のない患者さんと比べて入院期間や入院医療費が長期で高額であったという報告もあります1)

 また、糖尿病患者さんが大血管の合併症を起こした場合に求められる金銭負担は、入院医療費だけにとどまらず、退院後の外来医療にもつながります。合併症を起こした患者さんの医療費(脳血管障害46.9万円/年、虚血性心疾患54.2万円/年、末梢動脈疾患72.7万円/年)は、合併症のない患者さんの医療費の1.5~2倍に及んでいたという報告もあります2)

 すなわち、合併症を発症した場合は、以降は年余にわたり大きな経済負担を強いられることが予想されるため、発症予防がなによりも重要です。そのためには血糖コントロールはもちろんですが、動脈硬化の早期発見・治療も非常に大切だといえるでしょう。


1) 田中 麻, 当金 美, 加藤 隆, 伊藤 裕, 阿部 眞, 安徳 進, 三船 瑞, 目黒 健, 慶田 毅, 新海 泰, 縄田 浩 (2014) 大血管症を発症した糖尿病患者の入院期間と入院医療費. 糖尿病 57:425-430.
2) 田中 麻, 伊藤 裕, 押切 甲, 安徳 進, 阿部 眞, 竹内 雄, 三船 瑞, 当金 美 (2012) 2型糖尿病患者の外来医療費に関係する因子についての検討. 糖尿病 55:193-198.

2021年03月更新

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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