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2023年09月21日

「腸内細菌」が糖尿病や肥満のリスクを低下 糖尿病から守る菌も 腸内の善玉菌を増やす方法

 糖尿病から保護する働きをしている腸内細菌がみつかった。

 糖尿病や肥満との関連が深いインスリン抵抗性を改善する、腸内細菌やその代謝物も発見された。

 和食に欠かせない漬物やヨーグルトなどの発酵食品を食べることが、善玉菌を増やすのに効果的である可能性がある。

 善玉菌を増やすための、2つの方法が紹介されている。

腸内細菌が糖尿病や肥満などにも関与

 人の腸内には、500~1,000種類、100兆個と推定される腸内細菌が生息している。さまざまな種類の菌が一面に広がる様子がお花畑に見えることから、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれている。

 腸内フローラを構成する腸内細菌は大きく、▼有害な物質をつくる悪玉菌、▼良い働きをする善玉菌、▼それ以外の日和見菌に分かれる。

 腸内フローラのバランスの乱れは、さまざまな体の不調や、ウイルスなどに対する免疫、2型糖尿病や肥満、炎症性腸疾患、がんなどにも関わっていると注目されている。

糖尿病から保護する働きをする腸内細菌

 米国のシダーズ サイナイ医療センターの研究によると、あるタイプの腸内細菌が2型糖尿病のリスクを高めている可能性がある。糖尿病から保護する働きをしている腸内細菌もあるという。

 腸内細菌のひとつであるコプロコッカス属は、消化や吸収をサポートしたり、免疫機能に関わる働きをする善玉菌とみられている。ほとんどの人はコプロコッカス属の菌を保有しているが、人によって多かったり少なかったりする。

 研究グループは、腸内にこのコプロコッカス属の菌を多くもっている人は、インスリン感受性が高く、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きやすい傾向があることを突き止めた。

 研究グループは、40歳~80歳の米国人を2018年から追跡しており、この研究ではそのうちの352人のデータを分析した。28人が糖尿病、135人が糖尿病予備群と判定された。

食物繊維などをエサに短鎖脂肪酸を産生

 ヒトの体に共生する細菌などの微生物は、総じて「マイクロバイオーム」と呼ばれている。

 「マイクロバイオームを適切に調整できれば、全体的な健康を高められる可能性があります。腸内細菌叢について、血圧から糖尿病、体重管理まで、健康とのさまざまな関連が解明されてきています」と、同センターの内分泌遺伝学研究室の所長であるマーク グダルジ氏は言う。

 これまでも、野菜や穀類などに含まれる食物繊維やオリゴ糖は、腸内細菌により発酵が起き、「短鎖脂肪酸」が産生され腸内環境を改善しているという研究が報告されている。

 短鎖脂肪酸は、エネルギー源として利用されたり、腸の健康に役立ち、基礎代謝の向上、さらにはインスリン感受性などにも関わっていると考えられている。

インスリン抵抗性を改善させる腸内細菌などを発見

 日本の理化学研究所や東京大学などは8月に、2型糖尿病や肥満と関連の深いインスリン抵抗性を改善する、腸内細菌やその代謝物を特定したと発表した。

 腸内細菌のうちアリスティペス属の菌に、インスリンが働きにくくなるインスリン抵抗性を改善させる効果があることを発見。この菌の働きについて、これまでよく分かっていなかった。

 研究グループは、日本人を対象に、(1) 肥満の人(BMIが25以上)、(2) 糖尿病予備群(空腹時血糖 110mg/dL以上、もしくはHbA1c 6.0%以上)、(3) それ以外の人の計306人を対象に、統合オミクス解析と呼ばれる、腸内細菌を網羅的に解析する新しい手法で調べた。

 発見したこの菌を肥満のマウスに投与したところ、インスリン抵抗性の指標であるインスリンの血糖低下作用が改善した。さらに、腸管および血液中の単糖類の量が減少した。

 健康に有用な働きをする菌などの生きた微生物は、「プロバイオティクス」と呼ばれている。「研究成果をもとに、新しいプロバイオティクスやインスリン抵抗性の治療薬を創出することが期待されます」と、研究者は述べている。

漬物などの発酵食品を食べると腸内の善玉菌を増やせる

 京都大学などの研究では、和食に欠かせない漬物などの発酵食品を食べることも、糖尿病や肥満の予防・改善に有用である可能性が示された。

 漬物などの発酵食品の発酵に用いられる乳酸菌であるL.メセンテロイデスによる代謝産物は、体に有用な働きをする短鎖脂肪酸の産生を促し、2型糖尿病や肥満などの予防・改善に役立っていると考えられる。

 それまで漬物のような発酵食品の発酵に用いられる乳酸菌が、代謝産物を産生していることは知られていたが、発酵食品を食べることで期待できる生理機能や、腸内細菌叢に及ぼす影響などはよく分かっていなかった。

 納豆・味噌・漬物・ヨーグルト・乳酸菌飲料・チーズ・キムチなどに含まれるプロバイオティクスの腸内での働きも注目されている。

腸内の善玉菌を増やす2つの方法

 フランスのコート ダジュール大学消化器・栄養部のステファン シュナイダー教授によると、腸内フローラを健康にして、2型糖尿病を予防・改善するために、以下の2つのことが役立つと考えられる。

善玉菌のエサとなる食物繊維を積極的に食べる
腸内の良い菌の栄養源となる「プレバイオティクス」

 野菜・穀類・大豆・海藻・イモ類・果物などに含まれる食物繊維は、消化されずに腸まで届き、善玉菌の栄養になる。また、オリゴ糖も、ビフィズス菌などの善玉菌の栄養源となり、それらを増やす効果がある。

 食物繊維やオリゴ糖を含む食品を積極的に取り入れることで、腸内の善玉菌を増やし、その働きを活発にし、腸内環境を改善することを期待できる。

 食物繊維は、水に溶ける「水溶性」と水に溶けにくい「不溶性」がある。このうち水溶性食物繊維には、糖質の吸収をゆるやかにして食後血糖値の急な上昇を抑えたり、コレステロールなどの吸収を遅らせる働きもある。

ヨーグルトや漬物などの発酵食品を食べる
腸内の良い菌を増やし悪い菌を減らす「プロバイオティクス」

 ヨーグルトや漬物などの発酵食品には、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が多く含まれている。これらの食品を摂取することで、腸内の善玉菌を増やせる。

 発酵食品に含まれる善玉菌の効果として、整腸作用(有害菌の排除、便秘・下痢の改善)、血圧降下作用、免疫調節によるアレルギー抑制作用なども報告されている。

 なお日本食は、ヨーグルトやチーズなどの発酵食品に加えて、納豆・味噌・醤油・お酢・ぬか漬けなど、発酵食品が豊富にあるのが特長のひとつだ。

Gut bacteria may play a role in diabetes (シダーズ サイナイ医療センター 2023年1月3日)
Butyrate-Producing Bacteria and Insulin Homeostasis: The Microbiome and Insulin Longitudinal Evaluation Study (MILES) (Diabetes 2022年8月12日)
Bacteria treatment reduces insulin resistance, protects against diabetes (理化学研究所 2023年9月1日)
Gut microbial carbohydrate metabolism contributes to insulin resistance (Nature 2023年8月30日)
Host metabolic benefits of prebiotic exopolysaccharides produced by Leuconostoc mesenteroides (Gut Microbes 2023年1月5日)
Lifestyle management for type 2 diabetes: it's all about what's inside (健康のための腸内細菌叢研究 2022年11月30日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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